第2話 好きな人の好きな人
あの日、出会った先輩…徳田達臣先輩。
生徒会役員の議長さんで、部活は美術部の部長さんをしている。
男の人にしては細身で、学生服からでも華奢な身体が良く分かる。
少し男の人にしては髪の毛が長くて、漆黒の髪の毛と瞳がどこか中性的な雰囲気を醸し出していた。
でも、私の中ではやっぱり男の人で…。
私はあの日以来、先輩の姿を目で追うようになっていた。
幼馴染のお兄ちゃんが先輩と同じ学年だったので、ひっそりと聞いてもらって情報収集していた。
先輩は誰にでも優しいらしく、同学年でも密かに先輩を好きな人も居るらしい。
私は入学式で倒れた事で先輩の記憶に残っていたらしく、後日、偶然会った時に
「あ、入学式で倒れてた子だ」
って、先輩から声を掛けてくれた。
この日から、私は先輩に会ったら挨拶するようにした。
決して目立つタイプではないのに、私には先輩センサーが着いてるみたいで何処に居ても先輩を見付けられた。
笑うと子犬みたいになる顔も、考え事してる顔も、怒った顔も全部全部知れば知るほど大好きになった。
いつしか、先輩を思うと胸が苦しくなった。
2つ年上だから、来年の3月には卒業してしまう。
一緒にいられる期間の短さに、毎晩涙で枕を濡らした。
好きになるって…こんなに苦しいんだ。
幼いながらに、その気持ちに戸惑いながらも先輩を必死で追い掛けていた。
同じクラブに入る勇気が無くて、美術部の隣の新聞部に入部してしまう。
新聞部は生徒会にインタビューしたりも出来るので、先輩に近付くチャンスもあるかもしれないし、美術部の隣だから偶然会う確率が高いと考えて入部した。
私の居た中学は、校舎が3つに分かれていた。
一年生と三年生が使っている校舎が真ん中にあり、右側に2年生の校舎と給食室。
左側には1階に図書室、美術室と並び、その向いに木工室と調理室。
その先に細い通路があり、柔剣道室。
2階は職員室があり、反対側に理科室と実験室、社会科資料室。
3階に体育館となっていた。
私は事あるごとに、柔剣道室の途中にあるトイレに行くフリをして美術部の前を通ったりしていた。
でも、美術室を覗くと、いつも先輩の隣には2年生の女の先輩が並んでいた。
(彼女なのかな?)
って思いながら、モヤモヤした気持ちで2か月が過ぎた頃だった。
6月になり、冬服から夏服に衣替えした頃。
クラブで新しく作った新聞を印刷していた時、友達のほのかが
「あれ?徳田先輩じゃない?」
って、渡り廊下を歩いていると指さした。
「え?どこどこ?」
私が渡り廊下から下を見た瞬間、先輩の見た事のない笑顔が見えた。
誰かと話しているみたいで、相手が丁度植木で見えない。
誰と話しているんだろう?
そう思った時だった。
先輩が歩き出した隣に、長い髪の毛を三つ編みにしたお人形さんみたいな可愛い先輩が並んで歩き出した。
「え?」
一瞬にして目の間が真っ暗になった。
幸せそうに笑う先輩の顔を見て
「そっか…」
思わず口から出た言葉。
その人を見る先輩の顔は、大好きな人を見る顔だった。
気が付いたら、涙が溢れていた。
「美夜…ごめん」
先輩を見付けた友達が、泣きじゃくる私に謝って来る。
悪いのはほのかじゃない。
ただ…好きな人に好きな人が居たのを知るのは…、こんなに悲しいと知った。
苦しくて切なくて…、でも諦めきれなかった。
「好きでいるのは、良いですよね…」
私はその日から、渡り廊下で先輩が彼女と並んで歩いている姿をただ見守るだけになった。
そんなある日、掃除当番で渡り廊下を掃除していると、先輩と彼女さんが仲良く話をしている姿を見掛けた。
二人は仲が良くて、気付くといつも一緒に居た。
胸は痛むけど…先輩が幸せなら良いと思ってた。
そんな時、隣の席の高橋大地が
「げ!姉貴」
と呟いた。
「え!あの可愛い先輩、高橋のお姉ちゃんなの?」
思わず叫んだ私に
「可愛い?あいつが?あいつはな、女の仮面をかぶった性格は男だよ、男!」
そう言うと、見つからないように逃げ出そうとしていた。
「何で逃げるの?」
怪訝な顔で尋ねる私に
「見つかったら殴られるか蹴られる」
と高橋は答えると、コソコソと逃げ出していく。
(あんなに可愛いのに…性格が男?)
私は高橋の言葉を信じられず、聞き流していた。
ただ…、先輩の彼女の弟が隣の席って…
何の罰ゲームなんだろう?
悲しい気持ちにはなったけれど、私は先輩が大好きな人を嫌いにはなれなかった。
高橋のお姉ちゃんっていうのもあるけど、先輩が好きになった人だもん。
先輩は髪の毛が長い人が好きなのかな…
先輩は目がくりくりした人が好きなのかな…
高橋先輩を見る度「先輩の好きな人」として、いつしか私の中で憧れの人になっていた。
高橋先輩は友達が多くて、先輩と居ないときはいつもたくさんの友達に囲まれていた。
「可愛くて性格が良いなんて…、羨ましい」
私にはとうていなれない可愛らしい人。
二人の姿がいつしか、私の中では理想のカップルになっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます