第4話

 そして現在。

 彼は破れたノートを前に絶望している。


 彼の作ったタイムマシンは完璧だった。


 彼は過去へ向かい、自らの過去を改変したのだ。


 しかし、その改変の瞬間、彼の過去は現在へと続く「500円を無くした」世界と、別の現在へと続く「500円を無くさなかった」世界に分岐したのだ。

 そもそも、彼は500円を無くした幼少時の記憶がなければ、タイムマシンを開発しようだなどと思いつきもしなかっただろう。

 彼の過去改変により、500円を無くさず、チョロQを購入できた自分は確かに存在する。しかし、今タイムマシンを開発して過去を変えに行こうとしている彼の世界は、相変わらず500円を無くしたために、それを変えようとしてタイムマシンを開発した世界なのだ。


 バレンタインチョコをちゃんと受け取った彼も、従姉妹のお姉さんと一緒にお風呂に入った彼も、ランチにカツカレーを食べることが出来た彼も、それらすべての後悔をモチベーションとして、タイムマシンの開発に半生を掛けてきた彼とは別の世界の彼なのだった。

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