第3話 ショックな出来事

先輩と高橋先輩の並ぶ姿になれて、夏休みが終わった9月の事だった。

いつも高橋先輩と一緒に登校していた先輩が、付き合う前の時のように先輩の友達と登校して来た。

「?」

おかしいと思い、席に着いて隣の高橋を見ていると

「なんだよ」

そう聞かれる。

「高橋先輩…今日はお休み?徳田先輩と一緒じゃないの?」

心配で聞いた私に

「あぁ…姉貴?別れたよ」

と、高橋が軽く答えた。

「別れた?」

思わず聞き返した私に、高橋は面倒臭そうに

「優しいだけの男には、飽きたんだって」

とだけ答えた。


別れた?

優しいだけの男に飽きた?

何で?何で?

ショックで頭が回らなくなった。

朝、先輩は普通に笑ってた。

あんなに幸せそうだったのに…

あんなに仲が良かったのに…

ショックを受けてる私に、親友の石崎愛ちゃんが

「良かったじゃん。チャンス到来」

そう私に耳打ちしてきた。

でも…私の心は晴れなかった。

高橋先輩と一緒に居た先輩は、本当に幸せそうだった。

私は先輩をあんな風に笑顔に出来る自信は無い…。

先輩、悲しかったよね?

苦しかったよね?

自分の事より、先輩の気持ちを考える方が辛かった。

そんな夕方

偶然、先輩が一人で歩いているところに遭遇した。

「徳田先輩」

走り寄ると、先輩は振り向くと笑顔で

「江波、今帰りか?」

そう答えてくれた。

笑う先輩の顔に胸が痛む。

その時だった。

「おお!早速、新しい彼女か?」

徳田先輩の背後から、紺野先輩が走り寄って先輩の上に飛び乗る。

「馬鹿!そんなんじゃないよ」

怒って紺野先輩を剥がしていると、紺野先輩が私の顔を見た

「あ!お前、あん時の貧血女!」

そう叫んだ。

(貧血女って…)

唖然としている私に

「紺野、失礼だろう!ごめんね、江波」

と、何故か徳田先輩が私に謝罪して来た。

「あ…全然。ってか、何で徳田先輩が謝るんですか?」

私がそう言うと、紺野先輩が私の顔をじーっと見て

「何?俺に謝罪しろと?」

そう言って来た。

「そうは言ってません!ただ、失礼発言は徳田先輩じゃないくて紺野先輩なんだから、謝るのは紺野先輩ですよね?」

紺野先輩の言葉に反論した私を、紺野先輩はしばらくジーっと見た後、突然吹き出して笑い出した。

「お前、面白いな」

そう言うと、私の背中をバンバンと叩き出す。

「い…痛いです!ちょっと、止めて下さい」

紺野先輩から逃げるように、徳田先輩の背後に逃げた。

「何なんですか!先輩、この人、なんなんですか?」

叫ぶ私と

「お!先輩に反抗するなんて、生意気な奴だな!」

と言い返す紺野先輩。

そんな私達に挟まれて、徳田先輩が呆れた顔をして

「お前ら、じゃれるなら他でやれ」

そう呟いた。

「誰がこんな奴と!」

「誰がこんな人と!」

一緒に叫んだ私達に、徳田先輩が笑い出した。

「お前等、お似合いだと思うけど?」

って、悪気無く言って来た。

(お似合い?)

ショックだった。

何より、先輩にだけは言われたくない言葉だった。

先輩の言葉にショックを受けていると、先輩は私の頭をポンポンって軽く叩くと

「何か用事があったんじゃないのか?」

そう聞いて来た。

「ん?」

って、私の顔を覗き込んで来た。

私の気持ちを知らない先輩の瞳に、私の心が悲鳴を上げる。

どんなに近くなっても、この人の気持ちは私には届かない。

きっと、妹のような存在なんだろうな…。

分っていたけど…ショックだった。

でも、声が出なかった。

何か話したら、涙が溢れそうで…

私の表情に、紺野先輩が

「あ~、ごめん。俺が悪かった。」

そう叫び、突然私の目元を片手で塞ぎ歩き出した。

「徳田、こいつ借りるね~」

徳田先輩の有無も聞かず、紺野先輩が私の腕を掴んで私を裏庭へと連れて行った。

小さな竹林のある中庭で腕を放すと

「ごめん。お前、徳田が好きだったんだな」

そう言われた瞬間、涙が込み上げて来た。

「邪魔しないでよ~」

叫んで座り込んだ私に、紺野先輩は困った顔をすると

「ごめん。俺、そういうの分からなくて…」

そう言いながら、ハンカチを差し出して来た。

「要らない!」

ふんって横向いて叫んだ私に

「お前、本当に可愛くないな~」

そう呟くと

「あまり泣くと、益々ブスになるぞ」

って言って来た。

「ブスで悪かったな!」

泣きながら睨み上げた私を

「あ…嫌、ほら、泣き顔ってブスになるじゃないか」

おろおろしながら言う紺野先輩に、慰めてくれてるんだと気付く。

「(慰めるの)下手くそか!」

思わず叫ぶ私に

「俺は徳田と違って、どうしたら良いのか分かんね~んだ」

鼻の頭を掻きながら呟く紺野先輩に

「もう、良いです。無く気も失せた」

立ち上がった私は、紺野先輩が所在なさげに持っているハンカチを受け取り

「取り敢えず、借りときます。でも、許したわけじゃないですからね!」

そう叫んで歩き出す。

そして後日、紺野先輩が実は一年の女子から物凄い人気があるのだと知る事になる。



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Campfire 湖村史生 @Komura-1104

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