5錠

あれから、ドキドキが止まらない私は、案の定翌日寝坊をしてしまった。


よく分からない感情に少しイラつきながら、通学路を走った。



遅刻ギリギリで学校に着いた私が、人の少なくなった昇降口で上靴に履き替えてる時だった。後ろから声をかけられた。


「…はよ」


私は誰だろうと思いながら、後ろを振り向くと、あの男子生徒がいた。


「お、おはよ…」


びっくりしてしまい、挨拶がどもってしまった。


「もう、頭平気か?」


「あ、うん」


「…そ」


それだけ言うと、彼は教室へと歩き始めた。


私は、ぼんやりとその後姿を見ていたのだった。


____________________

あれからチャイムの音で、ハッとなった私は再び教室まで走ることとなった。


授業中も彼のことが頭から離れないでいた。


だけど、ふと思った。


(そう言えば彼の名前ってなんだろ?)


男子に興味無かった私は、隣のクラスという事以外、彼の事を何も知らなかった。


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昼休みになり、友達と中庭のベンチに座りご飯を食べようとしていた。だけど、私は飲み物が無いことに気づき、1人で自販機まで買いに行った。



自販機で何飲もうかと悩んでいると、また後ろから声をかけられた。


「よう」


もう声だけで気づいた私は、少しドキドキしながら振り向いた。


「こ、こんにちは…」


私のよく分からない挨拶に、彼は少し笑いながら返事をしてくれた。


「おう」


でも人見知りかつ苦手で、あまり男子と話した事のない私は口を閉じてしまった。


彼も自分から話すタイプではないのか、お互いに黙り込み、沈黙が続いた。


昼休みで人の声がどこかからか流れてくる。

外に面してる自販機なので、風が二人の間を通り抜けた。


そんなに時間が経ってないにも関わらず、私にはその時がすごく長く感じた。だが、その沈黙が苦痛では無かった。


不思議な空気が2人を包み込んだ。


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人見知りな私は、目線を合わせられず下の方ばかり見ていた。


だが、ふと上から視線を感じ、下を向いていた顔を上げた。


彼はじっと私を見ていた。


そんな私はというと、、、


(うわぁ、凄く背が高いな~。首疲れちゃいそう)


なんてとんちんかんな事を考えていた。




気づくと、お互い無言で見つめ合っていた。


彼の鋭い視線に、ドクンと心臓が跳ね上がる。


(まただ…また胸が痛い…)


私はまた、今までに感じたことのない胸の痛みに困惑した。


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頭ん中でプチパニックを起こしている私に彼が話しかけてきた。


「…なんか俺の顔についてんの?」


「…へ?」


急に話しかけられた私は、少しマヌケな声が出た。


「…いや、なんかすごい見てくるから」


(イヤイヤあなたが見てたんでしょうが!)

と心の中でツッコミを入れるが、実際には、、、


「…あ、ごめんなさい…」

と何故か謝り、視線をまた下に向けた。


「…あ、あの。そう言えば何か用ですか?」

この空間に少し耐えられなくなった私は、彼の目的を聞いた。


____________________


すると、彼は黙り込んだまま、何故か顔を赤くして、頭をガシガシと掻いた。


(な、なんだろ?この反応…。私変な事聞いたかな…)


彼の反応に訳が分からず、戸惑ってしまった。



その時、、、キーンコーンカーンコーン、

と昼休み終了のベルが鳴った。


「あ…あの、じゃあ私はこれで…」

授業の準備もあるから、私は立ち去ろうとした。


すると、ガシッとまた腕を掴まれた。


「今日、一緒に帰らないか?」


「…え?」


「授業終わったら、昇降口で待ってて。じゃまたあとで」

と言うだけ言って、彼は立ち去った。

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