第8話 攫われたシヴァ
大華と雷は一緒になって隔離施設に移される事はなかった。
懸念材料はシヴァの力が敵に渡ってしまった事。
新しく入るはずだった新たな戦力のはずの『イザナミ』の契約者がただのひ弱な少年になってしまった事。
この二つを考えると大華を隔離してサクラメントレディとしての心得を一から叩き込んでいるような時間などない。
それで、大華と雷がどうなったのかというと黒羽と楊貴が勤務している警察署。その寮の一室を与えられることになった。
今は雷は警察署の武道場にいる。覚えたての構えをとり目の前にいる黒羽は明らかにケンカ慣れをしているかのように堂に入った構えをとっている。
カーテンを閉め切り電球一つも無い暗室。
こういう場所では集中力を高める事ができる。
その部屋の真ん中で自分の胸に語りかけ未来を見ようとしている楊貴と大華がいた。
胸に『未来を教えろ』と語りかけこれからの戦いの事を知ろうとしている。
「こんなに早いの」
大華は言った。
「何か新しい予言でもあった?」
楊貴はそう聞き大華は首を縦に振る。
「敵がメディタを連れて日本にやってくるのよ。明後日」
「また急な話ね。敵の数とか装備とかはわからない?」
大華はその言葉に横に首を振る。
「残念。でもそれだけ分かっただけでも上出来よ」
明後日になるとメディタがやってくる。メディタを助ける事ができるチャンスであった。すくなくとも雷にとってはそうだろう。
「メディタちゃんは数千人の人を殺すって出てる」
楊貴の予言でそう出ていた。メディタを助ける事ができるか?
「雷はその予言を変える」
大華は言う。
「予言を変える? そんな事どうやって?」
楊貴は不思議そうに言う。
「予言っていうのは未来の予定。予定なんだから変える事もできる」
「そんな事は無い。予言は絶対」
大華は予言を変えることができると言うし、楊貴は変えることはできないと言う。
二人の話は平行線になった。大華の言葉には希望的観測が多く含まれているように感じる楊貴。
それが本当ならば試してみる価値はあるだろう。
「メディタは数千人の人を殺す。それは熱狂が渦巻き興奮のるつぼと化す場所」
大華は続いてそう言った。
「若いっていうのはいいわよね」
楊貴はため息混じりで言った。自分は予言の内容を変えようなんて思わない。それは、分がそれだけ年をとってしまったからではないかなんて事を考える。
妙な達観を覚えた自分では、未来なんて変える事ができないのではないか?
そう思う楊貴だが、大華は必死になって未来を変えようとしている。
「数千人が集まっていて熱狂と興奮のるつぼと化す場所なんて、あそこくらい」
大華はそう言い、楊貴に自分の考えている作戦を話しだした。
雷と黒羽。そして楊貴と大華もいる。
ここは黒羽の使っている寮だ。
「そこまで分かったのはいいが。成功するのか?」
黒羽はそう言う。
いままで予言を変えようと思って動いたことは何度もあった。だがいままで変えることができた試しは一度もない。
「雷の胸だって結局撃たれたわけだしな」
あの遊園地でメディタが攫われた時の話を始める黒羽。
メディタの予言はそうだった。雷は足と胸を撃たれる。その予言通りに雷は二発の銃弾を足と胸に受けた。
「メディタは言ったんだ。予言の内容を変えることはできると」
メディタは雷に言っていた。
母親に自分の臓器を売りに出されそうになるという予言を見た事。その未来を変えた。偶然であるが母に反攻をして変える事ができたこと。
「そういう例だってあるんだから」
大華は言う。そして黒羽達に懇願をする。
「人を多く移動させる必要がある。ですからあなたたちの力が必要なんです」
大華の願いは聞き届けられた。
黒羽は『すでに深夜だというのに、余計な仕事を』などと愚痴っていたが、大華の言葉に動いてくれた。
「明後日だけでいいんです」
大華が言う。携帯で楊貴と連絡を取りそう動くように取り計らっていた。
「成功するといいな」
雷はそう言う。
「雷は寝てないと。もうヘロヘロなんでしょう?」
「だけど、メディタのためだ」
雷には何もできる事など無いし黒羽に早く休むように指示をされている。
あの子を助けないと。そう考える雷は大華の様子を見て言った。
ここは大華の部屋だ。大華がメディタを救う方法が分かったというのでその様子を見るためにここにいる。
「雷がヘロヘロだと、明後日の戦いで負けちゃうよ」
大華が言う。
「嘘だろう? どうしても俺を休ませたいのはわかるが」
「分かるなら黙って寝る!」
そう言い大華は雷に枕を投げつけた。
「あんたがメディタの事を助けたいと思っている事はよく分かったわよ。でも、あんたは黒羽さんからも休むように言われてるんでしょう?」
雷が起きていても何もすることがない。できる事は大華の作戦に茶々を入れる事ぐらいだ。
「あの時のことだって!」
大華は自分の前髪をかきあげ雷に向けて言った。
「あんたが大人の人を呼んでいれば私がこんなケガをしなくてもよかったのよ! 自分の力だけで、解決をしようとするから、私の顔に傷なんかができちゃったんでしょう!」
雷が大華に付けてしまった傷の事を言い出す大華。
「私達はもう『仲間』よ! 素直に黒羽さんの事を信じなさい!」
大華が言う。
「黒羽さんだってあんたが勝手なことばっかやっていると、あんたの事を信じられなくなっちゃうでしょう!」
「だけど」
雷がそれに合わせて何かを言いたそうにしているが、大華はそれを睨んで拒否した。
「いいから寝なさい!」
大華は最後に雷に言い。雷を部屋から追い出した。
アメリカの空母が東京湾に浮かんでいる。
その空母の甲板に立ちこれから自分の戦場になる場所をミランは見回した。
「一度行ってみたい場所があったんだよ。ちょっくら寄ってみるかな?」
そう言うミラン。
「任務の事もお忘れなきよう」
この艦の艦長が言う。それを耳障りそうにしてミランは言う。
「任務はしっかり達成するさ。いままで好き勝手やったツケなんて、数倍にして返してやるんだから」
ミランは面倒そうにして言う。
「それよりも」
そういいミランの機体はくるりと後ろを振り返った。
「こいつに喝を入れるべきじゃないのかい! 前回の戦いなんてやる気の欠片も見えないし! かすり傷一つで逃げ帰っちゃうだなんて仕事のしなさはハンパないね」
ミランは不貞腐れながら言う。
「そうだ。『サンダーバード』君も少しは本気を見せろ」
艦長はミランの言葉に合わせて言う。
「了解だ」
短くそう答える『サンダーバード』の操縦者。
「ふん……」
そう言うミラン。『サンダーバード』が本当に全力で動くのか不審に思っている感じだ。
「病気の親のために薬代を稼ぎたいんだろう? しっかりしてくれよ」
ミランが言うサンダーバードの操縦者はそれで口を開いた。
「自然の流れに逆らうものは必ず精霊の怒りをかう」
「だー! うっさいうっさい! 精霊の怒りだの自然に逆らうだの! 今の時代に原始人のような事を言っているんじゃないよ!」
ミランが言う。
「お前の親父が病気にかかるのだって自然の流れなのかもしれないよ。薬を使ってその流れを止めようなんて考えるのも、自然の流れに逆らうって事じゃないのか?」
そう言うミラン。
「人間はすでに自然に逆らう力を持っているんだよ。いまだにそんな事を言っていると、損するだけだ。もっと上手く生きないといけないだろう?」
そう言うと返事は返ってこなかった。
「納得してくれたようだね。さあ! 行くぞ!」
ミランがそう言うと『サンダーバード』と『シヴァ』は夜の東京の街に向かって行った。
「来たよ……」
大華が言う。目の下にはクマを作りよほどではないが状態がいいとは思えない。
その機体はある方向に向かっている。
「やっぱり私の予言通りに」
大華は言う。相手の『シヴァ』と『サンダーバード』の向かう先は、読み通りの場所だった。
「おおー。ここだ」
ミランは眼下の施設を見下ろした。
「まったくこんな低レベルの試合なんて見て、何が楽しいのだろうね?」
下には大きな幕が貼られていてそれは内部からの気圧を受けて膨らんでいる。
ここは東京ドームである。中では日本の野球の試合をしているところだったはずだ。
「弱い奴らが頑張っているところなんて見るとイライラするんだ。そのくせ、たまに大リーグにまでやってくる奴もいるしますます気に入らない」
そう言うとミランは後ろを振り返った。
「ちょうどいい。『シヴァ』の力のお披露目といこうか」
後ろにはメディタが乗っている。メディタは恐怖をしてミランを見ていた。
「あのドームを焼き払うよ!」
そう言いミランは熱光線を放った。
「やっぱりここだった」
ミランの『シヴァ』が東京ドームを焼き払う様子を見て、大華は気が抜けたようにして、倒れた。
それを雷が受け止める。
「やったなお前。これからは俺たちの番だ」
大華の手を握る雷。
「来い『ヨモツイクサ』」
雷は大華と一緒になって、『ヨモツイクサ』に搭乗をしたのだ。
「いらない犠牲を」
サンダーバードの操縦者が言う。
「うるさいよ! ここをこうするのは昔からの夢だったんだよ」
そう言いながら自分が開けた穴から中に入っていった。
死屍累々の屍の山。瓦礫に潰された人々。それに震える人々の姿を想像し、意気揚々とドームの中に入っていった。
「なんだと! これはどういう事だい!」
大声を上げたミラン。
ここにはいっぱい人がいるのだと思っていた。中で電灯が光りその光が外にまでこぼれていた。
だが中の様子はガラガラである。
この五万人を収容できる巨大なドームの中の数千人くらいしか人影はなかった。
しかも、その人影もほとんどがマネキンである。
『まんまと騙されたな』
瓦礫の裏に隠れていた黒羽は言う。その直後、剣を持って、『シヴァ』に飛びかかっていった。
「こいつには俺も借りがあるんだ!」
そう言う雷の『ヨモツイクサ』は東京ドームの上を飛んだ。
「子鬼よ」
雷は言う。ヨモツイクサの手に鬼の姿した影が生まれる。東京ドームの中にいる、シヴァの居場所に向けて子鬼を飛ばした。
そしてその直後。雷の視界の端に電気の塊でできた鳥を見つけた。
雷はすぐにその場を離れる。すぐに鳥のいたところは巨大なプラズマが生まれる。あのプラズマの攻撃を食らっていたら、黒焦げになっていたところだ。
雷はその攻撃を飛ばしてきた敵を見つめた。
敵はサンダーバード。黄色い機体の姿を見て雷と太華はそちらに意識を向けた。敵の機体。サンダーバードは両手に電気の塊を作った。
「威力はあっても動きが遅いな!」
雷は言う。両手に子鬼を発生させてサンダーバードにけしかけていった。サンダーバードは、子鬼に次々と噛み付かれ装甲を歪めていく。
「やはり援護は無しか」
黒羽の操縦するクサナギはシヴァとにらみ合った。
「そう言わない。あの子達だってがんばっているんだから」
楊貴が言う。敵のシヴァが額に手をあてたのを見てクサナギは走った。シヴァの足元に食らいつきシヴァを転ばせたのだ。
その直後シヴァの光線が発射されそれは空に向けて放たれた。
その光線を受けた雲に大きく穴が開く。
ドーナツのようにぽっかりと穴を開けた雲を見て黒羽はうめく。
「どんな威力だ」
そう言う黒羽。シヴァの上に馬乗りになったクサナギはシヴァの頭部のパーツを引きちぎろうとした。
だがシヴァはクサナギの事を殴り飛ばす。
クサナギはドームの土を思いっきり巻き上げながら吹っ飛んでいった。
クサナギが起き上がると、シヴァの頭部パーツははがれかけていた。
シヴァは自分からその頭部パーツを引きちぎる。その頭部パーツをまるで空き缶でも捨てるかのようにして放り投げた。
『頭がなくても光線は打てるんだよ!』
シヴァに乗るミランが言う。
光線が打たれるときのようにシヴァの額があった部分に光の塊が生まれた。
「うおおおおぉぉぉぉおお!」
黒羽はその光線を撃たせまいとしてシヴァにまで走り寄っていく。
『遅いんだよ!』
そう、ミランは言い光線を打ち出した。
黒羽はそれに間に合わず横に飛んで光線をかわす。
光線は東京ドームの壁を壊し街に並ぶビルを軒並み消滅させていった。
『今ので数万人は死んだよね! きもちいいっ!』
そう言ったあと『ははははははは』などという高笑いの声まで聞こえてきた。
この場所で一般人はすでに避難をさせている。ビルがいくら壊れようと人死にはでていないはずだ。
「この男は!」
黒羽はそう言ってシヴァに向けて剣を抜いた。やはりこの男は人を殺すのが好きなのだろう。
意味もなく人を殺しそれを楽しむ狂人だ。
「コックピットから引きずり出してやる」
そう言い黒羽は剣をシヴァに向けて突き出した。だがそれは手で止められた。
黒羽の剣がシヴァの手のひらに突き刺さる。シヴァは至近距離にクサナギがいるのを確認すると光線を放った。
その光線を黒羽は避けたが、背後にある東京の街はその光線に吹き飛ばされた。
「ははははは! これじゃあ東京を守っているのか? 被害を拡大させているのか? 分からないなぁ!」
光線を撃って街を壊すのを楽しげにしているシヴァの搭乗者に黒羽は殺意を向ける。ここまで最悪の奴は今まで見たことがなかった。剣を引き抜くために黒羽は後ろに向けて飛んだ。
『んん? どうしたんだい? 早く来ないのかい?』
『近づいてきたらまた光線を撃つがな……』と言わんばかりのシヴァに、黒羽は背中を向けた。
黒羽は場所を変えようと思った。ここで戦ったら、また被害が拡大する。だから山の中にでも移動をしようと思ったのだ。
だが、後ろのシヴァはまた光線を放った。
黒羽のクサナギが振り返ると東京ドームの壁に新しい穴があいていた、穴の先には、倒壊したビル群が見える。
「逃げちゃだめー」
黒羽の考えは見抜かれていたようだ。
「街を破壊するのがそんなに楽しいのか?」
黒羽は怒りの篭った声で聞いた。
「ああ! 楽しいね! こうやって人間どもが気まぐれ一つでどんどん死んでいくなんて、まるで神にでもなったような気分さ」
「この外道が!」
黒羽はシヴァに向けて飛び込んでいった。
「ダメよ! そんな挑発にのっちゃ!」
楊貴はそう言うがもう遅かった。シヴァは光線を撃つ準備を整えており、クサナギに、しっかりと狙いをつけていた。
「ばーか」
そう言ったミランはクサナギに向けて光線を発射した。
雷はサンダーバードの事をよく観察した。
「あの攻撃。防ぐ方法を思いついたぞ」
大華はそれを聞いて疑わしげにした。
「タイミングを合わせろ」
雷が言うと、サンダーバードは、また攻撃を飛ばそうとしてきた。
「今だ!」
雷が言うと大華は子鬼を飛ばした。その子鬼は敵の生み出した電気の鳥に襲いかかっていく。子鬼が電気の鳥に噛み付くと電気の鳥は爆発をした。
「よし! 読み通り!」
その爆発に巻き込まれたサンダーバードは黒焦げになった。
サンダーバードはそれにより糸の切れた人形のように地上に落ちていった。
「あいつ、負けたのか」
サンダーバードの姿が見えないのを見てミランは舌打ちをした。
「仕事を増やさないで欲しいな」
そう言いシヴァはこの空を飛んでいるもう一台のメスに視線を向けた。
「さくっと終わらせちゃうか!」
ミランはそう言い光線をヨモツイクサに向けて放った。ヨモツイクサはそれをかわす。
それからヨモツイクサは子鬼を飛ばした。
いくつもの黒い影がシヴァに向けて飛んでいく。シヴァの装甲は子鬼によって歪む。
「装甲を曲げることができても、これじゃあ倒せないよぉ」
ミランは言う。子鬼では装甲にダメージがあっても中まで攻撃をすることはできない。
「こんどこそ消えなぁ」
そう言いミランは光線を放った。だがその光線は簡単によけられる。子鬼を飛ばされた。またもや装甲が歪まされていく。それを感じたミランは、これ以上装甲が歪むと、中にまで被害が出かねないと思った。
「しつこいなぁ」
子鬼を飛ばされたのをうざったく感じ始めたミランだが冷静に分析する。
『この機体は後衛型なのだ。前に出て戦うようなマネをするのは非効率だ。これではラチがあかないしこっちのほうがジリ貧だ』
だがミランは『ヨモツイクサ』に向かっていった。
「格闘術くらいは習っているもんね」
そう言いミランはヨモツイクサに突撃をしていった。
「来たわよ!」
「そうだな。お前に操作を渡すぞ!」
「えっ!」
雷の言葉に驚いた大華。大華の座る席にレバーとペダルが現れた。
「そんな! 機体の操作なんて初めてなのに!」
大華は言ったが雷は言う。
「部長さんの敵をとるんだろう! 今がチャンスだ!」
大華に向けて言う。大華が雷の事をふと見つめる。大華はもう一度敵のシヴァの事を見る。
大華は感じた。サクラメントレディの能力なのか? それとも大華が元々持っている直感なのか? こいつが部長を狙撃したのだ。それを感じた大華。
『こいつだけは許さない』
頭の中にそう考えが浮かぶ。そうすると大華はレバーと強く握りペダルを踏み込んだ。
シヴァが向かってきている。それに合わせてヨモツイクサも突撃をしていく。ヨモツイクサに向けナイフを突き刺そうとして、ナイフを握った手を伸ばして飛び込んでくるシヴァを大華は回し蹴りで蹴り飛ばした。
シヴァはそれで驚いたようでヨモツイクサから距離をとった。
「操作を変わるぞ!」
雷が言うと\大華の目の前にあるペダルとレバーが忽然と消えた。
そうして雷はまた子鬼をけしかける作業に戻る。
やはり距離をとったらダメなのだという事をシヴァは理解をしたようだ。もう一度シヴァは突っ込んでくる。
「今度は俺が!」
そう言う雷は柔道の構えを取った。自分に突撃をしてくるシヴァの腕を掴んだ。
「巴投げだ!」
そう言い雷は東京ドームに向けてシヴァを投げ飛ばした。
ガランガランと音を立てシヴァがドームに飛びこんできたのを見る黒羽。
「雷君達が上手くやってくれたようね……」
クサナギは当分使い物にならないだろうと思われる。シヴァの光線をまともに食らい、動くのがやっとな状態になっている。
黒羽と楊貴がクサナギから降りた瞬間にボロボロになったシヴァが飛び込んできたのだ。最初は驚いたが雷達が上手くシヴァの事を倒したのだと考え、すでに動けなくなっているシヴァに向けて黒羽と楊貴は駆け寄っていった、
しかも、ミランはシヴァから脱出しようとして脱出装置を使ったらしい。
本来なら空高く上空に飛ぶはずだった脱出装置だったが装置に故障でもあったのか? ドーム内をクルクル回りながら飛び最後には失速をしてマウンドに落ちてしまった。
脱出装置が落ちた場所にまで黒羽は向かった。
「これで終わりだなシヴァの操縦者」
黒羽は脱出装置からはいでてきた男に剣を突き出しながら言う。
「なんだよおめぇ。人を殺したのをそんなに怒っているわけ?」
「周辺住人は避難させてある。死者はいないはずだ」
「なら!」
ミランがそこまで言うと黒羽はギロリとミランの事を睨んだ。
『人なら殺しているわよ!』
黒羽は空から声が聞こえてくるのを聞いた。
ヨモツイクサが空から降りてくる。ミランはそれを見ると後退りをした。
ヨモツイクサの中から、大華と雷が降りてくる。大華は先を歩き恨みの篭った目でミランの事を見つめた。
「よくも部長を」
それを見てミランはまたもあとずさりをした。だが、後ろに居た黒羽に体が当たる。
それで逃げ場を失ったミランはその場に崩れ落ちる。
「黒羽。構わないわよね」
大華はミランに向け両手を出した。その手には子鬼が生まれる。
「構わないぞ」
黒羽はそう言い剣を振り上げた。震えてうずくまるミラン。大華と黒羽は同時に舌打ちをした。
こんな奴が人を殺したのか。こいつは躊躇なく人を殺し、本人は殺しを楽しんでさえいる悪逆非道なやつだ。
自分が殺されそうな側に立つとみっともなく逃げ惑う。少しくらい殊勝なところでも見せていれば、ここまで殺意が沸かなかったかもしれない。
大華はそのミランに向けて子鬼を飛ばした。
「だめ! こいつは私が!」
どこかから声が聞こえてくる。その声の直後に強烈な光がミランの背中を襲った。
「シヴァの光線だ!」
雷はそう言い前に出ていた大華の事をかばい、大華をひき戻した。光線は大華の目と鼻の先をかすめていく。
「あぶなかったな」
あのまま前に出ていたら光線に巻き込まれていたところだった。大華は自分の服の一部がクロコゲになっているのを見て呆然としていた。
「下手すりゃああなっていたな」
雷はミランの事を見た。ミランはすでに骨だけの状態になっている。人間の姿は保たれておらず、頭蓋骨と元は肋骨だったのではないかと思う骨が、黒焦げになって転がっていたのだ。
「私が見たとおりだ。メディタは自分の意思で一人の人間を殺す」
大華は言う。額に手を当てて肩で息をしながら立っているメディタの姿があった。
「彼女がやったの?」
楊貴が言う。メディタはペタンと座り込んだ。それに黒羽は駆け寄っていった。
泣いているメディタの事を抱き上げ抱きしめた。
「よくがんばったな」
黒羽がそう言うとメディタは黒羽の事を抱きしめて泣き始めたのだ。
「うわあああぁぁあぁぁぁん!」
その様子を見た雷は楊貴のことを見る。楊貴は「これで全て終わったわよ」といった感じで雷に向けて微笑んできた。
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