つながった電話

「……はい、大丈夫です。ええ、わざわざありがとうございました」


 スマホの通話ボタンを押し、僕は施設の先生との通話を切った。

 大学の学生寮で迎えた20歳の誕生日。


 今年も「あしながおじさん」から何百万円かの寄付金が振り込まれたそうだ。

 もちろんアルバイトと奨学金で今の僕は施設との関係は無いが、最初に振り込まれた5年前から、添えられたメッセージには『刈咲かりざき さとし様』と言う宛名が書かれている。

 そのため、誕生日のこの連絡が、毎年恒例の物となっていた。


 最初の寄付金のおかげで、僕は高校へ行くことが出来た。

 今では大学へも通い、こうして自分のやりたい仕事のために勉強も出来ている。


 スマホだって買ったし、あのころに比べたら僕の人生は順風満帆だ。

 まぁそれでも、アルバイトと学業の両立にはそれなりに厳しいこともあった。


――ジリリリン


 部屋の片隅、どこにも繋がっていない古い黒電話がベルを鳴らす。

 僕は高鳴る胸を押さえて受話器を取った。


『……さとし?』


 懐かしい声。


「はい。美羽みわさん」


『……やっと……通じたわ』


「ええ、ところで、美羽さん。『あしながおじさん』って美羽さんでしょ?」


『やぁねぇ、25年ぶりの電話でいきなりそんな話? ……相変わらず会話が下手ねぇ』


「すみません」


『いいのよ、それに元々は悟が私にくれたお金だもの』


 屈託なく美羽さんは笑う。


「美羽さん、今25年ぶりって言いましたよね」


『ええ』


「じゃあ今は何年ですか?」


『やぁねぇ、2005年に決まってるじゃない。そんなことも分からないほど耄碌もうろくしてないわよ』


 僕はその言葉に、思わず大声で歓声を上げた。


「やった!」


『……どうしたの?』


「どうしたって……僕、やっと美羽さんに追いついたんですよ。同じ時代で……今から会えませんか?」



――僕はその日、ついに初恋の人と出会うことになる。



 20年の時を超えた奇跡で出会った運命の人に。


「はじめまして……って言うべきかな、糸魚いとうお 美羽みわよ」


 指定されたカフェのオープンテラスで見かけた彼女は、想像していた以上に美しい女性だった。

 照れくさそうに笑う彼女の声は、始めて聞いたあの時のままだ。


「もう、やぁねぇ、いまさらこんなおばさんに会ってどうするつもり?」


「そんなの、決まってますよ」


 そう、だって僕はついに彼女に追いついたのだ。


二十歳はたちよ、永遠の、ね』


 そう言っていた、彼女の歳に。

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つながっていない電話 寝る犬 @neru-inu

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