◇◇5
今でこそこの隊にも馴染めてきたが、最初の年はかなりキツかった。
正確には最初の半年。
それこそ今でこそ俺の相棒のような存在になっている彼女、
俺の経歴を知った奴は、皆同じく離れていった。
それは当然のことなのかもしれない。
なぜなら俺は影で"仲間殺し"と呼ばれているのだから。
おそらく、というかほぼ確実に「第三人工島の悲劇」を指しているのだろう。
あの戦闘で唯一帰ってきたパイロットである俺は、本土に帰るとすぐに大尉へと飛び級昇進をした。
それをよく思わない人もいる。
味方を犠牲にしてまで昇進することを選んだクズとされ、ついたあだ名が"仲間殺し"というわけだ。
そんな奴が自分の隊に入って来たら、嫌がるのはまぁ頷ける。
俺はそんな奴らの視線を気にしないようにするために、一心不乱に作戦へと参加していった。
けれど、いくらノーネームと戦闘を行えど、俺が死ぬのはまだ当分先のように感じてしまう。
半年経って気付けば、残っていたのは俺と如月だけだった。
隊員の集まらない俺と如月の隊は、ここ最近は作戦を受けられていなかったのだが、片桐と二ノ宮の二人の入隊でそれも終わる……わけもなく未だに受けられていない。
「俺達はいつになったら任務に行けるんだ?」
「まぁたまにはこういうのもいいんじゃないかな〜」
たまには、でもう二ヶ月過ごしたことに気づいているのだろうか。
まさか新入りの育成に二週間もかかるとは思っていなかった。
片桐の方は百歩譲ってまだ分かるが、二ノ宮の方は本当に論外だ。
まず仲間との連携が大切な戦場で、あいつはいつも真っ先に突っ込んでいく。
バーチャル空間での戦闘だからいいものの、二ノ宮は十回に一回は死んでいることになる。
逆に片桐は慎重過ぎるほどの性格で、一回も死んだことはないがその代わり一回も敵を倒したことがない。
「なぁお前もそろそろちゃんとした方がいいんじゃないか? 一応この隊の中では先輩になるわけだしさ」
「ん〜私はあんまりそういうの気にしないからな〜」
まぁそうだろうな。
この隊の名前は如月隊になっている。
隊長は俺になっているが、隊の名前まで俺の名前にすると、誰も入りたがらないので表向きはそうなっているのだ。
「あ! お疲れ様です! 今日も怖くなって上手く攻められませんでした。すいません……」
「いいか片桐。恐怖を持つことは悪い事じゃない。ただその恐怖を力の源にするのじゃなくて、恐怖に打ち勝つために力が湧いてくるんだ」
片桐の沈んでいた顔が、パァと明るくなる。
「は、はい! いつもご指導ありがとうございます!」
「ま、頑張れや」
どうやら片桐は戦うことを知らなさすぎるのかもしれない。
攻撃は当たっても致命傷にはならない程度の浅いもので、その頻度にしても普通の人よりもかなり低い。
俺は司令室へと向かう。
相も変わらず忙しそうな室内で、一番暇そうな男に声をかける。
「風間最高司令官殿、ポンコツパイロットがお呼びですよ」
「なぁ、いい加減その堅苦しい名前で呼ぶのはやめにしないか?」
こんなにも適当な男が、日本国の重要拠点の最高司令官になれるのだから驚きだ。
もっとも、人格を見なければ残してきた戦績はそれに至るものではあるのだが。
彼は元日本国直轄軍特別機動隊ギアパイロット、つまり俺達と同じような位置にいたのだ。
ノーネームの討伐数は二十を越え、パイロットの中でも伝説的な存在になっている。
直接会ったことのある人は、必ず一度その幻想を打ち砕かれてきた。
食生活は管理士がいないとめちゃくちゃ、トレーニングも気分で変え、上下関係をもろともしない自己主張の強さ。
この男がいるだけでその拠点、もしくは基地は大いに盛り上がる。
色々な意味で。
色々についてはあまり触れなくても分かる人には分かるだろう。
「そんなことよりもそろそろ一つくらい任務が回ってきてもいいんじゃないか? 少々歪な隊ではあるが決して火力不足ではないと思うんだが?」
「ふむ……確かに一理あるな。よし、何か易しめの任務を回してみよう。その成果次第で次を決める」
戦いの話になると二重人格を疑うほどに変わる所も、皆がついていく要因かもしれない。
何にせよ俺にはないカリスマ性を持っているところだけは、俺も尊敬しているのだが。
「ところでお前さん、二人の教育は進んでいるのか? 元から実力者の二人だからなもう終わってしまったのか?」
「……さっきまでの話を聞いててよくそれを聞けたな。いいぞ、俺達の訓練の様子見せてやるよ」
元々訓練の日だったこともあって、定刻通りにバーチャルトレーニングルームへ行くとすでに三人とも揃っていた。
時間通りに来るあたりちゃんとした兵士のように映るのだが、その実態は……
「よしそれじゃあ早速始めていくぞ」
「お〜!」
「また同じ訓練をやる気かしら? そろそろ私飽きてきたんですけど」
「僕にはできる僕にはできる,思い切って攻撃する、冷静に避ける、仲間の動きをよく見る……」
このバラバラ感にもそろそろ慣れてしまいそうな俺は、きっとおかしいのだろうな。
ありのままを見せるため、華炎には俺の胸ポケットに刺さっているペン型の小型カメラを通して見ていてもらっている。
これを機会に何か感じて、もっとまともな奴を連れてきてくれると大いに助かるのだが……
「全員準備はいいな? 今日はいつもよりもレベルを上げるから、連携が大事になる。各自肝に銘じておけ」
すっと目を閉じ、意識を集中させる。
目を開けた時はすでにギアの中。
頭で思い描いたままに動いてくれる大きな機体は、対ノーネーム戦闘の鍵になる。
最前線の立体兵甲《ギア》 笹霧 陽介 @Yosuke_120704
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最前線の立体兵甲《ギア》の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます