<回送2>
これは夢。いや、記憶か……
「わたしだってみんなといっしょがよかった」
そこに立っていた黒い子ヤギはひづめで涙を拭う。私と子ヤギの間には薄い壁があり、夢ならではというべきだろうか私はそれが鏡なのだと認識できた。全身が映る姿見。実家にあったもの。幼い頃私はその姿見の前で良く全身を映して泣いていた。
母は私に白い服をあてがうことが多く『黒と白のコントラストが綺麗で似合ってるわ』と笑いかけていたけれど、その言葉と似た罵倒をきいていた私にはそれが真の言葉だとは思えなくて、白以外の服を買って貰えたらそれがボロボロになるまで着ていたのをよく覚えている。
『ノビノはお父さんと同じ毛の色をしているだけじゃないか。お父さんとお揃いは嫌か?』
母親は本当に雪のように白い白ヤギで父は一般的な黒ヤギだった。だから単純にいえば私の毛の色は父からの遺伝。むしろまだらにならなかっただけましだったといえるだろう。周りの大人たちは邪気無く『お父さんそっくりね』と笑っていて、母親もことある毎に『大きさ以外お父さんと見分けがつかないわ』と笑い、それが恐怖だった。
だって――『邪魔』。
父と母の仲は悪く、いや、母が一方的に父を嫌っていて兎に角父親を邪魔扱いし、いつか本当に父親を追い出すのではないかと思っていたくらいだったから。それなのに父に似ているといわれると私も追い出されるのではないかと胸の奥に恐怖がいつだって目を光らせてる。それに母は口癖のように言っていたのだ『貴女の死んだお兄さんはそれはそれはわたしによく似た白い毛並だったのよ』と。
白ヤギと黒ヤギの数だと白ヤギの方が圧倒的に多い。
だから私は普通で母親に気にいられる姿になりたいと泣いていた。けれど、今ならわかる。
私は鏡の向こうに手を伸ばし、幼い私の頭を撫でる。子ヤギは不思議そうな顔でこちらを見た。
「あの親は何色をしてても私を認めたりしなかったわよ」
【黒ヤギさんは歪んでる 回送列車】 恋和主 メリー @mosimosi-usironi
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