「お姉ちゃんの大切な子なんだよね。いまから会いに行く子って」

 あの日、私は晴之と森に佇む隠し小屋で会う約束していた。けれど、風邪を引いてしまい、外出することはできなかった。それでも、必死にベットから這い出ようとする私を見て、妹の海は嬉しそうに嗤った。

『愛されたい』

 この世のすべてから愛されたいと欲する彼女にとって、私の想い人もその例外ではなかった。

 そのためなら、どんな自分も演出した。

「わたしがお姉ちゃんの代わりに会ってきてあげるよ。たしか、お姉ちゃんみんなの前では『ぼく』だったよね。わたしと分けるための『ぼく』」

 同じ顔が目の前で狂気に染まった。

 私のお気に入りのリボンをつけながら、走り去っていく妹は、これまでにないほど。

 晴之。

 私は心の中でどうか気づいてと祈り続けた。

 妹の死を告げられたのは、泣きつかれた目を擦りながら、ベッドから降りた時だった。

「空ちゃんが、空ちゃんが」

 親は私たちを見分けることはできなかった。そのためのリボンだった。

 両親はこの地を離れようとしたが、『海』はそれを拒んだ。すんなりとそれを受け入れた両親を見て、私は恐怖した。私の中で

 その日から私は『海』になった。

 皆に愛される海。なに不自由ない生活が『海』を待っていた。

 足についたキズだけが私である証拠だったが、それもいつしか消えてなくなっていた。でも、私の心は消えてはくれなかった。

 七年越しに晴之に会ったとき、私は久しく『空』になれた気がした。

 ごめんね。晴之。あなたにはずっと騙されてももらう。


 これは『罰』なのだ。

 海を止められなかった私の 。

 強欲に生きた海の 。

 妹と私を見分けられなかった晴之の 。

 私たちは背負って生きていかなければならない。

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空は快晴後に雨 みとゆひや @torini36

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