Campfire

湖村史生

第1話 出会い~此処から全てが始まった

満開の桜が咲き乱れる中。

真新しいセーラー服を身にまとい、私は学校の先輩に

「入学おめでとうございます。」

と言われながら、赤い花の着いたりぼんを着けられる。

小学校時代、制服を着た中学生がやけに大人びて見えていた。

中学生になるのが何だか怖くて、入学式の前日は良く眠れなかった。

近隣の小学校3校が集まって中学校に通う。

知らない人ばかりのクラスだったらどうしよう?

先輩にちゃんと敬語で話せるかな?

緊張が先だって、ドキドキして眠れなかったのが悪かった…。

入学式の最中、吐き気に襲われた。

(どうしよう…)

吐きそうになる口元を押え、その場にうずくまりそうになった時

「大丈夫?」

優しい男の人の声。

顔も上げられず、首を必死に縦に振る。

「無理しないで。少し自分で歩ける?」

私を気遣う声に促されるように、私はその人の肩に手を回される。

「ゆっくりで良いからね」

優しい声がそう言って歩き出した時

「貧血か?」

と、体育教師らしき人の声と同時に抱えあげられた。

気持ちが悪くてなすがままになっていると、体育館の裏にある踊り場の椅子に下ろされた。

この中学校の体育館は3階にあり、そよぐ風が頬を撫でた。

ゆっくり顔を上げると、体育館の踊り場から桜並木が見える。

ほっと息を吐いて、私は少し目を閉じた。

爽やかな空気と、春の匂いに段々と気持ちが落ち着いて来た。

どのくらい目を閉じていたのだろう?

「大丈夫?」

最初に声を掛けてくれた人の声がして、「ハっ」と目を開けた。

すると、目の前に顔がドアップが見えた。

その時、私は心配してくれている優しい漆黒の瞳に恋に堕ちた。

「や~らしい~。徳田、お前何してんの?」

すると背後から声が聞こえて来る。

その声に慌ててその人は振り向くと

「顔色見てただけだろう!変な事いうな!」

「キスしてたりして~」

「アホか!一年生相手に、そんな気持ちになるか!」

言い合う声に、心がしぼむ。

(そっか…私は先輩から見たら子供だよね)

何だか突然、自分が子供なのが悲しくなった。

そんな私の気持ちを察したのか

「アホな先輩が変な事言ってごめんね」

落ち込んだ私の頭を、ポンポンって先輩の大きな手が頭を撫でた。

その時、初めて男の人の手を見た。

大きくてゴツゴツしていて、女性とは明らかに違う大きな手。

意識した瞬間、私の心臓が大きく音を立ててドキドキと高鳴った。

小学校時代、女の子達が集まって「誰が好き?」って話で盛り上がっていたけど、私には「好き」の意味が分からなかった。

お菓子が好き、猫が好き、犬が好き、家族が好き…

それ以外の好きの意味が理解出来なかった。

好きって…楽しいものだと思ってた…。

みんなが楽しそうに「恋バナ」をしている姿を、私はいつも何処か他人事のように感じていた。

まさか、こんなに呆気なく恋に堕ちるものだとはこの時の私にはわからずにいた。





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