第125話 異世界から来た奴ら

 どーも、七星ななほし拳次郎です。

 異世界に来て一月たったかなぁといった頃でしょうか。僕は今、小グマと悪魔に挟まれてます。


「ケンちゃんさぁ〜、どっから来たの?は分かってるから、どーやって来たの?」


「トラン殿はストレートに聞きますなぁ」


「まだるっこしい『異世界あるある』はぶっちゃけめんどいだけなんだよなぁ。 ケンちゃんからは悪意を感じないから良いんだよ。お互い仲良くしようぜ」


「それもそうですなぁ。ではまず…


好きな女優は?」



「あ、ハイ。自分は二次元専門なんで。

リアルは興味ないっつーかどーでもいーっつーか」


「そお?その割にはあの娘…名前なんだっけ?あ、ラウラちゃんだ。あの娘にご執心だけど、どーなのよケンちゃん」


「え!!」


「お?!良いですなぁ。話しづらければ私と妻のなれそれでも…」


「黙れ糞リア充!

 てめぇは地べたに埋まってろ!」


「…トラン殿、それはあんまりですぞ」


 えー、僕たちは今、買い出しに近くの村に来ています。

 ぶっちゃけ村って言うより町って言った方が通用しそうな程に栄えてるんだけど。何でも栄え始めたのが十年ほど前かららしい。理由は、魔族がいる魔王都ギルドランって町が少しずつ他国と貿易を始めたのが切っ掛けなんだとか。

 魔族が普通に交易してるのを見ると現実は小説より奇なりって言葉をひしひしと感じるね。


「お?旨そうな肉だね。おっちゃん、そこの塊を4つ分ちょうだい」


「あいよ!…って言っても結構な量だぞ?持ちきれるか?」


「マジックバッグ持参だからへーきだぜ」



 小グマのやり取りで気づいただろうけど、この世界には【魔法】がある。そしてその魔法を利用した【魔術具】が現代日本の家電の役割を担ってたりする。…んだけど、こっちの方が便利な気がする。

 アニメで見た【異空間ポケット】が実在するんだよ。他にも炎を纏った剣とか弾丸より早い投げ槍とか、夢のアイテムがこっちでは当たり前なんだ。正直テンションは上がりまくりだ。そして僕の腰にも、さっき買ったばかりの【マジックバッグ】がある。

 マジックバッグに手をいれると手の周りにモヤが広がり、その先に棚が見える。

 PCのモニターに手を突っ込んだみたいな感じといえば分かるかな?

 中は日本で売ってる一般的な金属ラックの広さにアイテムを並べられる感じと言えばお分かりいただけるだろうか。小グマに言わせると、戦闘中に使うポーションの類いは別に直接、腰につけた方がいいらしい。

 そうこうしてる間に、何故か喫茶店の奥の個室に入れられてた。は??


「此処なら【日本】の話しも出来るね」


「まぁ、隠す程でもないんですがねぇ。一応ってことで」


 3人分のコーヒーとパンケーキのセットを前にする僕たち。うん、まぁ…そんな気はしたんだけどね。

 僕は此処までの経緯をサラッと話した。会話のなかで「OKB??イブニング娘じゃなくて?」なんて言葉が出てくるから、ほぼ確定なんだけど。


「お二人は【日本人】なんですか?」


「多分そうなんだと思いますね」


「【リア充】とか【交通安全週間】なんてのが海外にあれば別だけどね」


 2人の返事に思わず首をかしげる。


「多分とは?」


「オレたちはさ、転生者なんだよ」


「それでですな、転生者の場合は、過去世の記憶は徐々に消えていくんですよ」


「な?!そ、それは大丈夫なんですか!」


 思わず立ち上がった僕とは反対に、コーヒーをすする二人は余りにも落ち着いていた。


「あれじゃない?この世界に馴染んだ的な?」


「分かったところで、向こうじゃ死んでるでしょうからねぇ」


 …なんか、それはそれで寂しいんだけど。と、他人の僕の同情なんか2人には迷惑だろうから言わないけどさ。


「私、過去の夢っていけすかない官僚と政治家と事件がどうのって言ってるなかで、ビルの間にいる自分と見上げる夜景とかしかないんで絶対毎日残業ですよ。どう考えてもブラックな環境だと思うんですよねぇ。戻りたく無いです」


「ギルマスはまだ良いじゃん。オレなんかペット探したり、他人の浮気を暴いたりだよ。何故か死体も夢に見るけど」


「トラン殿(笑)、職業モロバレ(爆笑)」


「わっかんねぇじゃん!ドラマかもじゃん!!(すげぇリアルだったけど)」


 あー、うん。踏み込まない方がいいのかな?とにかく二人は異世界の先輩ってことでいいらしい。


「えーと、お二人は僕に何が聞きたいんです?ただの学生でしたけど」


 ビビりながら言った僕に2人はキッ!と見つめるとハッキリと言い放った。


「「異世界トークがしたいねん!!」」


「…は?」


 ポカンとする僕に2人は肩をすくめる。


「やれやれだぜケンちゃん」


「仕方ないですよトラン殿。彼はまだこちらに来てから日が浅い」



 2人が言うには、こちらの世界に馴染んだとはいえ、やはり【日本向こうの生活】は懐かしいらしい。で、ちょっとばかりの懐かしさが寂しさとなってチリも積もって爆発するらしい。

 知らんがなと言いたいけど『明日は我が身だぜぇ〜』と言われると怖くなる。


「それにしても拳次郎殿は大したものですな」


 そう言って懐から出したのは僕が作ったゴーレムの核だ。何でも僕が作ったジープの幌を【自動車】になると一発で見抜かれて買い取ったそうな。まぁ元日本人なら当然か。

 その核を不思議そうに突っつく小グマ。


「ギルマス、なにコレ?新しい車のオモチャ??」


「まぁ、コレだけ見たらそう思いますなぁ。実はそれ【ゴーレムの核】なんですよ」


「…は??

まさかあれ!!自走すんのかよ!!ゴーレム馬はダミーかぁ!!!」 


 僕の作った核を得意気に見せびらかす悪魔に「その手があったかぁ〜。でも思い付いたからって形になるか?理論が違いすぎるぜ」と、出来そうなのか無理そうなのか、よく分からない感想を言ってる小グマ先輩。最後には「ケンちゃん、コレは極秘扱いにした方がいいぜ」と、売っぱらってから言われても困ることを言い出した。

 買った本人は「大丈夫ですよ。ペラペラと言いふらしたりはしませんから」とホクホク顔で核をしまう。


「ケンちゃんさぁ、買い叩かれてない?この変態悪魔に」


「失礼ですねトラン殿。ちゃんと適正な価格で買いましたよ」


「ホントかよぉ」


「ええ、金貨3000枚」


「…ブルジョアめ。その金額を即金で出すとは。

 でもまぁ、新しい概念のゴーレムの核じゃあ妥当か」


 金額の感覚がいまいち掴めなかったのが顔に出てたのか、小グマが言った「金貨一枚が日本円で2万円くらい」の一言に一瞬、頭の中が真っ白になった。


「え!じゃ、ろくせんま…じゃこのマジックポーチは4万円!!」


「落ち着けー、ケンちゃん」


「そうですぞ。それにその程度の金額、ガチの装備にしようとしたら秒で溶けますぞ」


「異世界怖い!!」


「それで思い出した。ギルマスさ、ケンちゃんの装備、何とかならねぇ?

 これからモンスターの大群を相手にしようってのにさ、その辺のローブと服じゃ不安しかねぇよ」


「そうですなぁ。ですが魔王都ギルドランでもないとミスリル製品は手に入りませんぞ?有ってもべらぼうな金額でしょうなぁ」


「だよなぁ」


 頭を抱える二人に僕は作りたてのゴーレムの核を出した。


「それなんですがね、さすがに怖いからコイツの中に入って戦おうかなと想いまして」

 

 僕が出したのはアニメに出てくる2足歩行の機体のオマージュだ。コクピットも再現してる自信作だ。


「「ロボじゃん!!

 メカじゃん!!

 それ欲しい!!」」 



……


 日本人組が盛り上がってる頃、ナナイたちは夜営の準備に取りかかっていた。


「こっちはラウラが寝るニャ

こっちはナナイが寝るニャ

ホルンはここで寝るニャ」


 女性用のテントの中ではホルンが寝床を用意していた。楽しそうな声に顔がほころぶ。


「ナナイさん、ようやく調子を取り戻しましたか?」


 心配そうなラウラの声に顔を上げると、


「気にはなったんですけどね。

…でも分からない事を気にしてもしょうがないかなって。それに何かあれば守ってやるって言ってくれる頼もしい仲間もいますし」


「フフッ。小グマ君にネコちゃんね。

 もちろん私も護るわよ」


「ありがとう。ラウラ姉さん」


 ナナイが気にしているのはギルドマスターと共に来た神父の反応だった。

 自分の顔を見て驚き固まったかと想うと今にも泣きそうになってたりと、正直意味が分からない。ナナイが警戒するのも無理はなかった。

 そんな中、甘い匂いをさせた小グマがアホ面を下げて帰ってきた。案の定ホルンにかじられてた。


「トランだけズルいニャ!オシオキニャ!」


「ノォーーーッ!

ホルンさんの分もあるから!

ちゃんと買ってあるから!!」




……………………………………

此処まで読んでくださりありがとうございました。

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