Supplement 2:邪神ですが飛ぶ夢をしばらく見ません


 スーパー◯ライの缶を開けつつ祭司と乾杯する。結構イケる口だな祭司。司書ちゃんの目が険しくなってるけど。


『祭司さま!そろそろ控えてくださいお酒!』

「司書ちゃんってそういうキャラなの?もっとこうゆるいキャラだと思ってたんだけど」

『ナガノさんこそ意外に陰キャラですよね』

「なにそれ」


 こらこら君たちモメないでください。女の子どうしのきゃっきゃうふふは眼福だけど、モメてるのは誰も得しないから。


「若いなあ……」

「なにしみじみ言ってるんですか師匠」

「いやな、こちらからしたらこういうのも含めて、『あぁ幼年期の生物が戯れてるなぁ、かわいいなぁ』って思えてしまうんだ。君らだって仔犬がじゃれ合ってたらかわいいなぁって思うだろ?」

『宇宙レベルの進化の話か。※※※※ー※、人類もそう進化する可能性があると?』


 祭司じゃないけどこっちは単なる人間だぞ。そんな『幼年期の終わり』みたいな進化とか多分しないと思うし思いたい。


「ああ。いずれは進化すると思うぞ人類。絶滅でもしない限りな。身体性を超越した超存在へと」

「そんなのなりたいと思わないなぁ」

「なんでだよみゆき」

「だって美味しいもの食べられないじゃない」

「美味しいものってのはアレなんだろ、どうせ虫なんだろ!もうやだこいつら!」


 包丁がキレている。せっかく言わなかったのにわざわざいうなよ。地球の全ての摂食可能な海産物はもちろん、当然のようにありとあらゆる邪神かいさんぶつを食べたい俺が言えた筋合いではないが。


「そういう経験などは、超越した存在感で共有もできるはずだ」

「実体験じゃないじゃない」

「なら聞くが、極限までリアルな仮想体験は脳からしたら仮想体験と言えると思うか?」

「脳からしたらそうかも。でも、身体性全てが同一に再現できていないのならそれは別物だよ」

『生物には身体があるからな』


 みゆきの返答を受けて、スーパードラ◯の缶から直接ビールを飲みながら、祭司はしみじみとそんなことを言う。缶を持ち上げる。


『身体が無ければ実感できないとは思う。特にこれなどな』

『はいはいこれで終わりにしますよ祭司さま』

『えぇー』


 まだ飲み足りないのか酔いどれ祭司。結構飲んでるぞ君。赤くなってるぞ顔。酔いどれ邪神クトゥルフとか本出されるかもしれない気がしてきた。


「脳からしたらってことでいうとだ、脳そのものが量子力学的な作用の影響下にあるかどうかは重要だと言えるな。進化するにあたっては」

「ペンローズの理論だよな師匠。でもそれ言い出したらコンピュータのバグに量子力学的揺らぎが影響するとかそういうことになるぞ」

「それをいうならコンピュータがそこまで行っていないからな。量子コンピュータにおいては問題になるんじゃないか?」

「量子力学ってよくわかんない」

「日常生活にも関わってるから、全人類学習必須だと思うんだが」

「日常生活に関わってるからって、仕組み全部知る必要ないんじゃない?」


 そりゃ一理ないこともないが……そうやってわからないことに蓋をして生きていくのはあまりいいことじゃないぞ。理系人としては。


「みゆきだって研究やってくんだろ?だったらなんでそうなったか考え方理解しとくべきだと俺は思うな」

「そんなもんかなぁ……」

「量子力学的な揺らぎってなんで生まれるかと言うと、まぁ言うなら私のせいだけどな」

「それを言っちゃおしまいだぞ師匠」

「と言ってもこの世界、時間的に連続してないのは知ってるだろ。私の夢だし」

「処理落ちか処理軽減なのか?」

「夢ってのは不要な情報の処理だ。故に断片化されているし連続性もない」


 量子力学が生まれたのあんたのせいか。というか量子力学だけじゃないけどな。


「師匠が起きたらどうなるんだ?」

「んー……明晰夢としてみてるからうまくすれば起きても記憶残せるかもしれん。とは言え夢だからな。消える可能性高い」

「でも56億7000万年先じゃ私たち生きてないよ」

「なのでその前に君らには進化してもらって永遠存在になってだな」

「無茶をいうな師匠」


 永遠存在となって会うのが師匠じゃロマンスのかけらもない。ロマンスどころかNTRは経験したけどな!くそ今思い出した!


「進化したとしても永遠存在はイヤだぞ。NTRとかトラウマが永遠に残るとかイヤすぎる」

「そういうネガティヴ経験含めて自我だろうが」

「ん、みゆきどうした?」

「NTRか……私のは違うか」

『え?』


 カニを咥えながら司書ちゃんがみゆきの方をチラ見している。


「好きな男子をね、友達に先にもってかれたんだよ。まぁこっちから何かアプローチしたわけじゃないから仕方ないけど、ね」

「まぁそういうこともあるよな……」

『ナガノさん、一杯だけはちみつ酒ミード飲んでください!』

「ははは、ありがと司書ちゃん。司書ちゃんはないのそういうの」

『なくはないんですが……はぁ……』

『どうしたのだ?』

『なんでもないです!』


 祭司は鈍感だな、俺たちは口には出さなかったが心の中でそう思った。


「でも、俺みたいに露骨に現場目撃したわけでもないだろ?」

「……だったらいいんだけど、私も露骨に現場を見ちゃったんだよ。それも割とモロに」

『うわあ……』

『まさかそれが原因か、引き込まれたの』


 祭司、そういうとこはカンがいいんだな。他のところにカンを働かせろよ。


「おそらくね。引き込んだあいつはカっちゃんが仕留めてくれたし、地球にも帰ってきたからまぁもういいけどね」

『ふむ。逆にそのくらいの精神ダメージないと2人を引きずりこむのは難しかったと』

『イヤな邪神ヤツですね、私たちが言うのもなんですが』


 祭司と司書ちゃんにも同情されている。そりゃそうだろう。2人ともいい邪神ヤツでよかった。あの世界行って色々キツかったことも多いけど、みんなに会えたのは本当に幸せな経験だと思う。


「そうだったか。普通じゃ引き込むことすら無理だったろうな」

「俺に至っては記憶飛んだからな。よく戻ったけど」

「私もさっき思い出した。人間って不都合な記憶飛ばすこともあるんだね」

「そうだな」


 師匠が日本酒をまた飲んでいる。ちょっと飲み過ぎじゃないか?


「さてと。そろそろ寝るとおいとまするか」

「そうか。もうさすがに会うこともないか?」

「直接会うわけではなくても、あった記憶を無くしたとして、我々が創作おはなしの世界に帰ったとしてもだ。からな。もし君らが進化したとしたらその果てにまた会うかもしれない。……またすぐアニメ観に戻るかもしれないけど」

『私も身体を治さねばな』

『だったらお酒はほどほどにしてください!』

「司書ちゃん、奥さんみたい」

『違いますよ!』


 司書ちゃんが真っ赤になって膨れている。揶揄うみゆきはニヤニヤしている。師匠の気持ちがちょっとわかった。いいなぁ女の子のきゃっきゃうふふ。一方は邪神かいさんぶつだし、もう一方はムシ食ったりするけど。するけど。


「では私も行くぞ」

「おう包丁、気をつけてな」


 包丁が師匠の手の中で振動している。手でも振ってるつもりか。俺も手を振ってやる。


「それじゃ、起きたら後片づけ頼むな」

『よろしくお願いしますね』

「えっ?」

「ちょっと待て師匠たち!後片づけはやってけ!」


 そう俺が叫んだ次の瞬間、光の中に師匠達が包まれていった。


 ……俺は気がつくと自分たちの部屋にいた。何をしてたかこの数時間の記憶がない。2人で飲んだにしては随分飲み食いしてるな。誰か来てたか?片付け大変だろうが!


「あれ?みゆき?俺たち二人で飲んでたんだっけ?」

「わかんないや。え?何か書き置きあるよ?」


 そこにはこんな書き置きが書いてあった。意味がわからないぞ?新手のイタズラにしてももうちょいわかりやすくしてほしい。




 -異世界の邪神が飲み会してみたかったので飲んでみた-


(了)




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異世界の邪神が海産物ぽかったので食べてみた とくがわ @psymaris

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