第6話連戦

「初戦から強い相手だったな。疲れを残さなけりゃいいが。

ちょっと休憩室に様子を見に行くか。

あっそうだ。あいつにマッサージしてやってくれよ」

アレフは試合後のナルドを気に掛けていた。

「自分ですればいいじゃない。大事な自分のお金のために」

「野郎に揉まれるより、若くて綺麗な女性にしてもらった方が

いいに決まってるじゃねぇか。その後のやる気も

上がるってもんだろ。」

「いやよ。まぁ様子を見に行くのはいいけど。それにしても

他の試合は大した事ないわね。」

シード選手以外は駆け出しの若者がほとんどだった。

実戦経験も無い、新人のバトラークラスでは絶対的な経験が足りなかった。

実戦経験の豊富なアリナから見たら、ひよっこに見えても仕方なかった。

「そんな事言ったってよう、お前だって初めはあんなもんだろ。

試合には出なかったのか」

「試合に出るにも登録料金は掛かるし、名門の騎士の門下生が

優先的に出場するのよ。お金もコネのない当時の私には無理よ。

まぁ出てたら優勝候補位にはなってたかもね。

私は実戦派だから、試合だとどうだかわからないけど。」

選手の中には富豪のお坊ちゃまが記念に試合に出ることもある。

対戦相手の中にはお礼金と称して金銭を渡され、

怪我の無い様に場外に出して欲しい親から頼まれる選手もいるらしい。

勝ち進んでも更に強い相手にもっと酷い怪我をする

可能性が大きくなるので、負けてくれと言う親はいないようだ。

そんな理由もあり、予選の始めの内はあまり見れた物ではなかった。

休憩室に行ってみると息も整い、いつもと全く変わらない

ナルドが椅子に座り、落ち着いていた。

「その様子だと疲れも残ってなさそうだな。

でもあんまり飛ばし過ぎるなよ。体力がもたねぇぞ。」

「ゴランの訓練に比べればたいした事はない。」

「ひゃー。やっぱりそうか!じゃぁ俺の財産は安泰だな。

大船に乗って試合観戦と洒落込むとするかー。」

「まったくあんたはお金の事しか考えてないの?まぁいいわ。

この調子ならいい所まで行けそうね。でも油断しないで。」

「あぁ、分かった。」

「ったく。お前はぶっきらぼうというか、暗いというか

言葉が足りないというか、知性が足りないというか

もう少し喋ってたらどうだ。」

「あんた達を足して2で割ったら丁度よさそうね。」

「そんな事したら、器用さが半減しちまうよ。」

「特に問題も無さそうだし、戻りましょう。」

呆れて言う言葉もないとばかりに部屋を後にした。

ナルドは順調に2回戦、3回戦と、勝ち進んでいった。

初戦と比べるとあっさり試合が終わっている様子であった。

それだけ初戦の相手が強かったのだろう。

続いて準決勝が始まった。

「思ったより順調にここまで来たわね。」

「そうでなきゃ困るんだよ!俺はあいつの優勝に財産を注ぎ込んでるんだからな」

「はいはい。何度も聞いてるから分かってるわよ。」

「準決勝の相手はシードみたいだな。」

「話によると有名な騎士の弟子だそうよ。

今度はそう簡単にはいかないわね。」

アレフの反応を見ながらアリナは深刻そうな

表情と重苦しい口調で言った。

「何を言ってやがる。もっと仲間を応援しろ!

勝ち進んで貰わなけりゃあお前も困るだろう。

大会の優勝者がいる傭兵団となりゃ

仕事もあっちからやって来るってもんだ。

あぁ、だからナルドを勝たせてやって下さい。

炎の神プロメテウスよ。

大地の神ガイアよ。」

最後の方は完全に神への祈りになっていた。

アリナはアレフの反応を面白がりながら、

表情は曇らせたまま、舞台の横で準備をしている

ナルドの様子を覗っていた。

『特に緊張してる様子はなさそうね。』

これも眉を寄せながら心の中で呟いた。

だが本当にアリナは一つ懸念を抱いていた。

ナルドの戦い方はほぼ我流のそれである。

我流と言っては語弊があるかもしれない。

教わった相手が無手勝流だったのだ。

ゴランは戦場を渡り周り力を付けたと聞いている。

アリナ本人もその類であった。

『最近は正統なやり方もそれなりに覚えたけど。

ナルドにはそれ位しか教えられなかった。』

この心の呟きには本当に表情を曇らせていた。

力の差があれば問題ないが

実力が拮抗している場合に置いては正統派に分がある。

動きに無駄がない為余裕があるのだ。

それを覆すには相手を翻弄する素早さであったり、

相手を打ち負かす力であったりする。

技術ではなく実力、経験で補う必要があるのだ。

2人の思いをよそに試合が始まった。

準決勝となると観客もかなり増えていた。

やっと観戦出来る内容になったと言わんばかりに

野次や応援が盛んになり、

客席もかなり盛り上がっている。

ナルドの相手は国内でも人気を二分する騎士の弟子であった。

素直に応援する者もいれば

師匠の名を汚すなとからかい半分の者まで中々の人気であった。

その為ナルドからすると四面楚歌のような雰囲気になっていた。

それを気にする様子もなく舞台の端で準備をしていた。

「それにしてもアイツは神経が鈍いとかそういう問題じゃなさそうだな

感情って物自体を母親の腹ん中に忘れてきちまったらしい」

先程までの神頼みをすっかり忘れて

アレフははしゃぎ始めた。

「あの鉄仮面もこんな時には頼もしく見えるってもんだ。

いつもあれだと周りの気が滅入っちまうけど今回は

許してやらぁ。」

傍から聞いていると悪口にしか聞こえないが

本人は褒めているつもりのようだ。

そして、双方とも用意が出来て、舞台の対角に立ち、対峙した。

その時観客の応援が最高潮に達した。

試合開始の合図が鳴らされた。

静かな立ち上がりであった。

両者が少しずつ間合いを詰めていった。

お互い慎重に近づいていったので見ている方は

時間の流れが遅くなっているような感覚を

覚えるほどだった。

そのおかげが先程までの喧噪がまるで嘘のように

観客は静まり返っていた。

このまま時が止まってしまうかと思った瞬間

両者が動き出した。

まさに時間が止められ、動きを押さえられていた者が

突然動けるようになり、

堰を切ったように飛び出したような勢いであった。

まずは舞台中央で剣を交えたまま、

押し合うような形でお互いの力を測っていた。

体格は相手の方が一回り大きかったが、

ナルドはがっちり受け止めていた。

まだ全力は出していなかったが、大体の予想を立てる事が出来た。

力は相手の方が上のようだが

ジンを使った総合的力はナルドの方が少し強いようだ。

これはアリナの見解であった。

『戦いが長引けばジンを先に消耗し、ナルドが不利になる。』

分析しながら心中で呟いた。

「ナルド!一気に行けー!相手に息つく間を与えるな。」

これはアレフである。

彼も長期戦は危ないと感じたようだ。

アレフの言葉が聞こえた訳ではないが、

ナルドは激しく打ち込み始め、次第にその速度を

増していった。

相手は打ち返す事で精いっぱいな様子で

とても反撃が出来る状態ではなくなっていた。

ナルドの打ち込みの速度が最大になる少し前に

決着が着いた。

ナルドが相手の剣を高々と打ち上げ、舞台の端まで

飛ばしてしまった。

ナルドが剣を構えたまま、一歩前に出た。

そこで試合が終了した。

「参った。降参だ。」

相手の負けの宣言で終わった。

「すごい早さの打ち込みだった。完敗だ。

先輩との練習のようだった。同期の奴らには

負けた事は無かったのたが・・・。

しばらくはお前を目標にさせてもらう。

もう一度名前を教えてくれ。」

相手は一方的にまくし立てて来た。

試合直後でまだ興奮状態なのだろう。

「ナルドだ。」

「そうか。またやろう」

最後は言葉も少なく去って行った。

「かー!とうとう決勝まで進みやがった!

まぁそうでなきゃこまるんだがな。

この調子で優勝してくれー!

アイツ疲れちゃいねーかな。おい、やっぱり

マッサージしてやってくれよ。」

こちらも興奮気味のアレフである。

「放っておきましょ。気が散るだけよ。」

「なんて冷たい隊長だ。隊員があんなに

必死に戦っているっていうのに。あぁこりゃ

俺もこの先考えた方がいいかも知れんな。」

「それにしてもよくここまで来たわね。

ナルドが強いのか周りが弱いのか、

よく分からないけど。」

話の鉾先を変えながらアリナが応えた。

「そりゃ、両方だろうな。力じゃ敵わなそうだが

俺でも相手が出来そうな感じだったからな。」

「そうね。ナルドの打ち込みの速さは、

バトラーの中ではかなり速いと思うけど、

それでも私の方がまだ速いからね。」

「そうだな。しかも更にジンを使って速くなるしな。

ありゃまさに疾風って感じだよ。」

「戦士の駆け出しはやっぱりジンの使い方がいまいちね。」

「コツを掴めば大した事じゃねぇんだけどな。」

「ジンが直結する呪文系とは違うからね。」

そんな試合検分をしている間に決勝の時間になった。

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龍神伝説 @kulalabel

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