Supplement 1: 邪神ですが日本人が怖がってくれません
カニを食べるとき、人は、無口になる。
人はといったが、これはヒトという種族に限らないことだ。祭司や司書ちゃんも黙々と食べている。あれ?司書ちゃんって口そこだったか?普通に食べてる?
「そういえばなんか巨人と戦うアニメの続き、何故か公共放送でやるんだよな」
「らしいですね。ところで師匠」
「なんだ」
「あんた、前に
「……ばれたか……ちっ……」
「誰も気が付いてないのか気が付いてもスルーしてるのかわからないけどな、かなりバレバレなんだよ!ひやひやしたぞ!」
世界再構成の際に、おそらくあの作品の影響はあったと思う。影響されやすい師匠だ。ほかにもたぶん影響されている作品あるな。某ロボット物の登場人物とかな。
「そういやアレン君元気にしてるかな」
「……名前とか性格とかギリギリだろ!」
『元気にやっているぞ、相棒と一緒にな。はぐれ端末とか始末して食べてるとか言ってた』
「なんでそんな情報しってんだよ包丁」
『たまに連絡とってる』
「うらやましいな包丁!俺にも連絡先よこせ」
「そうだよ、私にもフィオナさんの連絡先教えてよ」
「そんなことよりカニみそ食えお前ら」
『頂こう』
師匠に勧められるままカニみそに手を伸ばす。再び、みんな無口になる。カニという連中はなんでこんなに無駄にうまいんだ。いくら外骨格でおおわれているとはいえ、襲われたら元も子もないだろ。
「カニは生では食わないが、カイコを生で食う中国のヤツだけはちょっと無理だわ」
「そんなのあるんだ、食べてみたい」
「……カイコがかわいそうだから調理後にしてくれせめて」
一瞬、某巨人にくわれる母親をカイコに幻視した。みゆきさんよ、生きたまま食うのはやめてください。お願いですから。
「甲羅酒にはこんなのあうと思って買ってきた」
「……!?甲羅酒専門の日本酒!?世の中にはいろいろなもんがあるなぁ……」
『おいしいのかな?』
『
みんなで師匠に進められた酒をあおる。いい感じに出来上がってきた人間と邪神たちである。なるほど、これはいける。酒どころ+カニの名産地だとこういうこともできるのか。今度一度行ってみよう、北陸。
『それにしてもだ、イソノ』
「どうした祭司」
『この国の人間って、私たちを見ても全然恐怖とか覚えないのは一体なぜなんだ。あまりにフレンドリーに接せられて、逆に引いたんだが。『それクトゥルフのコスプレですか?』とか言われるし』
「結構人気だからなクトゥルフもの」
祭司に引かれる日本人っていったい何なんだよ。どっちが邪神だかわかったもんじゃねぇ。邪神食うし。食うの俺か。いや、でもあの世界に行ったら日本人なら絶対邪神食うだろ。襲って食う。間違いない。
「んー……それはこの国の神話体系や伝承、はてはマンガやネットの都市伝説に至るまでが邪神への恐怖心薄れさせるようなものばかりだからかもな」
「そうか?さすがにマンガやネットなんてのは後付けだろ師匠」
「んじゃ説明してやろう。ちょっと聞いてろ。日本の神話体系だが、
「言われてみればそういう厄災を祀る神社もあるな」
「絶対クトゥルフ系も祀られるね、来てたら」
みゆきのいうとおり、神社によっては海から来たクトゥルフ系と思しき神を祀っている神社もある。もっともそうやって流れ着いた変なもの、マッコウクジラの頭の脳油袋とかの可能性は高いが。
「伝承にしても、妖怪変化と付き合う話も多いのも日本の特徴でもある。もちろん日本に限らないが。もっとも最近はそういう世界観から離れていきつつはある気はするぞ、日本」
「いいのか悪いのか」
「変わるというのは仕方のないことだ。要は怪異と称する自然の脅威をある程度受容するか、それに歯向かうかの違いなのかもしれない。もっとも人間、あまりに自然の脅威にはむかいすぎて結果的に自分たちの身を危うくしてるんだがな」
「……」
俺は黙って酒をあおった。師匠に言われるまでもなく、人間って碌なもんじゃねぇが不幸にして俺は人間だ。人間やめて邪神になったほうがいいかもしれんが、邪神になったら邪神襲って食ったら同族殺しの化け物だ。
「あ、人間やめるのやめたほうがいいぞ。人間は人間らしく生きるべきだ。何が人間らしいかよくわからんけど」
「心を読むなよ師匠」
「読めるのは仕方ないだろうが、私がいるのに」
「本当にどうしようもない包丁だな」
「同族殺しの化け物で思い出したが、イルカを極端に愛護する人間っているだろ」
「ああ、あのうっとうしい連中」
「連中からしたら日本人こそ、まさにその『我々と広い意味で同族たる知的生命体を虐殺して食う、野蛮な怪物』だからな」
なんだよその理屈は。イルカはイルカでしかないし同族を殺して食ってるわけじゃねぇだろ馬鹿かよ。
「でもな磯野。考えてみろ。お前、祭司たちをこれから突然殺して食えるか?」
「……そういうことか。ちょっとだけ理解できたわ」
「え、でも祭司たちとは会話もできるけど、イルカじゃそうはいかないよ?」
「実際そうだな。だがな、連中からしたら、イルカを食う日本人よりイルカのほうが知的生命体なんだろうな」
「人種差別もここまでくると清々しいな。下等生物のそいつらこそ食う価値……いやないな。やめとくか」
『イソノさん怖いです』
邪神の司書ちゃんに怖がられる俺って何なの?怪物なの?
「日本人の価値観、彼らの価値観、これらは結構違っているのはわかるな。一種の文明の衝突なのだが、ここに加えて、種族の壁を越えた文明の衝突が起きることを考えたのがクトゥルフ系だとも言える」
「衝突っていうか一方的に蹂躙されてないか?」
「一方的に
「うっせえよ包丁、俺程度蹂躙のうちに入んねぇよ。
「
その話どこで知ったんだよみゆきさんよ。カニの脚肉をしゃぶっている彼女を見ながら俺はそう思う。
『あいつには本当にひどい目に遭わされたようだからな、黄色いのが』
「黄色いヤツて
「そこだよ」
「そこってなんだよ師匠」
「日本人に限らず一部の人類は最早『クトゥルフ系?海産物じゃん?どんな味?』と考えてると概念化されているんじゃないか?そういう相手を捕食したとしてもそれは物理的なものであって、精神攻撃ではないからな。脅威は低くなる。サメに人は食われることがあるが、サメは魂食えないだろ」
「概念……」
「さらにクトゥルフ系の作品の性質がな、ある漫画に似てることがトドメさしてるんだ」
「なんだよそれ」
師匠が酒をあおって一瞬ためらったような表情を見せる。気になるからしっかり言ってくれ。
「クトゥルフ系全体のストーリーの構造、講〇社のM〇Rだったんだよ!」
「「「『なんだってーーー!!!』」」」
なんで司書ちゃんや包丁まで乗ってるんだよ。このツッコミは伝統芸能だからやってもらうのは一向に構わないが。
「順番的には逆なんだが、結果的には同じことだと思う。今や先に触れる人も多いだろ。人類の脅威に触れる→俺たちは何もできなかった→人類は滅亡する!→しかし実はその脅威幻想でしたとどちらもバラされた」
「うわバラしちゃったよいろいろ」
「M〇Rに汚染されたせいで、日本人にはさらなる耐性がついてしまったと言える。本当になんなの君ら」
「なんなのと言われても単なる日本人だし、そういうのも日本の文化だよ」
汚染とか色々と問題発言しすぎです師匠。とりあえず樹◯氏にはあやまろう、な。みゆきじゃないけど日本の文化、ある意味でクトゥルフの恐怖面と相性悪い気がしてきた。
「特に君らなんて、邪神無効とか邪神吸収とかついてそうだよね」
『どちらが脅威なのかわかったものではないな。邪神以上に邪神ではないか』
「もう人間扱いしてもらえてないよ」
『うなぎも絶滅するわけですよね……』
師匠も祭司も司書ちゃんもそこまでいうか?邪神に邪神扱いされる人間ってなんなのだろう、そんなことを思いながら俺は
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