希望へとつづく電話

さとし?!』


美羽みわさん!」


 待ちに待った電話が鳴ったのは、4月の10日。

 僕が義務教育最後の学年になり、美羽さんの時代であの事件が起こる、わずか2週間前の事だった。


『通じた! 通じたよ! 悟!』


「美羽さん、今生活は!?」


『やぁねぇ、久しぶりの電話でいきなりそんな話? ……相変わらず会話が下手ねぇ』


「……すみません」


『まぁ大丈夫よ、まだお店はやれてる』


「良かった。あの、僕、美羽さんを助ける方法を思いついたんです。今から言う事をメモしてください」


『なぁに? 何の話?』


「いいから、この方法が上手くいけば、美羽さんには……えっと、税金を払っても5千万円以上の現金が11月に手に入ることになります」


『何の冗談よ? 私、14歳の子供にお金の心配してもらうほど耄碌もうろくしてないわよ』


「ごめんなさい。失礼なのは分かってます。でも、どうしても美羽さんの役に立ちたくて」


 必死に説得する僕に、美羽さんは『分かったわよ』といつもの笑い声をくれ、そして話を聞いてくれた。

 場所、時間、その後の行動。

 僕は細かく説明する。

 時々『まって』とペンを走らせながら、美羽さんと僕の作戦会議は1時間ほど続いた。


「いいですか、確認します」


『うん』


「4月25日、午後6時前、場所は銀座三丁目の昭和通り沿い、ガードレールの上に古新聞でも入っているような風呂敷包みがあります」


『どんなガラの風呂敷?』


「すみません、良くわかりません。とにかくそれには1千万円の札束が10個、新聞紙に包まれて入っています。拾ったら、すぐに警察に届けてください」


『1千万円の束が10個って……一億円?』


「拾得物ですから、美羽さんのものになるのに半年かかりますし、その時所得税も引かれますから、実際は約6千6百万円ほどの現金が美羽さんの物になるはずです」


『夢みたいな話ね。でもどうして悟がそんな話を知ってるのよ?』


「夢みたいな話……って言うなら、こっちだって負けてませんよ……」


 僕たちはその後、僕が美羽さんから見て未来の人間であること、僕の生きる世界が2000年であることを笑いながら話し合う。

 最後にはいつも通り、普段の生活の愚痴を言い合い、笑って「それじゃあ、また」と電話を切った。

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