第9話 エピローグ

エピローグ


 これで、全てが終わったとは言えない。

 だが、アメリカのラウンドナイトを倒したことについては禍根は残っていないようだ。

 あれから追撃がくる様子はないしメディタがまた狙われる事もなかった。

「これで私も役立たずになったの」

 この事に関してメディタは言う。

 ラウンドナイトと一度契約した者は、他のラウンドナイトと契約をすることはできない。

 よってメディタには価値がなくなったのだという。

「単体でもすげえ能力だったじゃないか。人を骨の燃えかすに変えるくらい、強力な光線を撃てるんだろ?」

 役立たずなんてとんでもない。まだまだ手腕を発揮する力は残っていると、雷はリビングのソファに座りながら言う。

 ついでに台所ではおやつを作っている黒羽が言う。

「ところで黒羽。お前はいつまでこの家にいるんだ?」

 メディタの護衛はもう必要ないはずだ。それなのに黒羽はまだ居座っている。

「こっちにも事情がある。俺もこれを期に引越しをしようと思っていてな、部屋はもう決めてあるからあとは契約の日になるのを待つだけだ」

 黒羽は言う。だがそこに家にやってきていた大華が言う。

「あんたがメディタに手を出さないか? 見張っていないといけないでしょう?」

「するかよ。お前もそんな理由で居座っているのか?」

 大華は黒羽が作った、たい焼きを食べながら言ったのだった。それに面倒そうな顔をした雷が答える。

「どういう事か分からないけど」

 そう言いソファに座っている雷に後ろから組み付いていった。

「雷なら私に何かしてもいいよ」

 後ろから「ぎゅーっ」と雷のことを抱きしめるメディタ。

「欲情をしてきた。最低ね雷って」

 大華は楽しそうにして言う。雷がメディタとベタベタする事を快く思っていなかった大華だったが、今はそれを見て楽しむような余裕までできている。

「勝手なことを言うな!」

 背後から抱きついてきたメディタの手を軽くポンポンと叩くと、メディタは雷から手を離した。

「ちょっと走りに行ってくる」

 そう言って立ち上がった。この場から逃げるようにして雷は家から出ていく。

 これからはラウンドナイトとしてWBSGと戦わなければならない。そのため体を鍛える事も必要なのだ。


 ランニング中の雷は辺りを見回した。

 ラウンドナイトになるとそこらじゅうを浮遊しているWBSGを見る機会がある。

「危険ってどこにでも転がっているんだ」

 雷は他人事のように言った。雷はこれらを倒さなくてはならないのだ。

 雷は小さなWBSGに向けて手を伸ばした。そうして子鬼を飛ばす。

 子鬼に噛み付かれたWBSGは消滅をしていく。

 周囲からそれを見ていた人達の中から「あれ、何してるの?」「あの年でヒーローごっこ?」そう会話が聞こえ雷は掲げていた手をしまった。

 『見えない』人から見れば、これは変な行動にしか見えないのだ。周囲から奇異の目で見られないようにして活動をしなければならない事を感じた雷はランニングを続けた。


 それから雷はいつも通る墓場を走っていた。

「大華……なんでこんなところに?」

 雷はランニング中に大華を見つけた。

「あんたのランニングコースなの?」

 大華はそれを聞くと墓に向けて手を合わせた。

「部長よ」

 大華は言う。この墓で眠っているのは、あの時ミランによって殺された部長であるというのだ。

「なんで、人って戦うんだと思う?」

 大華は聞く。

「自分達の国が災害に遭わないようだろう?」

「本当にそれだけなのかな……?」

 大華は意味深な事を言う。

「歴史の勉強は得意か?」

 雷が聞く。それに大華はむっとした顔で返した。

「あんたよりはね」

「なら話は早い」

 それから雷は話しだした。

 古代の時代から人間は戦争を続けてきた。理由はロクでもない事である事も多い。

「金貨の表に裏が裏に表が記載されている、偽金を渡したとかいうものもあった」

 人間は戦わなければ生きていけない生物なのかもしれない。

 そう雷が言うと大華は唸った。

「相手を殺しても部長が帰ってくるわけでもないのに」

「だけど復讐を考えずにはいられないだろう?」

 雷はいう。

「人間はこういう生き物なんだって」

 そう言うと大華はまったく納得していないという顔をした。

「人間がこんな生き物だからWBSGは生まれたのかもな?」

 雷はそう言って立ちあがりランニングに戻っていく。

「納得できるわけないでしょう?」

 大華は小さくなっていく雷の背中を見ながら言った。

 そこに風が吹いてくる。

 髪がたなびくのを感じた大華は空を見上げた。

 空には気味の悪い姿のWBSGが漂っていた。

 それを退治するのが自分達の役目であるというのはよく分かっている。

「余計な事は考えないわ。私はWBSGの処理の事だけ考えればいいの」

 そう言う大華。WBSGはその大華達を見て何を考えているだろうか?

 そう考える大華はその考えを頭を振って振り払った。

「あなた達は何のために存在しているの?」

 ついWBSGに聞いてみる大華。だが返事など帰ってくるはずもない。そのWBSGは、風に吹かれてどこかへ飛んでいってしまった。

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サクラメントレディ 岩戸 勇太 @iwatoyuuta

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