STAGE:20 才能と言う名の引力

 エロゲーで『Noel』というゲームがあります。

 2004年の発売ですから、もう10年以上も前の作品ですね。

 当時のエロゲ業界は次から次へと話題作がリリースされていたので、この作品を知らない人は多いと思います。

 絵柄は地見だし、エロゲなのにエロシーンはほとんどないに等しいしね。


 でも、僕は妙にこのゲームが好きでした。


 お嬢様学校に潜入して、ある一人の少女の護衛を任された若き殺し屋・ノエル。最初は冷徹な暗殺サイボーグな彼女が、天真爛漫なターゲットの少女や、その周りの友人たちと交わるうちに人間性を取り戻していくという話です。

 

 この手のゲームならば虚淵玄氏の『ファントム~ファントム・オブ・インフェルノ~』という名作がありますし、アニメでも『ノワール』なんて作品がありますね。


 それらの作品と比べると荒削りというか、結構ご都合主義っぽいところがあります。

ノエルも死神と呼ばれるほどの腕利きの暗殺者な割には間抜けなところもあって、正直、最初は「ん?」と思わされました。


 ただ、そんな彼女が最初は仕事としてターゲットを守ろうとしていたのに、暖かい人々の心に触れて少しずつ固く閉ざされた心の氷が溶け始め、そして自分の意志で戦う意味を見つけ出す様子は、プレイしていてとても惹き込まれました。


 先にも述べたように絵柄が地味なこともあって、僕が働いていたゲームショップでも全然売れませんでしたが(エロゲは中古だけ扱ってました)、僕は好きな作品でした。


 そして時は流れて数年後。

 ひょんなことから僕は趣味でラノベを書き始めるようになりました。


 とは言っても、これまでゲームばっかりやっていて、正直ラノベと呼ばれるものをほとんど読んだことがありません(ラノベと呼ばれる前の時代のものなら、学生時代によく読んでましたけどね。『ロードス島戦記』とか『フォーチュンクエスト』とか)。

 せっかくだからとそんな自分でも名前を聞いたことがあるような作品を幾つか読むことにしました。


 その中にあって、一番自分が気にいったのが竹宮ゆゆこさんの『とらドラ』。

 今更説明するまでもない、ラノベを代表する作品のひとつです。

 軽妙なキャラクターたちが時折見せる、青春時代らしい熱い心の描写に惹かれました。


 そんな竹宮ゆゆこさんが先の『Noel』のシナリオライターだったことを知ったのは、『とらドラ』を読み終えてしばらくしてからのこと。


 ああ、その素性は知らなくてもそりゃ好きになるわけだ、と思いました。


 竹宮ゆゆこさんがエロゲでシナリオを書いたのはこの『Noel』だけみたいなのでちょっと違うかもしれませんが、一昔前は話題のラノベの作者さんがエロゲのシナリオライター出身ってことがよくありました。

 逆に言えば、それぐらいエロゲには面白い物語を書けるクリエイターさんたちが集まっていたんですよね。

 僕もエロゲ歴はかなり長いですが、きっとエロ目的だけならば、それほどまでにハマることはなかったはず。

 次はどんなすごいのが出てくるのだろう、と常にワクワクさせる何かがかつてのエロゲにはあったのです。


 今は残念ながらかなり下火になった感があるエロゲ業界。その背景にはクリエイターを目指す人たちの、その発表の場がかなり広くなった事があげられるかと思います。

 でも、やはり今の業界にも、きっと次の時代を作れるような才能のある人たちがきっといるはず。

 またエロゲから「今度はこんなすごいヤツが現れた!」と嬉しいニュースが聞こえてくることを僕は楽しみにしています。

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ゲームなんだよ人生は タカテン @takaten

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