愛してます

彗星

第1話


長い暗闇から

ふと目が醒めると海岸に立っていた。

『あれ、私確か...』

先ほどまで一緒にいたはずの彼がいない

ましてや誰もいない、静かな海岸、

なんとなくだけど砂浜まで歩く、

雲ひとつなく太陽が輝いてみえる

ふと足元に目をやると一つの貝殻、何気なくだけど耳に当ててみる、波の音と一緒に彼が私の名前を呼んでる声が聞こえてくる気がする。

『...気のせいかな?』

一人ぼっちの海はやけに広く感じた。


『まだ明るいということは昼くらいなのかな?』

そんなことをぼやきながら砂浜に彼の事を想い言葉を書いてみる

元気?どこにいるの?

迎えにきて?愛してる。

大好きだよ

普段じゃ言えない想いも一緒に書いていると一つの大きな波が打ち寄せてき言葉をさらっていった。

『もうっ!せっかく書いたのにー』

すこし不満そうにしている中一つの言葉だけ残っていた。


ここにいるよ


『そういえば好きと言われた場所も海だったなー』

彼と付き合う事を決めたのも、初めてのデートの帰り道も、旅行に行こうと決めたのも、何かあるごとに約束事をしてたのはこことは違うけど、どこかで繋がってる地元の海。

彼との物語が始まった場所

そんな事を思ってるとまた大きな波が打ち寄せ、気付いた時には不覚にも私ごとさらわれてしまった。


少しして目を開けると真っ暗な世界にいた。

体が少し温かい感じがする。

『ここは...?』

そんな事を思っていると一つの小さな光を見つけた。

疑問に思うその光は、私の周りを何回か回った後私を誘うように前へ前へと進んでいく。

『...待って!』

私はあたかも誘われるかのようにその光を追っていく。

光と共に進んで行くと彼との思い出が左右に写真の様に広がり始めた。

止まる事は出来ないが一枚一枚思い出しながら見ていく

笑っている時、喧嘩した時、雨の日に一緒に帰った時、デートの時、旅行した時、彼の実家に行った時、三年近く一緒にいた彼との思い出は久遠の物語を見ている様だった。

どれだけ見ていたかわからないけど最後の一枚の前で光と私は止まった。

『懐かしい...』

この物語が始まった瞬間の写真、目を閉じて思い出していく。


あの時は確か夏祭りの帰り道

浴衣を着て歩きづらそうにしている私を彼は手を引いてくれていた。

海岸沿いを歩き、雲ひとつなく星が綺麗に見える満月の夜。

世間では流れ星がたくさん見えるとニュースでやっており、人が多い中昔から知っている彼のとっておきの場所に来ていた。

その場所に着くと私達二人以外はおらず静かな場所で、私が興奮していると彼は笑いながら空を指差した。

たくさんの流れ星が降り、今まで見たことのない空、彼は空に夢中な私に

(この場所は、ずっと二人だけの場所

来年も、再来年もあなたの隣でこの空を見て笑って過ごしたい!僕と付き合ってくれませんか?)

私は少し戸惑った後すぐによろしくお願いしますと伝えた。

彼はすごい喜び笑っていましたが、翌年に同じ場所でその時のことを聞くとすごい不安だったのとその時空を見上げ興奮していた私の横顔に惹かれて惚れなおしたと照れながら話してくれました。


ずっとおぼえてる。

あの場所で始まった物語、いくつも約束をしてきたけれど一番最初の約束

『ずっと一緒に歩んで行こう』


私は目を開けた。

目を開けると先ほどと違く病院にいた。

見えるのはベットで眠っている私と、その横でずっと手を握っている彼と、お母さん、お父さん、弟、後は病院の先生が私を囲っている。

私はなんとなくだけど察することができた。

私は彼と結婚することを決めており少し早かったけど結婚式場を見に行った帰り道、信号を渡ってる最中に居眠り運転のトラックに轢かれた事を思い出した。

私は彼に向けて話しかけた

ここにいるよ?気付いてくれる?

当たり前だけど彼は気付いてはくれない。

まだ婚姻届を出してなかった私達

彼を縛るものはまだ無いと思い私は泣きたくなる気持ちとその場を去った。


私は彼との1番の思い出の場所に来た。

二人だけの秘密の場所。

気温も感じない、雨が降っていても濡れない私はやっぱり死んだということを思い知り泣きたい気持ちであふれた。

私は彼の事を思い出し子供みたいに泣き崩れる、少しすると足音が聞こえそちらを見ると彼が横に座る所だった。

私はびっくりして逃げようとしたが彼がうなだれてる所を見ると思わず抱きしめたくなったが彼の体をすり抜ける自分の腕を見ると改めて死んでることに気付かされた。

びしょ濡れの彼の横に座る私。

最後に少しだけでもいいから話したいと神様に願う。

そんな無駄な願いを、っと思っている中太陽が沈みきる前雨が止み雲がはけ、夕暮れが綺麗に海と同化して私達を照らしてくれた。

『...綺麗』

思わず口に出してしまった。

その時隣にいた彼がこっちの方に顔をやり目を見開いてる。

とっさに抱きつかれ、そちらを見ると泣いている彼

『...私が見える?』

二つ返事で頷く彼を見て思わず泣いてしまった。

『やっと会えた、触れた、寂しかった、怖かった、ごめんね?、忘れて新しい人を見つけて?』

私は泣きながら彼に優しく言った。

(遅れてごめん、ここにいる気がした、迎えに来たよ?そんなん無理だよ、俺と結婚しよう)

そう言って彼は私の左薬指に指輪をはめた。

私はびっくりして思考が止まった

(多分この時間はもう終わってしまう、けど最後に会えて良かった。ずっと忘れない、またここに会いに来るから泣かないで?これはその証だから)

そう言って彼は左手を私の掌にくっつける。

彼の薬指にもお揃いの指輪

『...ばかっ。愛してる。忘れないで覚えててくれる?』

彼は笑って

(もちろん。愛してるよ)

最後にキスをした時夕暮れは静かに沈んだ。


逢魔が時

彼と死んだ私を繋いでくれたあの時間

キスをし終わった後彼の温もりは感じなくなってしまったけど彼は笑顔でこの場所を去った。

私からの声は聞こえてないけど彼は最後にまた来るよと言ってくれた。

私はここで彼を待っている。

私の記憶にも、彼の記憶にも私達はずっと生きている。


『私の事を愛してくれますか?』


(ずっと愛してる)


Planetes/EGOIST

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