底辺実況者

@ballo8o8n

第1話 俺が実況者になった理由

「好きなことで生きていく」

 これは誰もがかなえたいと望む夢だろう。

 これは、そんな夢を叶えた一人の男の物語。


 第一話 俺が実況者になった理由


 あれから何分が経過しただろう。画面に表示される無数のコメントを、俺は一つ一つ丁寧に読んでいく。これがこの仕事の一番のやりがいであり、一番の楽しみだ。

 俺は片桐澄春かたぎりすばる。高校三年生で、‛‛YouTuber”だ。自分で言うのもおかしい話だが、かなり人気のゲーム実況者だ。YouTuberとは、動画投稿サイト

 、YouTubeに動画を投稿して、その動画に企業広告をつけることにより、報酬を貰うという、今どきの仕事だ。Youtuberはチャンネルと言われるマイページに動画を投稿できる。つまり、YouTubeチャンネルとは一つの会社で、YouTuberはその会社の社長みたいなものだ。

 

俺がYouTubeに動画を投稿し始めたのは二年前、高校一年生の頃だ。ゲームが大好きだった俺は、ふとみたYouTubeのゲーム実況をみて、今までにない感動を感じた。‐自分の好きなことをして、ここまでひとを楽しませることができるのか、と。それから俺は、学校から帰ってくるなりパソコンに向かって動画を作り始めるようになった。最初の頃は当然、誰もみてくれることもなく、ただただYouTubeの底辺にいた。みてくれているのは、リアルの友達がほとんど。友達以外でいつもみてくれてる人はほぼいなかった。

 それでも俺は楽しかった。

 自分のやりたいことをやりたいようにやって、面白ければそれ相応の評価と報酬がきて、面白くなければ意見や批評がくる。こんなにも面白い仕事を俺は一度も見たことがなかった。

 全世界の同じ趣味を持った者同士が、ああでもない、こうでもないと交流できる仕事が今までにあっただろうか。


 いいや、なかった。


老若男女問わずできるこの仕事が、俺の理想であり、後の天職となる…




「はいどうもこんにちはばるーんです!」

元気の良い挨拶とともに高三の俺の仕事が始まる。

ゲーム実況っていうのは、その名の通り、ゲームをプレイし、実況する。そんな職業だ。自分のやりたいことができる。それを仕事にできる。これがゲーム実況者、基YouTuberの大きな特徴だ。

俺、いや、YouTuber・ばるーんはみんなで楽しくゲームをプレイする系実況者だ。そのみんなとは、俺の仕事仲間であり、友達でもある三人の愉快な仲間たちだ。


アキヒメ(女)――ばるーんのチャンネルの看板娘であり、俺の古くからのリスナー《ファン》である。おしとやかで超絶可愛い声の持ち主で、顔を公開(いわゆる顔出し)はしていないものの、めちゃくちゃ美人と噂されている。彼女のおかげで今の俺があると言っても過言ではない。みんなからはアキ(名付け親は俺)と呼ばれている。

エルヴィス(男)――ばるーんのチャンネルの初代メンバーであり、十二年の付き合いだ。このチャンネルのボケ担当で、こいつがいなきゃチャンネルは成立しない。こいつ自身もチャンネルを持っていてそちらもかなりの人気があるとか。呼び名はエル。

美由愛ミユア(女)――もう一人のヒロイン。かなり肉食。もはや男。やんちゃかつ天然というキャラの濃さから、そこそこな人気を誇る(アキには負ける)。名前は本名らしいが、発音のしづらさと小動物チックな感じから、ミャアと呼ばれている。

メンバー紹介はこのくらいにしておこう。


いつもこのメンバーとだらだら話しながらわいわいゲームをしている。



時は戻って高校一年生の春。いつも通りド底辺を突っ走る俺に、一つのコメントがきた。

「良ければ私と一緒にゲームしませんか?」

突然のことに驚きながらも、

「もちろんです!」

と返信した。

アキヒメと名乗った彼女は、いつも俺とゲームをしてくれた。何回かゲームをしているうちに仲良くなり、連絡先を交換し、通話しながらゲームするようになった。

やべぇ。めっちゃ可愛い。

彼女は、デレデレするキモイ俺にやさしく微笑んでくれた。

そして一緒に動画を撮り始めた。

この頃だったか。徐々に人気が出始めたのは。

昔からの親友、エルヴィスとアキヒメと三人で動画を撮ってたっけな。


しばらくして学校から帰ると、一通のメールが届いた。

まさかそのメールが今これから起こることを教えていたなんて、あの頃の俺は、考えもしなかった。




底辺実況者 第一話 俺が実況者になった理由 終

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