第10話
「これは一体どういう事なんでしょう…」
明川もさすがに不安そうな顔でこちらを見つめてくる。
銀河はしばらくの間、新聞と雑誌の記事を睨み付けるように凝視していたが、突然スっと立ち上がった。
「寿さん?」
「行きましょう。このままでは二人の命が危ない」
「あのっ、寿さんそれは…」
明川の困惑の声がまだ聞こえていたが、銀河は振り返る事なくベースから出て行った。
「この家はまだ「生きて」います。それが正しいのなら、このままにしては危険です」
銀河は屋敷の二階へと足を踏み入れた。
ここは芽多留たちが行った部屋だ。だが二人は戻って来る事はなかった。
常識的に考えると二人は戻っていないのだから、まだ二階にいるはずだ。
だが二人の姿はどこにもない部屋は銀河はじっくりと観察した。
「この壁は……?」
ふと奥の三畳ほどの小部屋に入った銀河は外壁側の壁に何か違和感を感じて眉を寄せた。
そして大切なものにでも触れるかのような優しいタッチでザラザラとした漆喰の壁に指を這わせた。
「温かい……」
銀河が触れた壁は不思議な事にほんのりと熱を持っていた。それは外気の温度が浸透したものではなく、明らかにその一部分だけが熱を持っているのだ。
熱いわけでもなく仄かな温もり……。それは人肌の温かさに似ている。
試しに隣の部屋の壁にも触れてみたが、そこはどれもひんやりとしていた。
「ここに何かがある」
銀河は下ー降りて明石のいるベースに戻った。
「あ、寿さん。何か分かりましたか?」
銀河の顔を見て、明川は明らかにほっとしたように肩の力を抜いた。
「いえ。まだ…。それより二階の奥にある三畳ほどの小部屋は何の部屋だったか分かりますか?」
「あぁ、あの小部屋ですか。あれは住み込みの使用人が使っていた部屋だそうですよ」
「使用人……ですか。そんなに裕福な家だったのですね」
「ええ。何しろこの土地一帯を納める大地主だったそうですから」
「そうですか……それなら恨みの重さも……」
「はい?何か言いましたか」
「いえ。何も。ではもう少し調査を進めてみたいと思います」
そう言って銀河は再びあの小部屋へと向かった。
銀河幻想懐古店 涼月一那 @ryozukiichina
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