しまっちゃうおじさんが近未来にやってきた! ←本編とは関係ありません。

ちびまるフォイ

人類最後の日はとつぜんに

「ねぇ、どうして連絡してくれないの!?

 5分に1回は連絡してくれないと不安で私死んじゃう!」


「たまたま電源切ってたんだよ……」


「どうして電源切るの!? 私のこと嫌いになったの!?

 まーくん、私のこと好きって言ってくれたじゃない!!」


彼女ができて3か月目に訪れた修羅場にうんざりしていた。

愛着からか別れることも切り出せずにずるずると関係は続けていた。


家に帰ると、ポストにチラシが入っていた。



『どんなものでも預かります! なんでも倉庫!』



「ああ、貸倉庫ね」


捨てようかと思ったが最後の一文で手が止まる。


※生物も取り扱っております。距離を置きたい方はご利用ください。


「これだ……!」


ネットで調べれば誰が自分を預けたかは秘密にされるらしい。

これなら邪魔な彼女を預けて、自由の身になれる。

寂しくなったら預けていた彼女を戻せばいい。


さっそく、貸倉庫の場所へ向かった。


「ああ、あなたですね。お待ちしていました」


「え? 俺って事前に連絡していましたか?」


「さぁ、どうぞこちらへ」


倉庫番は見学会のように俺を奥へ奥へと案内する。

最奥の倉庫に到着すると、入口がばたんとしまった。


「お、おい!! なに閉じ込めてるんだよ!!

 俺はここに彼女を預けにきた客だぞ!」


倉庫番の肩をつかもうとして空振りした。ホログラム映像だった。


「あなたのお預かりを承りました。なので、あなたを倉庫にいれます」


「はぁ!? いったい誰が!?」


「ご依頼人の名前は秘密が規則です」


心当たりがあるのは1人だけだ。

俺が彼女を預けたいと思う気持ち以上に、彼女が俺を遠ざける気持ちが早かった。


「俺はいつ出られるんだよ!?」


「ご依頼人の許可が出るか、私がここを離れたときですね」


絶望しかない。相手の気分で出し入れされるなんて。

倉庫番のホログラムは消えてしまった。


「あんた……はじめてかい……?」


倉庫の奥にいる老人が苦しそうに声をかけた。


「わしらは現実世界から預けられた者たちじゃ……。

 ここには不要だが、捨てるほどでもない人間が集まっておる……」


ぐるりと周りを見渡す。

高齢者、ニート、社会人、子供に身体障害者……などなど。


多種多様な人間が集まっていて、ひとつの国のようになっている。


「あなたはどれくらい倉庫に預けられてるんですか?」


「さぁねぇ……もう忘れてしまったよ……。

 相手も私を引き出すことすら忘れてるだろうよ」


「それでいいんですか」


「かまわないさ。どうせ現実に戻ったところで居場所はない。

 また不用品扱いされてあずけられるのがオチさ……」


「そんな……」


社会的に使えないから預ける。

邪魔になったから預ける。


俺だって彼女を預けようとした。

なんて責任感もない自己中心的な考え方だったんだ。


「自分に不要だからって、誰かを預けるなんて間違ってる!

 預けられるべきは今現実にいる人間です!!

 あんな自己中心的な人間が現実にいる方がおかしい!!」


「しかし……現実に戻って、わしらに居場所はあるのか……?」


「俺たちを預けた人間が用意する場所なんていりません!

 俺たちは、俺たちで自分の居場所を作りましょう!!

 それはこんな倉庫の中じゃない!!」


自分への戒めをかねた言葉だったが、倉庫の人たちの心をつかんだ。

外界への恐怖から脱出を考えないようにしてきた人も

みんな目にふたたび光がやどる。


「みんなでここを出ましょう!!」


「おおーー!!」


堅く閉ざされた扉をどう破るかが最大の問題だ。

閉まるときの音でいかに頑丈であるかは分かってしまった。


どうすれば開けることができるのか……。



――ギィィィ。



「え!? 鍵かかってない!?」


扉はなんの困難もなくあっさり開いてしまった。

もっとこうドラマチックな脱出劇があるかと思っていたのに。


「「「 外だ――!! 」」」


預けられていた人たちは外を求めて倉庫から飛び出した。

待っていたのは静寂だった。


「なんだこれ……まるでゴーストタウン……誰もいないぞ」


車も、人も、店にも誰もいない。

いったい何があったんだ。倉庫番すら消えている。


足元には、配り忘れたのかチラシが残っていた。



『なんでも倉庫 新サービス開始! クラウド倉庫はじめました!

 不用品を容量無制限のクラウド倉庫に預けましょう!』



「みんなクラウド倉庫に預けられたのか……!?」


いったいどうして。

この状況にただ驚いていると、向こうから人がやってきた。


「あの! この世界でいったいなにが……っ」


「や、やめろ! 近づくなぁ! ボクは預けられないぞ!!」


男は疑心暗鬼にかられてスマホを操作した。

その瞬間、俺の体は電子分解されてクラウド倉庫へと転送された。


お互いを消し合った先には、人間がひとりもいなくなるだろう……。

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