第5話 種を明かせば
種を明かせば簡単で、全くどうでもいい話だった。
事の起こりは、誕生日という特別な日にも拘らずバイトを入れている吉沢先輩を憂えた暇人のバイト仲間が、堅物の吉沢先輩をからかうついでに祝ってやろうと、バイト先での誕生日会を画策したことに端を発する。
店長は、この作戦を了承し控室での小さな誕生日会が決定したわけであるが、不幸にも当日にバイトを入れていた俺と三宅さんはメインの仕掛け人として抜擢されるに至った。
ドッキリなど嫌いだし、仕掛け人などやったこともなかったから、是非とも降板させて欲しかったが、店長から定時帰りを確約されたために、俺は不承不承で仕掛け人の役を拝したわけだ。
それにしたって、事前の打ち合わせでは、サプライズにショートケーキを爆弾に見立てて解体作業じみたことをやるなどとは聞いていなかった。俺に与えられていた役割は、単に時間になったら休憩と称して吉沢先輩を控室に誘導するだけだったはず。
どこで作戦に変更が生じたのかと思ったが、それはすぐに、何となく察しがついた。
集うバイト仲間たちの見知った顔の奥にぽつりと佇む一人の女性がいた。
爆弾などという小手先のサプライズが霞むほどのサプライズが用意されていたのだ。
その女性は、吉沢先輩を取り囲み、ゲラゲラと腹を抱えて笑う不埒ものや、我先にケーキを頬張ろうと皿とフォークをもってスタンバっているものや、SNSにこの惨状をアップしようとスマホを構えつつ店長に止められているものを押しのけて、吉沢先輩の前に躍り出た。
「良子さん――」
女性の姿を双眸に捉えた吉沢先輩が、夢見心地の口調でぼんやりとつぶやくと、一斉に周りの喧騒が消え失せた。そして、良子さんと呼ばれた女性が、一にも二にもなく、吉沢先輩の胴にタックルをかました。
「いやあ、あれは抱きついたんでしょ」
いつの間にか、俺の脇にまでやって来ていた三宅さんがイチゴを頬張りながら言った。
この場に集ったバイト仲間一同は、件の女性、良子さんの人目をはばからない情熱的な行動にしばし言葉を失ったものの、すぐに生来の調子の良さを取り戻して、口笛を鳴らしたり、冷やかしの言葉を浴びせたりして、大いに楽しみ始めた。
当の吉沢先輩はというと、初めは恥ずかしそうにしながら戸惑っていたが、自らの胸に納まる確かな存在を感じて思うところがあったらしく、神妙な顔つきをすると、えいやと言った感じで良子さんの背に腕を回して熱い抱擁を返した。
最早、二人の間に言葉はいらぬ。
互いに真実の気持ちに辿り着き、今まさに心を交わしたのだ。
俺は、その様子を横目で伺いながら、注目の薄くなったショートケーキのイチゴをかすめ取った。
そして、内心で叫ぶ。
――リア充、爆発しろ。
アルバイター ひょもと @hyomoto
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