第126話 暗躍する者、抗う者たち
カルカナ渓谷の上空に飛来する物体があった。目玉に蝙蝠の翼と足をくくりつけたような謎生物は渓谷より飛来してきた飛竜に一飲みにされてしまう。その遥か東側に停まっている馬車では…。
「やれやれ、これでお使いは終了ですかね。我々も巻き込まれてはたまりません。ジギール、出してください」
水晶をしまうと魔術師ハイドラは手綱を握る狩人に指示をする。「ああ」と答えると馬車は徐々に加速して、遂には魔物が視認できないところまで来た。
「ハイドラ、結局あの包みは何だったんだ?ダートの依頼とはいえカルカナ渓谷にゴミを捨てたわけではあるまい」
魔術師は薄ら笑いを浮かべると「呪詛ですかねぇ」と答える。
「と、いうとグロムリの得意分野のか」
と返す狩人に魔術師は疲れを含んだ笑顔で。
「あのアホには無理なレベルの代物ですよ。あれだけの魔物に、ただ暴走させるだけではなく行動に指向性を持たせるなど、どんな大魔術が絡んでいるのか想像もつきませんねぇ」
「大魔術…そう言うわりには嬉しくなさそうだな。その手の物は好きだったのでは?」
「ええ、そのはずなんですがね。ただしアレに関しては本能のレベルで危機感を抱きましたからねぇ」
「なら、とっととオサラバするに限るな」
馬車は再度加速して見えなくなっていった。
…
……
それは突然やって来た。朝の食事も終わり哨戒任務につこうとした矢先の事。地鳴りとともに北側の地平線が黒く染まったのだ。鳴らされる鐘の音に緊張が走る。
「
将校とおぼしき騎士が馬上から叫び、兵士は慌ただしく行動する。そんな中、本陣より少し離れた場所で年若い1人の魔術師が青ざめてた。
「ケンちゃんや、オレらもいるから安心なさい」
「ででででもクマ先輩?僕あんなに沢山の魔物を見るの初めてででででで」
「一匹当たりはホント大したことないよ。…(ギルマスさぁ、ぶっちゃけどう思う?)」
「(事実大したことないですが、あの数は厄介ですな。トラン殿は範囲攻撃に目処は?)」
「(ぶっちゃけナナイの魔法くらいしかないわ。オレのホームは
ナバルがいれば1発で吹き飛ばせるのになぁと、今更なことを考えると、
「まぁ、これだけいるんだ。何とかなんべ?」
小グマの答えに思わず唸る悪魔。
「どうですかねぇ。剣聖殿と側近の人達は勿論ですが、辺境伯も中々です。が、それ以外の兵ではやや厳しいですねぇ。それがパッと見、数はおよそ10倍強といったところですね」
「なら初めに私が大きいの撃った方が良いですね」
いつの間にか小グマの隣に立つナナイ・グラディスが答えた。
…
……
騎士に憧れ王都に上京した。入団試験にこそ落ちたが、センスは良いと言われて兵士になった。ぶっちゃけ騎士と兵士の違いが良くわかってなかった俺は誘いに飛びついたけど後悔はしてない。…今までは。
「おいビリー、あれは流石にヤバくないか?」
「…い、今さらだろ。それに此処には総司令と剣聖様がいるんだ。俺たちが使い捨てられるなんて無いだろうよ」
自分で言っておいて何だけど、正直に言うと不安しかない。決められた小隊で固まってると『構えぇぇー!』と号令が響き前衛が大盾を構える。ガチガチと音が鳴り、なにかと思ったら俺の槍を持つ手が震えて鎧に干渉していた。
(落ち着け!)と、自分に言い聞かせると『前衛!備えろぉぉ!』と、なんだかハッキリしない命令が下された。(なんだ?)と思うと高台に1人の魔術師が杖を構えて詠唱していた。良く見ればまだ若い女性のようだった。
(まだ若いのに…)と、召集されたのか不憫な魔術師に光が集まった。
「…おいおいおいおい!」
集まるなんてもんじゃねぇ。あれはまるで…。
少女の腕?から光が伸びた。一拍遅れて『ドッ!!』と音なのか振動なのか、分からないが衝撃が響いた。そして光が向かった先では、大きな音が鳴ったと思ったら黒い粒が沢山、空中に舞った。
「…あれ全部、魔獣じゃねぇか?」
誰かの呟きがやけに響いた。あれが魔法。初めて見る奇跡の技に体が震えた。
「やるじゃないか!
誇り高き我らが騎士団よ!
勇敢なる我が兵士諸君!
今、武勇を示す時が来た!
己が刃にて敵を蹴散らせぇぇ!」
司令の辺境伯様が馬上より剣を高らかに掲げると、何故か身体が熱くなるのを感じた。そうだ、あんなすごい魔術師が味方にいるなら勝てるかもしれない!
気がつくと周りの兵士と共に叫んでいた。
…
……
「ギルマスさ、今の…」
「ほぉ、面白い魔力の使い方ですね」
「…身体強化と何でしょうか?【言葉】に乗せてましたね。勉強になります」
「熱いニャ!ホルンも暴れたいニャ!」
「ぼぼぼ、僕も勝てる気がしましま!」
「…ケンちゃん、カミカミやん」
熱気が充満する戦場の中、若干の不安を感じながらトランたちも出撃するのだった。
…………………………
大変お待たせしました。
短くてすみません
勇者の相棒は森のクマさん タローラモ @Dinah
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