第6話 契約のキス

 上空にメスが飛ぶ姿が見える。

 大華はそれを見て呆然とした。

「こんなのに勝てるの?」

 メスが一体大華を目指して飛んできていたのだ。それは、アメリカの先住民族であるインディアンの姿に近い。頭に羽を取り付けられた帽子みたいなものを被っていた。

 体は黄色くいくつものトゲが生えており、それらはカミナリのようにギザギザであった

「見たことがある。これはサンダーバードよ」

 楊貴も資料で読んだことがある。アメリカの保有するメスであった。

「すぐに走って! 黒羽と合流するのよ!」

 楊貴が言う。大華はそれを聞いて黒羽のいる場所まで走る。

 大華は黒羽の所に走った。

「雷! 雷は大丈夫なの!?」

 そう口に出しながら黒羽を探す大華。

「止まれ! 女子高生ちゃん」

 その大華の前に一人の男が飛び出してきた。

『なんかこの男は嫌な感じ』

 そう思う大華。舌なめずりをして、じっと自分の事を眺めるその男を見て、大華は体を押さえて身を引いた。

「なんだいその態度は? 俺は優しい男だよ。君に新しい世界を見せてあげるんだから」

 その言葉からは嫌悪感しか感じない大華。

「そこをどいて」

 大華はキッとその男を睨みつけた。そうすると、その男は気味悪くニヤリと笑い、その顔を見て大華はゾッとするのだ。

「いいねぇその感じ。気の強い子の方が好きなんだよ。イキがいい子の方がいい」

「だから何?」

 こいつは嫌な奴だと感じる大華。自分の体を抱きながらあとずさりをする大華を見る。その男は悲しそうな感じであった。

「どうしてここまで嫌われるんだろうね? まだまだ時間はタップリあるさ」

「獲物を前に舌なめずりとは三流だな」

 そう黒羽が言いその男の背中に蹴りを放った。

「黒羽!」

 大華は黒羽がやってきたのを見る。黒羽は上を見上げ大声で言った。

「俺も『クサナギ』に乗るぞ、準備をしろ!」

 楊貴はそれを聞くとクサナギの機体を黒羽に向けて飛ばした。

「そんな! ぶつか」

 大華がそう言う。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、黒羽と大華は『クサナギ』に乗り込んでいた。

『メスには、コックピットハッチなんてものはないの。その代わり手で触るだけで中に入っていく事ができるのよ』

 クサナギは空高く飛び雷達の事を探すために辺りを見回した。大華は、クサナギの手に乗せられている。

「雷達を回収して逃げるぞ」

 暴風の中でもよく聞こえる声で黒羽は言った。

 クサナギの手の上から顔を出して眼下を見下ろした大華は雷達の事を探した。

「あそこ! 雷達が見えるわ!」

 そう大華が言う。雷は遊園地のアトラクションを上手く壁にして逃げていた。


『FPSをやっていた事がこんなふうに役に立つなんて』

 雷はそう思いながらメディタの手を引いて逃げていた。黒羽は言っていたのだ。

『俺はクサナギと合流する。お前はメディタを逃がせ!』

 そう言いクサナギに向けて走る黒羽の背中を見ながら、雷は別の方向に逃げていったのだ。黒羽が向かって行った先には遮蔽物が少ない。ひらけた場所なんかにいたら背中を撃ってくださいといっているようなものである。

 建物が多くごちゃごちゃしているような場所を狙って走っている雷。こういう所を走られたら追うのが面倒であるというのはよく知っている。

 トイレにを見つけその裏に隠れる雷。物陰から追ってくる男達の事を伺うために少し顔を出す。

 その瞬間に発砲をされた。相手が撃った弾は雷の頬を掠めたようで、雷の顔の皮が切り裂かれ血が顔に滲んだ。

 相手の事を覗くのをやめ、またメディタを連れて走り出そうとする雷。自分達を追う足音が聞こえる。その音は少しずつ近づいてくる。

「こっちだ!」

 そう言う雷はメディタの事を引っ張る。

「雷。もういいの。私走れない」

 まだ幼いメディタにはここから逃げ切る体力がないのであろう。膝を落とし呼吸も荒くなってしまっていた。

「ダメだよ。私は捕まっちゃう。雷だけでも逃げて」

 メディタは予言をしていた。この先に何が起こるのかが分かっていた。

「この先私達はどうやっても捕まる。このままあいつらに追いつかれたら雷は胸を撃たれちゃう。私を置いていけば撃たれない。私の事を助けてくれる事もできなくなっちゃう」

 予言の力で先を見たメディタ。

「俺は撃たれるのか。そりゃ怖いな」

 雷はそう言いながらメディタの体を持ち上げた。肩にメディタを担ぎ先に向けて走っていく。

「だめ! これは私が見たとおりの世界だよ! すぐに足を撃たれちゃう!」

 メディタが言うが雷はメディタを担ぎながら言う。

「お前には未来が見えるんだろうが俺には見えないんでね!」

「だったら!」

 メディタがさらに何かを言おうとしているのを遮った雷。

「だから!」

 そう言う雷。メディタは雷の言葉を聞いた。これから何を言い出すつもりなのだろうか? その言葉の内容は自分を元気づけるものなのかもしれない。もしかしたら、その言葉が、希望になるのかもしれない。メディタにはそう思った。

「だから、俺はがんばれるんだよ! お前は先が見えるからつい諦めてしまうんだと思う。だが、先を見る事ができない俺は、がんばれば報われると思うことができるんだ! 未来の事が分からなければ、できる限りいい未来にたどり着くために努力ができるんだ!」

 雷は言った。雷の後ろから追ってきた男は、発砲をした。

 その弾は雷の足に命中をした。

 前のめりになって倒れた雷はメディタの事を強く抱きしめた。

「お前は、だれにも渡すもんか!」

 メディタを強く抱きしめ体を起こして追っ手を睨みつけた。

「やめて! 雷の事は助けて!」

 メディタは言う。

 だが追ってきた男達は雷の頭に拳銃を突きつけた。

「だめ!」

 そう言いメディタは銃身を持って発射口を雷から逸したのだ。


 ドォン!


 その次の瞬間に弾が打ち出された。

 メディタが銃の先を、雷から逸らしていなければ確実に雷の頭は吹き飛ばされていた。

 だが、追っ手の男はもう一度銃の砲身を雷の頭に押し付けた。


 ダダダダダダ


 男の持つ銃から発せられたのではない銃の発射音が辺りに響いた。

『無事か!』

 その後に黒羽の声が聞こえてくる。そして雷の目の前で雷の事を撃とうとしていた男たちは体に穴を開けて倒れていった。

 上空を見るとクサナギが銃を持っており、銃口から煙が上がっているのが分かる。

 体に大穴を開け、息絶えた男。その男の姿は肉塊といってもいいようなものだった。人間としての形をすでに失っているその二つの死体は、真っ赤な血を滴らせて転がっていた。


 黒羽は雷を助けるとすぐに後ろに振り返った。

 足を撃たれて走れなくなった雷。メディタはその雷に寄り添っている。

『なぜ、逃げない?』

 メディタの事を見てそう思う黒羽。

『下手に動き回られるよりも、こっちの方が護衛をしやすいでしょう?』

「俺は手一杯だ!」

 サンダーバードは、黒羽に向けてトマホークを投げつけてきた。黒羽はそれを剣で叩き落とす。

 トマホークはそれから、ゴムでもついているみたいにして、サンダーバードの手元に戻っていった。

 サンダーバードの右手に光の塊が生まれれた。

 その光の塊は形を成し小さな鳥のような姿になっていった。それを黒羽に投げつけると、その鳥は電撃を放った。

 眩く光り体から電撃を放つ鳥。それで黒羽の視界が真っ白になってしまうほどの光を放っていたのだ。

 少しして光が消え目も慣れてくる。黒羽がサンダーバードの事を確認すると、自分に向けてトマホークを投げつけているところであった。

「雷君が!」

 楊貴が言うのを聞き雷達の方を向いた黒羽。トマホークから逃れると、少しだけ敵から距離をとった。

「大華君。自分で着地できるな?」

 黒羽は言う。大華は下を見下ろした。

「無理に決まってるでしょう! この高さ!」

 地面は遥か遠くに見えている。雷達がゴマ粒のようにしか見えないくらいの高さである。この高さから人間が落ちたら間違いなく死ぬ。大華は顔を青ざめさせて首を横に振った。

「今のキミはサクラメントレディの力が開花しかけている。このくらいの高さなら着地をできるはずだ!」

 黒羽がそう言うが大華は下を見て生唾を飲んだ。

「動くぞ! 伏せろ!」

 黒羽が言う。大華はその言葉に合わせてクサナギの手にかがみ込んだ。

 大華は電撃を放つ鳥の姿を見ながら考える。黒羽は自分を守りながら戦うのは辛そうである。このままでは黒羽は負けてしまうかもしれない。

「こんな事で怖がってちゃ、雷のバカにバカにされる」

 大華は立ち上がった。眼下遠くに見える地面を見て恐怖を感じながらも、自分を奮い立たせた。

 震える足を動かし大華は身を投げた。


「なぁ。運命ってのは簡単に変わるもんなんだよ。俺が胸を撃たれるんだって?」

 足から血を流しながらの雷は言った。

「分かったから早く病院に行かないと」

 メディタは泣き出しそうな顔をして雷に向けて言った。

「本当に未来を変えたね。雷ってすごい」

 上空で戦っている『クサナギ』を見上げる雷。彼らの方も戦いが佳境に入っているようだ。

「相手は見るからに砲戦機だよな」

 大きな機体に多くの遠距離武器。剣や槍なんかの近接武器をもっているようにも見えない姿。

「だああああぁぁぁああ!」

 そう声を上げた大華が空から落ちてきた。

 まるで体操選手のように着地した大華は目を涙でにじませた。

「できた。本当に」

 もしかしたら地面にぶつかった瞬間に、自分は死ぬのではないかと、思っていた。

「お前! どこから!?」

 雷が聞いてくる。空に浮かんでいる『クサナギ』を指さした大華は雷の様子を見た。

「私がいると邪魔にしかならないからね」

 両手で剣を持つ事ができるようになった『クサナギ』が敵のサンダーバードに斬りかかっていっているところであった。

 そこに発砲音が響く。

「これってもしかしてチャンスかなぁ? やっぱり、俺って神からの祝福を受けているんだね」

 ミランがそう言いながら三人の前に出てくる。

「まだ追ってきてた」

 大華としては顔も見たくない相手である。その男はまたいやらしく笑った。


 空で二体のメスが戦っていた。クサナギに向けてトマホークや矢を撃つ敵の攻撃を『クサナギ』に乗った黒羽は避けているところだ。

「雷の奴は砲戦機と言ってたな」

 黒羽は電気を放つ鳥を避けながら言った。

「あいつの相手をしている暇は無い」

 そう言う黒羽。楊貴はそれを聞きながらコクリと頷いた。

 コックピットの中は前後にシートが並んでおり、楊貴はその後ろの座席に座っている。

 前の席には黒羽が座りハンドルを持ちながらこの機体を操作している状態だ。

 前に見えるモニターはまたトマホークを投げつけようとする敵の機体。サンダーバードを映している。

 手に持った武器を振り上げサンダーバードに斬りかかる黒羽。

 剣は敵の機体の肩部分を思いっきりたたきつぶした。

 装甲を叩き潰されたサンダーバードはすぐに『クサナギ』に背を向けて逃げ出していった。

『こりゃ、あんたが上手いワケじゃないわね』

「ああ……俺に壊されるのを待っている感じだったな」

 楊貴が言いそれに黒羽が同意する。楊貴たちには相手がワザと攻撃を食らったように見えたのだ。

「俺の剣を避けようともしなかったな」

 相手は機体を壊されて撤退をする事になるのを望んでいるようだった。

 黒羽は腑に落ちないものを感じながらも雷達がいる場所に戻っていった。


 雷は声のした方を向くと一人の男がいた。

「キミって女子高生の彼氏か何かかい?」

 いきなり下衆な事を聞いてくる男。

「ただの昔からの腐れ縁だよ」

 雷が答える。その言葉を発した男は身なりはいいが、この男からは嫌な感覚を感じる。

 その男はニヤリと笑って言う。

「そうかい」

 そう言うとその男は雷に向けて発砲をした。その銃弾は胸に命中し雷はそれから糸の切れた人形のように体の力が抜けていった。

「雷! 雷! 死なないで! 返事をして!」

 大華は雷に駆け寄り雷の事を揺さぶった。大華は雷の口元に手を当てた。

「まだ息がある」

 そう大華が言う。

「手ぶらで帰るワケにはいかないんだよ」

 胸を撃たれた雷は明らかに意識を失っている。

 もう死体になってしまったかのようにピクリとも動かなくなった。

「ホラ。出てきな」

 男がそう言うと建物の影から何人もの男が顔を出してきた。十人以上の敵に囲まれる大華と雷達。

 出てきたら男たちの行動は素早かった。

 男達は大華とメディタに、いっせいに近づき猿轡を取り出した。縄で二人を後ろ手に縛り二つの大きな袋の中に大華とメディタを押し込んだ。

 抵抗をしようとしてもロープはしっかりと体に食い込んで外れない。手際の良さから、男たちはこのような事が得意である事がわかる。

 袋の中に詰められた大華。真っ暗の袋の中に詰められた大華は外の様子がよく分かった。

『やめろ……』

 大華はミランが拳銃を雷に突きつけているのが見えたのだ。肌で感じたとか会話を聞いて、頭にその姿が浮かんだのとかではない。透視の力を持って見ることができたのだ。

 大華は手をミランに向けて伸ばした。

 腕を縛っていた縄はすでに『噛みちぎって』ある。ゆっくりとミランに向けて手を伸ばし『子鬼』を飛ばした。

 大華は光の届かない袋の中にいるにも関わらす、外からの光を感じた。自分が飛ばした『子鬼』が袋を突き破ったのだ。大華はすぐ横に向けて手を当てた。

 そうするとまた『子鬼』を飛ばした。

 大華は自分が入っている袋を持つ者を狙って子鬼を飛ばしたのだ。

 袋に穴が空き血が飛び込んできた。持ち上げられていた袋がドサリと地面の上に、下ろされた。大華は袋の口を、『子鬼』を使って吹き飛ばし袋の中から這い出てきた。

「やめろ」

 小さな声で言う大華。ミランは大華の事を見て驚いているだけだった。

 大華は手をミランに向ける。手のひらの上で黒い塊が生まれたかと思うと、その黒い塊は、まるで餓鬼のような姿を作りミランに向けて飛ばされていった。

「ひぃ! なんだこれは!」

 ミランは大華が打ち出した『子鬼』の事を見てそう言った。

「覚醒って奴? そんなん望んでいないのに!」

 ミランは『子鬼』をもろにくらった。肩の部分を噛み付かれると子鬼が消えていく。

 歯型のはっきりと残った傷が作られた。そこから血が噴き出しミランは倒れていく。

「ヒィ! 痛い! 痛い!」

 ミランはそう言いながら転げ回った。

 その様子を見かねたミランの仲間の兵士は、ミランの事を二人がかりで担いで大華達の前から姿を消していった。

「メディタは」

 意識を取り戻した雷は最初にそう言った。大華はそれで胸にチクリとしたものを感じる。

「メディタは連れて行かれちゃった」

 大華がそう言うと雷は立ち上がる。

「お前は何をやってたんだ! メディタの事を助けないと!」

 大華はそれを聞いて雷には見えないようにして奥歯をかんだ。

『私が何をやってたんだって?』

 自分だってがんばった。雷の事を守るために戦ったのだ。それにも関わらず雷は今になってもメディタの心配ばかりをしている。

「あの子を助けたいなら、好きにすれば」

 雷にそう言う大華。寂しくて、辛くて、悔しくて。いろんな感情が胸の中でごちゃまぜになっている。こんな事を言って雷に怒られるんじゃないかとも思いながらも、雷にそっぽを向く。

「俺が助けに行く」

 そう言い雷は立ち上がった。

「銃で撃たれるってのは結構大したことないんだな」

 そう言い立ち上がる雷。本来ならこんなケガをしていたら動かないままなのがいいに決まってる。

 無理をしてメディタの事を追おうとする雷。本来ならば止めるところなのだろうが、大華の胸の奥に生まれた気持ちが邪魔をした。

「勝手に行きなさい」

 大華は冷たく言った。雷はそんな事をはお構いなしに大華の横を走っていった。

「あのバカ。知らない」

 胸が痛む感覚がある。それを押し殺した大華は雷の背中を見送りもせずに、悲しく沈んでいったのだ。


「大華君は無事だがメディタが!」

 黒羽はそう言った。

 メスの撃退をしても肝心のサクラメントレディを奪われてしまったのなら意味がない。

 それに奪われたのがメディタだというのはこの先ヤバイ事になるだろう。

 『シヴァ』の力を悪用されたら何千人もの人々が犠牲になるような大災害を起こすことだってできるようになるのだ。

「予言は当たったな。俺はメディタを殺すぞ」

 黒羽は言う。メディタを取り返す事は諦める。今黒羽はメディタが押し込まれている袋を持った男たちの姿を見つめていた。

「『ヤマタノオロチ』を出せ」

 黒羽がそう言うと、楊貴はそれを取り出した。

 それは先が八本に分かれている剣である。この剣の先は自在に動くようになっており、その一本一本が敵を貫こうとして動く武器だ。

「恨むなよ! メディタ!」

 黒羽がはそう言いメディタを運んでいる男たちの元に『ヤマタノオロチ』を投げつけた。


「メディタ! 助けてやるぞ!」

 雷はメディタの事を追いながらそう叫んだ。

 体を動かす事が苦手だった雷だが足と胸を撃たれ、体中から血を流している状態でも、超人的な速さで走る事ができた。

 撃たれた足も胸も痛みはない。いつもだったら少し走っただけで根を上げる心臓も、今は正常に稼働をしている。

 まるで生まれ変わったような気分であった。

 すぐにメディタの事を運ぶ男たちに追い付きメディタの詰められている袋を掴んだ。

 相手はとてつもなく驚いている。足や胸を撃たれてもなお、自分たちについてくる事ができるくらい動ける少年を奇異の目で見ているのだ。

『今ならいける。こいつらを殴り飛ばしてメディタを連れ出す事ができる』

 根拠もなくそう確信した雷。

 雷は空から風を切ってこちらに向かってくる剣の姿を察知した。

 あのままじゃ確実にメディタに当たる。あんなものを食らったら超人的な体を手に入れたメディタであろうとも、ひとたまりもないのだ。

 そう考えると雷はさらに加速した。そしてメディタの入れられた袋を持った男の事を蹴り飛ばしたのだ。

 男はまるで石ころが飛んでいくかのように吹き飛ばされ、アスファルトの上を転がった。

 そして剣は雷と他の男たちのいる場所に命中をしたのだ。

 男たちは刃で串刺しになった。黒羽の投げた剣は容赦なく男たちの体につき刺さる。

 雷に突き飛ばされた男は振り返ってその様子を見た。

 明らかに顔に恐怖が浮かんでいるのだが、その男は自分の任務は忘れていないようで、メディタの事を詰め込んだ袋を持って先へと走っていってしまったのだ。

「待て! メディタを置いていけ!」

 体に剣が突き刺さり動けなくなった雷は、その様子を見つめる事しかできなかった。


 戦いが終わったあと黒羽は真っ先に雷のところに向かった。雷の体に大きな刃が突き刺さっているのを見たが、黒羽は動揺をしている様子はない。

 この程度の事では雷は死なない事を黒羽は分かっているのだ。

「抜くときはうんと痛いぞ。この剣には返しが付いていて簡単には抜けないようになっている」

 黒羽は剣を雷から引き抜くと剣に刺さったままの死体を見つめた。

 黒羽はその剣を消す。そうすると体に穴を開けられた死体はバサバサと倒れていった。

「わざわざ抜かなくても、消せば良かったんじゃないか」

 腹に穴があいた雷は言う。本来ならばそれは致命傷になるような傷である。内蔵を貫き、背骨までも折っているような大怪我である。

「仕置きだ。今じゃ多少痛い思いしたぐらいじゃ大して辛くないだろう」

 雷は体を触りながら言う。

「これがラウンドナイトの体か」

「その通りだ。お前はラウンドナイトとして覚醒をし始めている」

 そういうと黒羽は雷の胸の穴に手を伸ばした。黒羽の指が雷の傷口に埋まっていくと、雷が大声を上げる。

「うわあああぁぁぁああ!」

 黒羽が雷の胸の穴に指を突っ込み体の中を掻き回す。

「これか……」

 そう言うと雷の胸から指を引き抜く指では銃の弾をつまんでいた。

「気をつけろ。傷が塞がったら弾が体の中に残り続ける事になるぞ」

 そう言うと黒羽は弾を指でつまんで握りつぶした。そうして弾を捨てる。

「でもメディタは千人の人を殺すわよ。私の『予言』だと」

 黒羽の後ろにいた楊貴が言い出す。

「未来は変えられる」

 雷が言う。雷はしゃべるたびに小さく呻く。

「しゃべっちゃダメよ」

 大華がそう言って雷の事を止めようとするが雷はそれでもしゃべり続けた。

「メディタにそんな事をやらせない。俺が未来を変えてみせる。今度こそ!」

 雷は言う。そう言うと同時に雷は口から血を吐きながら言う。喉に血が詰まりゴホゴホと咳をした。

「威勢だけは褒めてやる」

 黒羽は雷の事を見ながらそう言った。大華に向く黒羽は、大華に聞いた。

「選ばせてやる。雷を戦争に巻き込むか? それとも雷を危険なめにあわせないように、自分だけでサクラメントレディになるか?」

「それって」

 大華が言う。黒羽は雷をサクラメントレディの戦いに参加をさせてもいいと言っているのだ。

「よく考えろ。こいつはこんな大怪我をした。こんな戦いを続けていると、いくらラウンドナイトとはいえ、この先絶対に雷は死ぬ」

「いままで俺の事は『お前』とか呼んでいたんじゃないか、いきなり名前で呼ぶようになりやがって気持ちわるいぞ」

 雷が言う。

「悪かったな、気持ち悪い男で」

 雷の嫌味を軽く受け流し黒羽は続けた。

「大華君はどうしたい?」

 雷は大華の事をジッと見つめる。

 雷は大華のラウンドナイトとして戦う事を望んでいるのは明らかだ。

 大華は自分の気持ちに聞いてみる。

 不安だ、雷と離ればなれになって誰とも一緒になっていく事ができなくなるのが不安だ。

 だが、そのために雷を巻き込むのも心が痛む。

 雷みたいに無鉄砲ではすぐに死んでしまうかもしれない。

「でも一緒にいたい」

 大華は心に決めた。雷は座り込んでいた。雷は血を流しすぎて立っていられなくなっているのだ。

 大華は雷の顔を持った。

 大華は自分からかがみ込んで雷の顔を同じ高さに顔を持っていく。

「責任とってよね」

 大華は言う。その言葉にはいくつもの意味がある事を楊貴は知っていた。

 黒羽はその様子を黙て見届けている。

 それは数秒雷と大華の唇が重なるだけだ。大事な契約の証であり雷を戦いに呼び込むための大事な儀式でもある。

 雷が好きそうな、アニメやマンガでは、意味もなく体が光ったりして、重要な契約を盛り上げるようなエフェクトがあるのだろう。

 ボンヤリとそう考えながら、雷にキスをした大華は唇を離す。雷はついには意識を失ってカクンと倒れていった。

 大華は力を失った雷を抱きしめ楊貴と黒羽の事を見ながら言う。

「これからよろしくお願いします」

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