第7話 ラウンドナイトの仕事

 床に畳が敷かれた場所だ。窓から見える外の様子は薄暗く、本来ならば皆帰っている時間だ。

 雷はここで黒羽と一緒になっていた。

「かかってこい。俺を倒すことはできんがな」

 黒羽は武道着を着ていた何の構えもとらず雷に向けて手を出した。

「うおおおぉぉぉぉおお!」

 雷は気合を入れて黒羽に向かって行った。黒羽は雷の事を掴み体を後ろに倒した。足で雷の体を支え、後ろに倒れた時の力を使ってそのまま雷を飛ばしていったのだ。

 巴投げという技である。

「ラウンドナイトは確かに超人的な力がある。だがどんな力であろうと、鍛えなければ強くならない」

 黒羽が雷に向けて言う。

「軽く投げただけだ。ラウンドナイトの力に目覚めて体は簡単にダメージを受けなくなってる。痛くも痒くもないだろう」

 黒羽が言うと雷はすぐに立ち上がった。雷は、また大声で叫びながら黒羽に突っ込んでいく。

「雄叫びなんて上げるなお前は町のチンピラか?」

 そう言うと黒羽は雷の手を取り捻った。

 関節を極めある程度痛いくらいに雷の体をひねり上げる。

「いてぇよ。もういいだろう」

 雷が言うのに黒羽は雷の手を離した。離すだけでなく雷の背中に蹴りをいれる。雷は思いっきり前のめりになって倒れていった。

「蹴る事ないだろうが」

 雷は言う。黒羽は冷たい顔をしている。苛立っているのは分かる。雷はそれに気づきながら黒羽の次の言葉を待った。

「ガタガタぬかすな。十分の一人前のお前をせめて半人前くらいになるまで鍛えにゃならんのだ。黙って稽古に打ち込め」

 黒羽はそう言う。

 雷はその言葉に苛立ってまた立ち上がった。

「お前のことなんかさっさと倒してやる」

「その意気だ」

 黒羽は雷に向かって行った。雷の武道着を掴むとまた後ろに引っ張った。

 雷の体を持ち黒羽は雷と一緒に転がっていった。そして、雷の事をまたも投げ飛ばす。

「だが生意気すぎる。俺がお前なんかに不覚を取るか」

「地獄車かよ。こんなん格闘ゲームでしか見たことないぞ」

 それでも立ち上がった雷。

「考えろ。もっと考えてから行動をしろ。お前は無鉄砲なやつだ。そんなんじゃいずれ死ぬことになる」

「うるせぇ!」

 雷はまた黒羽に向かって行った。

「考えろといったはずだ。脳筋で戦うことができるワケがあるか」

 今度は黒羽は雷の事を叩きふせる。雷はつぶれたカエルのようになって床の上に転がった。


「ねぇ。あの憎ったらしい事ばっか言う黒羽も、柔道をやっている時だけはサマになっていると思わない?」

 大華と楊貴は武道場の入口から雷と黒羽の様子をうかがっていた。

「あんなに必死になっている雷は初めて見た……」

 普段から、雷に向けて空手をやるように言ったが、一度も聞き入れられなかった。そんなものをやるより、ゲームやネットをする事を選んでいたのだ。

 だが今は違う。

 雷は必死になって強くなろうとしている。そしてそれには目的があるからである。

「メディタの事を助けるために」

 そう考えると大華の胸がチクリと痛んだ。自分のそういう気持ちを受け取ってもらえるだろうか? 雷はメディタを助けるために自分の力を借りようとしているのだ。

「メディタを助けることって出来ると思う?」

 大華は楊貴に向けて聞く。楊貴は首を横に振った。

「あなたの予言の力に聞いてみたら? 私は分からないの『メディタを助けることはできるが、メディタは助からない』って出てるわ」

「意味がわからないですね」

「こういう予言が出るのは珍しくないわよ。事件が起こって初めて『こういう意味だったんだ』って思うような例はいくつもあるの」

 予言の力もアテにはならないという事だろうか? 大華は腕を組んで考え始めた。

「そうだいいビデオがあるの、見てみると悩みなんて吹っ飛んじゃうと思うわよ」

 そう言いニヤリと笑った楊貴。

「若い子はいいわよね」

 クスクスと笑いながらいう楊貴は、大華の手をとってビデオルームに向かって行った。


「あの時の戦いの事が園内の防犯カメラに映っていたの」

 あの遊園地での一件の映像を大華に見せようとしているのである。大華はぼぅっとしながら見た。

「これは雷?」

「本当力にも目覚めていないのに無茶をするわね」

 この頃には力の片鱗が見えていたのだというが、楊貴から見れば少し力が使えるようになっただけの状態だ。

 ただの人間に毛が生えただけのようなものである。

「黒羽が雷君の事を見て『早死する』なんていうのも当たり前よ。でもそこがカワイイんだけど」

 頬に手を当ててうっとりしながら言う楊貴。

「そこが一番かわいくない所ですよ。あんな危険なことばっかして。雷はバカよ」

「それも若さかしらね? 私のために命をかけて戦ってくれる子なんていたら、私だったらすぐにゾッコンになっちゃうけどね」

「中身がゲームとアニメ漬けのオタクじゃね」

 さらに雷がメディタの事を追っている姿が流される。

「メディタ。今頃どうしているだろう?」

 攫われてしまったメディタの事を考える大華。大華はそれから雷の映像を見た。

 その後黒羽が投げた剣が飛び込んできた。

「これで死ななかったのが奇跡よ」

 体中から血を流し腹に大穴を開ける雷を見て大華はぼうっとした。

 自分は自力で逃げる事ができた。だけどメディタは攫われてしまった。

 それを見るとメディタがかわいそうに見えてもくる。せめてメディタの事を救おうと必死になってくれる人の一人でも必要じゃないかとも思う。

「私……何を考えているんだろう?」

 大華は思う。さっきから自分の考えている事は滅茶苦茶だ。『私は雷にどうして欲しいんだろう?』そう考えるが言葉は浮かんでこない。

 戦って欲しいのか、それともこんな戦いからは足を洗ってほしいのか、メディタを助けて欲しいのか、それともメディタなんか助けないで欲しいのか?

「悩みなさいね。そういう事で悩む事ができるのは若い子の特権よ」

 クスクス笑いながら言う楊貴。

「お前が恋愛を語れるとはな。二十九で彼氏なし交際経験なしの女が言っても説得力がない」

 楊貴はその言葉を聞いて顔を歪めて後ろに振り返った。

「稽古はもういいの?」

「休みもとらすに続けても上手くなるもんじゃない」

 黒羽が言う。その隣では雷がいた。

「休みなんていらないって言ってるんだがな」

 雷が言う。そうすると、黒羽が雷の足を蹴った。そうすると簡単に雷が倒れ前のめりになって床に伏した。

「強がりはやめろ。今のお前はヘロヘロだ。ゆっくり休むんだな」

 雷の前から居なくなっていこうとする黒羽。ジトリとした目をして楊貴が言う。

「あなた、嫌味を言いに来ただけなの?」

 そう言うと黒羽はピタリと足を止めた。『うっかりしていた……』とでも言っているような表情をする黒羽。

「そんなはずがない」

 黒羽は本題を話し出す。


「大華君。キミの能力を把握する必要がある」

 そう言い大華と雷と楊貴の三人は街にまで出てきた。もう空は黒く染まり星のひとつも見えない。ネオンや街灯が光り人の通りも多く焼き鳥屋などからいい匂いもしてくる。

「そこで、準備運動ね」

 楊貴は納得をしたようにして黒羽に続いて言う。

「大華君にクソガキ。君らに」

「おいこら!」

 雷が黒羽に言葉に反発する。

「クソガキじゃねぇ! 名前を言え!」

「お前の名前はなんだったかな? デンだったか? 『電』と書いて」

「分かってて言っているのが見え見えなんだよ! そんな変な間違い!」

 雷は黒羽につっかっていく。

「まあまあ二人共!」

 雷と黒羽の間に入っていく楊貴が二人がケンカを始めそうになるのを止めた。

「憎まれ口を言ってたら、話が進まないでしょう。私が代わりに説明を始めましょうか?」

「それにはおよばん」

 そこまで言うと黒羽は真面目に話し始めた。

「ホワイトブラッドセルゴースト。略してWBSGだ。今日はこれの討伐をする」

 黒羽が言うにはWBSGを倒すこと自体は簡単な事らしい。

 直立していて老人が歩くくらいの速度でノロノロと歩いているだけの奴らだ。剣で殴ればそれだけで消えていく。

 ただ数が多いのでそれらを倒すのは骨なのだという。

「この状況であればいい練習台だ。運動の後の軽いストレッチくらいに思え」

 黒羽がそう言うと続けた。

「雷。ホワイトブラックセルゴーストってのは、何の事だかわかるか?」

 雷はそう言われ考えた。

「ホワイトは『白』ブラッドは『血』ゴーストってのは『幽霊』で、セルは……」

「この場合、『細胞』だな」

 黒羽がそういうのを聞いて雷は言う。

「つまり、白血球の幽霊って意味だな」

 そう雷が言うと黒羽は満足そうに頷いた。

「そうだ。白血球は体に侵入をした細菌を殺すためのものだ。WBSGも地球のために細菌を殺している」

「なんか自虐的だな。その名前をつけた人は」

 雷と黒羽は同時に納得した顔をした。

「どういう事?」

 大華は聞く。黒羽はそれに対して答えた。

「地球にとって有害な細菌である、『人間』を殺すために、WBSGは生まれたっていうのが今の定説だ」

 さらに黒羽は続ける。

「こんな荒唐無稽な話は普通は信じないだろう。だが昔、こんな事があってな」

 昔、WBSGの討伐チームの資金が減らされた事があった。

 チームの給料は当然減らされ武器弾薬などを買う金も無くなったのだ。

 そうなるとWBSGに手も足も出ない。どうしようもなく手をこまねいていると、どんどん東北地方にWBSGが集まっていったのだ。

「そして、大地震が起こった」

 黒羽が言う。

「WBSGって災害を起こすのか?」

 雷が言うと黒羽もコクリと頷いた。

「それが起こった後予算は去年と同じ額入るようになった」

 自分達がやっている仕事が効果があると思ってもらえたのだ。

「それから先は言いたい放題に言えたもんだ。『すでにWBSGが日本中にはびこっている。いままでの予算と同じでは対応できない』とか言うとドバッっと予算が……」

「そういう大人の事情を教えるような時間じゃないでしょう!」

 楊貴が黒羽の言葉を止めた。

「あんたあの時の事をまた自慢したいだけでしょう?」

「悪いか?」

 そう言うと黒羽はニヤリと笑った。

「嫌味を言ったり、悪事の自慢をする時ばかりは楽しそうにするな」

 雷が黒羽に向けてそう言う。そうすると黒羽は顔を真顔に戻した。

「訓練を始めるぞ」

 そう言い黒羽は振り返って街の様子を見た。

「目をこらせ見えてくるはずだ」

 雷と大華が目をこらすと少しずつ周囲の景色が変わっていった。

 人の数は相変わらず多いし、店からこぼれる光は今が夜だというのを忘れるくらいに明るく街を照らしている。

 そして、その中に黒い人型をした物体が現れた。

「これがWBSG」

 フードをかぶり猫背で体中をスッポリ覆うようなローブを着た人影が、いくつも人の間をぬって現れたのだ。

「退治の仕方は簡単だ。武器で殴ればいい。倒すときの感触は雪に剣でも突き立てたかのように手応えがない」

 黒羽はそう言い目の前にいたWBSGを切り払った。そうるするとWBSGはまるで紙のように裂け煙のように姿を消していった。

「武器が無いなら殴ればいい。一発殴ればそれで消える」

 黒羽はすぐ後ろにいるWBSGに向けて裏拳を放った。そうするとまたも煙のようにして消えていく。

「そんな事しないでもこうすれば」

 大華は手を前にかざした。そうすると『子鬼』が現れてWBSGの一体に噛み付いた。そうするとWBSGは消えていく。

「それで『イザナミ』か」

 黒羽が言う。雷はいきなり日本神話の神の名前を出され首をかしげた。

「『イザナミ』がどうしたんだ?」

「戦いながら話す。ついてこい!」

 そう言うと黒羽は走り出した。剣を振り上げながら人の波をぬって走っていく。

 そしてWBSGを切り裂いた。

「遅れずついてこい!」

 黒羽はそう言い次のWBSGに向けて剣を振り上げた。

「もらった!」

 そう雷が言い『子鬼』を飛ばした。

 子鬼は黒羽が捉えていたWBSGに噛み付きWBSGを煙のように消していく。

「チッ……俺の獲物をわざわざ狙う事ないだろうが……」

「俺の獲物にお前が手を出そうとしたんだよ」

 雷が言う。黒羽は『こんなところで議論をしても無意味だ』といった感じである。何か言いたいことがあるかのようだが、

「イザナミとか言ってたな。あれはなんだ?」

 雷が聞くと黒羽は剣を振り上げながら答える。

「大華君の識別コードだ。俺は『ムラクモ』日本の神話で戦いの神の剣にあたる名前だ。大華君は『イザナミ』という名で呼ばれる事になった」

「なんか嫌な名前だな」

 雷が言う。大華は不思議そうにして聞いた。

「何で嫌なの? イザナミってどんな神様なの?」

 黒羽は無表情になった。黒羽は機嫌が悪くなると無表情になるらしいというのが、雷にはなんとなくわかってきた。

「雷君。答えてあげなさい」

 黒羽が言う。『こういう時は、俺にまる投げかよ』といった感じで雷は嫌な顔をしながら答えた。

「黄泉の国。地獄の神だ」

 雷がそう言うと雷の後ろを走っていた大華が、思いっきりダッシュして雷の後頭部を殴った。

「なぜ俺を殴る。なんとなく分かっていたけど」

「うるさい!」

 大華は上を見上げた。

「運動の後のストレッチにしては」

 楊貴も上を見上げて言った。

「すこし重いな。だが見つけたからには討伐をしなければ」

 楊貴の言葉に続いて言った黒羽。楊貴は手を空に掲げた。

「クサナギ! 来なさい!」

 そう言うと周りを真っ白に染めるくらいの光が空から降りてきた。そしてその光の中から、『クサナギ』が出現したのだ。

「呼んでみなさい。大華ちゃんも呼べるはずよ」

 そう言い空高く飛んでいくクサナギ。大華も手を上げた。

「来なさい! ……来なさい!」

 大華は何度も言うがロボットが現れるような雰囲気は無い。

「名前をつけてあげないと来ないわよ」

 空から声をかける楊貴。

「名前っていっても」

 大華は雷の方を見た。

「『ヨモツイクサ』なんてどうだ?」

「来なさい! 『ヨモツイクサ』」

 雷の言った名前を迷わずに唱えた大華。そうするとメスが現れた。

 顔は鬼の仮面を被ったようになっており、鎧を着た姿で鬼の仮面の形をした盾が二つ、『ヨモツイクサ』の周囲を回っている。

「なんか、悪役って感じ」

 大華が言う。ジトリと雷の事を見つめだした。

「俺を殴るなよ」

 そう言い両手を上げる雷。

「よくわかったわね」

 そう面倒そうにして言うとメスに手を触れた。

「嫌! なにこれ!」

 まるで底なし沼に沈んでいくかのような感触であった。どんどんと体が吸い込まれていく、嫌な感触を感じた大華はそれから逃げようとして体を引いた。

「怖がるなよ。『ヨモツイクサ』に乗るだけだ」

 そう言い雷が軽く大華の背中を押す。

 そうすると大人しくした大華はどんどんと『ヨモツイクサ』に飲み込まれていった。


「こうなっているのか」

 雷はコックピットに乗りながら言う。副座式になっており前に雷が乗り後ろに大華が乗る形だ。

「なんかいっぱい計器があるけど、これは?」

 大華がいろんなスイッチやハンドルの付いた座席を見て首をひねっている。

「副座式だからな。操縦以外の調整は後ろの人間がやるんだ」

 雷が目の前のモニターを見ながら言う。

「そうよ。メスは一人でも動かせるんだけど、やっぱり二人で動かした方が強いわ」

 楊貴の顔が雷の目の前のモニターに映る。

「あいつはデカいだけだ。お前一人でやってみろ」

 楊貴の隣に黒羽の顔も映る。黒羽は無表情で言った。

 雷が見上げると入道雲なのではないかとおもうくらいの巨大さの、黒い塊が見えていた。

「武器とかどうするの?」

 大華が言うのに雷が答える。

「子鬼だよ。あれを出してみろ」

 そう雷が言うと大華は前に手を伸ばした。

「いけ」

 大華がそう言うと『ヨモツイクサ』の周りを回っている盾二つが眼前に二つ並んだ。

 ただの盾であったはずの二つの盾は、生きているかのように口を大きく開け口からいくつもの子鬼が飛んでいった。

 子鬼は入道雲に噛み付いていく。すると子鬼が噛み付いた部分は煙のように消滅をしていった。まるで子鬼に噛み付かれえぐられているかのような姿だ。

 どんどんと子鬼を飛ばし少しずつ入道雲が小さくなっていく。

「これはエグい能力だな」

 黒羽が言う。

 鬼のような物を飛ばし、それを敵に噛み付かせ体をえぐりとっていく。

「今や、主人公のロボットが敵を食うなんて珍しい話でもないか」

 そう言い納得したようにして頷く黒羽。

「今日はこんなもんだろう。明日からはこれを毎日やるぞ」

 黒羽が柔道の稽古の時に言ったように、雷たちを早く半人前程度の力が出るように鍛えねばならない。

 いつ敵が攻めてきてもおかしくない状況でもある。

 黒羽達は雷達に強くなってほしいのだ。


幕間


「しけてやがる。お目当ての女子高生は捕まえられなかったし」

 そう言いミランは床に転がしてあるメディタを蹴りつけた。

「こんなガキじゃ何もできやしねぇよ」

 後ろ手錠に足かせを付けられたメディタは部屋に転がされていた。

「こいつの面倒を見る役まで押し付けられて。踏んだり蹴ったりだ」

 今、ミランがいるのはいつもの武器庫である。トランプを使って何かの賭けゲームをしているところだった。

「このガキは大きな力を持っているもんで普通のやつじゃ監視しきれないんだと」

 そしてミランがメディタの監視をする事になった。

 メディタは確かに強力な力を持っている。彼女の額の第三の目から放たれる熱光線は、小さな山ならば軽く吹っ飛ばすほどの力があるのだ。

 だが、ラウンドナイトとしての力を覚醒させたミランなら、どんな危険な力を持っている者であろうと対処をできるだろうという事だ。

「このガキを俺に押し付けて『この役は君にしかできない。みんな君に期待をしている』だとか言いやがった。フザけやがって」

 自分に対するあてつけなのだというのはミランだって分かっている。

 自分にそう声をかけた上官の顔には『普段迷惑ばかりをかけているんだから、こういう所でしっかりツケを払え』と書いてあった。

「気に入らねぇな」

 そう言いミランはメディタの顔を踏みつけた。

「サクラメントレディってのは、未来を予言する事ができるんだろう? なんか予言でも言ってみろよ」

 そう言いミランはメディタの顔をグリグリと踏みつけた。

「あなたは味方に背中を撃たれて死ぬよ」

 メディタは言う。それを聞いたミランは笑いだした。

「ククク……バカじゃねぇの? 俺は背中を撃たれても無傷のラウンドナイトなんだぞ。その俺が背中を撃たれたくらいで死ぬかよ」

 メディタの言葉にミランを始めその仲間たちも笑いだした。

「予言者っていうか、コメディアンだなこのガキ」

 仲間たち全員でメディタの事を踏みつけだした。

「おいおいなんか言ってみせろよ? カジノではどの台が出るか? とかさぁ」

「そんな都合のいい予言なんかでてくるもんじゃない」

 メディタがそう言うと、ミランはまるでサッカーボールでも蹴るようにして、メディタの頭を蹴り飛ばした。

「やっぱり面白くねぇ」

 そう言ったミランは部屋を出て行った。

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