第2話
唸りを上げるタイムマシンの中に居たはずの彼は、数十年前に暮らした懐かしい実家の風景を前に立ち尽くしていた。
腕に巻かれたリストバンドには「1986.08.15 JST16:00.15.000 残り時間:1時間01分11秒」の表示が淡いブルーで表示されている。
見慣れた家から少年だったころの自分が駆け出すのを見て、彼は慌てて後を追った。
この後1時間以内に、子供の彼は500円を無くす。
それを見つけて、注意するなり、拾って返すなりすれば、彼の人生の後悔が一つ消えるのだ。
自分が公園で遊ぶのも、友達を呼びに行くのも、彼は集中して監視を続ける。
そして16時57分、彼は子供のころの自分が神社へ向かう途中で、点滅する信号を渡ろうと駆け出した瞬間に500円玉を落とすのを見つけたのだった。
彼は駆け出し、しっかりと拾い上げた500円を握りしめて子供のころの自分を追う。
点滅が終わり、赤信号になった歩道で車に轢かれそうになりながらも、彼は何とかそれを自分に手渡すことが出来た。
「今度は無くさないように気を付けて。……境内ではチョロQが売ってたよ」
「うん! おじさん、ありがとう!」
大きく手を振って駆けてゆく自分を見送り、彼は大きく満足のため息をつく。
やがて夕暮れの空に流れる懐かしい「夕焼け小焼け」の町内放送を聞きながら、彼は自分の時代に戻った。
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