ゆうえんちの隙間話

桑白マー

〈バス2号〉

 ここは〈ゆうえんち〉。

 このゆうえんちは、〈ヒト〉を楽しませるために作られた、〈ジャパリパーク〉の中心施設です。

 普段は閑散としていますが、今日はたくさんの〈フレンズ〉が遊んでいます。


「はかせー!みつけたのだ!これなのだ!?」

「違うと思うよー、アライさーん」

 丸い案内板を持ち上げて走っているこの子は、アライグマのアライさん。仲良しのフレンズ、フェネックと一緒に案内板を運んでいます。

「これは、全然違うのです」「全然違うのです」

 アライさんにはかせと呼ばれたのは、アフリカオオコノハズクのコノハ博士です。その隣には、ワシミミズクのミミちゃん助手がいますね。


「えー!ちゃんとまあるいのだ!それに、まっすぐになっているのだ!」

「ちゃんと見ているのですか?探すのはコレと同じものなのです」

「コレと同じ、黒くて厚いものが必要なのです」

 アライさんとフェネックは、博士に言われて〈タイヤ〉を探しているようですね。タイヤは〈バス〉を修理するのに必要なのです。


「うううー、はかせたちはきびしいのだ!ちょっとちがうだけなのだ!」

「まーまー、アライさーん。明日また探しに行こうよー。またバスに乗れるんだからさー」

 プリプリと怒っているアライさんを、フェネックがなだめています。

「あっ、そうなのだ!またバスにのれるのだ!たのしみなのだー!」

「そーそー」

 シンプルなアライさんは、とっても行動力があります。でも、シンプルなゆえに暴走しがちです。それを、フェネックが上手にたしなめる。ふたりは、そうして旅をしていました。


「おふたりともー!見つかったでありますか!?」

「いやぁ、なかなか見つからないねー」

 プレーリードッグがふたりに話しかけました。プレーリードッグは他のフレンズたちと木を組み上げています。これをバスに取り付けると、船になるのです。

「ほんとうはアライさんがみつけたのだ。でも、はかせたちがそれじゃあダメっていったのだ……」

「それは見つけたって言わないわよ……」

「大丈夫っすよ。きっと見つかるっす」

 ギンギツネがため息をついて呆れると、アメリカンビーバーがアライさんを励ましました。


「おまたせー!私も手伝うよ!」

 そういってサーバルが走ってきました。

「かばんは?大丈夫なの?」

「うん。今はヒグマと一緒にみんなの〈りょうり〉を作ってるよ。だから大丈夫!」

 そういうと、サーバルはギンギツネの横に座りました。

「あなた、器用になったわね」

「へっへーん。なんでかな?この間から、調子がいいんだよー」

「助かるっす。これで、あと少しで完成するっす」

 ビーバーは、ものづくりが得意なフレンズです。この木の乗り物も、ビーバーが考えてくれました。


「これ、あとすこしでかんせいなのか?」

「そうっすよ。完成したら、あとでバスに取り付けるっす」

「そんなのへんなのだ!だって、すごくちいさいのだ!これじゃあアライさんもフェネックも、のれないのだ!」

「えっ!ふたりとも、乗るつもりだったの!?」

「私は初耳だよー」

 ギンギツネがびっくりしていいました。ギンギツネだけでなく、ビーバーもプレーリーも、サーバルも驚いています。


「あたりまえなのだ!アライさんもかばんさんについていくときめているのだ!フェネックだってそうなのだ!」

「私はアライさんが行くならついて行くけどさー。大丈夫なのー?」

「なにがなのだ?」

「かばんさんは、ひとりで行くつもりっすよ。ついていくこと、言ったんすか?」

「いっ、いってないのだ……ダメなのか?」

「かばんも急に言われたら困るわよ。諦めなさい」

「ううー!」

 困ったアライさんは、サーバルを見ました。

「どーするのだ!サーバル。みんながとめるのだ!」

「ええっ、私?どうして私に言うの?」

「どうしてって、サーバルもついていくのだ?」

「ええー!そんな、私……私は……」

 サーバルは、ここ最近、ずーっとモヤモヤとしていました。かばんは、ヒトを探すために〈うみ〉を渡ります。かばんは、何があるかわからない危険な旅にフレンズのみんなを巻き込みたくないといって、ひとりで(正確には、とても小さくなったラッキービーストと一緒に、ですが)旅に出ると言ったのです。


「サーバルがかばんさんについていかないなんて、へんなのだ!そんなの、フェネックがアライさんについてこないようなもんなのだ!」

「ダメよ、アライグマ。サーバルだって寂しいのよ。でも、かばんのバスはひとりしか乗れないのよ」

「ううううー!」

 アライさんがギンギツネにたしなめられて、歯噛みをしています。その様子を見ていたフェネックが、プレーリーの肩をたたきました。

「ねーねー、あれは使えないのかなぁ」

 フェネックが指した先には、バスの客車があります。

「あれは、走れない方のバスであります。博士たちが、『こっちは使えないのです』って言っていたのであります」

「じゃあさー、さっき私とアライさんが使ってたバスはどうかな?あれは〈でんち〉がないのに走れたよー?」

「えっ!他にもバスがあるの?」

 サーバルはびっくりしました。しかも電池がなくてもいいのなら、〈ジャパリカフェ〉に戻らなくても走れるのです。

「それなのだ!さすがフェネックなのだ!さっそくはかせたちにおねがいするのだー!」

「あー、まってよー、アライさーん」

 そういうと、アライさんとフェネックは走って行ってしまいました。


「まったく、突然なにかと思えば。面倒なことを言い出したのです」「そうです。面倒なのです」

 料理を食べている途中で呼び出された博士と助手は、ご機嫌斜めです。

「アライさんのバスも、うみにうかべたいのだ!はかせでもむりなのか?」

「ムッ。そんなワケないのです。我々は賢いので」

「そうです。我々は賢いのです。ギンギツネ、こっちへこいです」

「は、はい」

 ギンギツネは温泉の機械を扱っていました。だから、ほかのフレンズより機械に強いようです。アライさんのバスの周りで、3人でなにやら難しい話をしています。


「アライグマ、お前の願いを聞いてやるですよ」「聞いてやるです」

「ほんとうかー?ありがとうなのだ!」

「ただし!それはお前がタイヤを見つけられたら、なのです」「さっさとタイヤを見つけてくるのですよ」

「わかったのだ!あしたぜったいみつけるのだ!」

「よかったねー、アライさーん」

 そんな喜んでいるアライさんを見ていたサーバルは、決心して言いました。

「ねぇ、アライさん」

「どうしたのだ?サーバル」

「私も、一緒に行っていいかな。私、もうちょっとだけかばんちゃんに着いて行きたいよ!」

「アライさんはさいしょからそういってるのだ!さんにんでかばんさんについていくのだー!」

「アライさん……ありがとー!」

 そうして、アライさんとフェネック、そしてサーバルは、再びかばんに着いていくことに決めたのでした。


「それじゃあ、こういう木を組み立てる必要があるっすね」

「なるほど、こうでありますか!」

「理解が早すぎるのです」「めちゃはやなのです」


 おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆうえんちの隙間話 桑白マー @Qwuhaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ