第7話「資格」
ウチのクラスのモテっ子である笹原圭一に恋人ができるという、奴がファンに与えた 笹原ショックも徐々に落ち着いてきた為か、笹原狙いだった女子がチラホラと別の男子にタゲ変更しつつある今日この頃です。
その笹原問題の一連に関わることで少々厄介な問題が発生しました。
「長谷場くん、放課後ちょっと付き合いなさい」
高野姉の一言。
これ絶対に面倒事ってわかっているんだけれども、悲しいかな俺に選択肢の自由はない。
あっても、ハイかYESの2択だ。
まぁ、大体予想はついているんだが……
「―――ってわけで、たまたま見ちゃったのよ。たまたまね」
つまり美咲姉さんは、
んなわけあるかい!!
って突っ込む勇気は生憎今は持ち合わせていない。
ヘタレな兄貴でごめん、と中等部に通っているマイシスターである
「だから、これは姉としてキチンと確認しておくべきよね?そうよね?」
ハイ!美咲姉さんが弟の恋愛事情を把握しておくのは、至極正当な事と存じます。
正当であればそれは正義です!正義の名のもとに堂々と我が道をお行き下さいませ!
「何言ってるの?堂々と確認して祐樹にバレちゃったりしたらどうするのよ?祐樹が私に何も言ってこない以上、私がそれを知っていたらおかしいじゃないの。そもそも、差出人の女は常識が無いわね。こういうのはまず私を通すのが筋ってもんでしょう?」
姉の中では弟にラブレターを出す場合、まず自分の許可が必要と言うのが、彼女の常識らしい……
どんな筋やねん!
「と言うことで、尾行するわよ。尾行。もちろん、貴方もついてくるわよね?」
え?自分もですか?
「言ったわよね?放課後付き合いなさいって」
デスヨネー。
※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、放課後。
「姉さんごめん。今日は用事があるから先に帰っていて欲しい」
HRが終わるや否や、隣の席の祐樹が席を立ち
これはラブレターの差出人に会うっていう用事に間違いないな。
「え?あ、うん。そうね、用事ね。と、友達と遊ぶのかしら?気を付けなさいね。晩御飯までには帰ってくるのよ?お金ある?お小遣いは大丈夫?」
解ってたくせに、妙に受け答えに焦っている。
ちょっとテンパりすぎだろ。
何はともあれ祐樹が大丈夫だから、と言って教室を出て行ったのを確認したところでミッションスタート。
美咲姉さんの顎クイッの合図で尾行が始まる。
ちなみに祐樹の行く先はラブレターを盗み見たことで把握しているので先回りすればよいのだが、そこはキッチリ尾行しないと気が済まない姉の意向を汲んでいる。
祐樹に気づかれないように、視線が此方に向きそうになると瞬時に柱の陰に隠れたりと我々のステルス性能はバッチリだ。
とはいえ、尾行する姿は周囲から見ると不自然極まりなく、「達也何してんだ?」と声を掛けられそうになることもしばしばあったが、そこは高野姉さんのワンパンという先制攻撃で未然に防がれていた。
南無三。これは必要な犠牲なのだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※
校門を出て完全追跡を続けた結果、行きついた先は商店街にある喫茶店『憩い伝』だ。
店の前で待つこと数分、現れた女の子と共に喫茶店へ入っていく祐樹。
ああ、あれは隣のクラスの
航平曰くルックス偏差値71という中々の美少女。
俺なら「OK、付き合おう」の二つ返事なのだがな。
「ああ、あの女ね。笹原くんがなびかなかったからって、ウチの祐樹に手を出そうなんて、とっちめてやりたいわ」
とっちめるて……姉さん……
「私たちも店に入るわよ」
そして、俺たちは祐樹達の手前のテーブルに座る。
向かいから見えないようソファーの背もたれに隠れるために机に伏しているので、注文を取りに来たウェイトレスの姉ちゃんがかなり怪しい目でこちらをみている。
しかし、美咲姉さんがガンを飛ばすと水を置いてそそくさと逃げていった。
邪魔者もいなくなったところで、祐樹達の会話に耳を向ける。
「あの、高野くん。手紙読んでくれてありがとう」
「ああ」
「あのね。わたしね、笹原くんのファンってみんなに知られていたからこんなの気変わりのはやい女って思われるかもしれないんだけど。その、笹原くんに彼女が出来たって知ってもあんまりショックじゃなかったのね。その時、私には別に本当に好きな人がいるって気が付いたの」
なるほど。笹原→祐樹ときて、更に振られたら「本当に好きな人はまた違う人なのかも」とまた鞍替えする気に違いない。
頼む祐樹、振ってくれ。いずれは俺のところにも来るかもしれん。
「それが多分高野くんじゃないかな?って思ったの。率直に言うね。好きです。わたしと付き合ってください」
多分ってなんだよ。違ったらゴメン的な保険か?
って、イタイイタイ、姉さん痛いですぜ!
「(今すぐとっちめたい、あの女……)」
俺たちは腕を伸ばして机に伏しているので、ちょうど俺の肘関節が対面でブツブツ言っている高野姉さんの手の近くにあり、砕かんばかりの力で握られていた。
これが腕や二の腕だったら恐らく内出血になっていただろう。
「すまない。理由は言えないが、今の俺には誰とも付き合う資格は無いんだ。本当にすまないとしか言えない」
「そう、そっか……うん……わかった。ありがとう、話を聞いてくれただけでもわたし嬉しかった……」
そう言って、振られた瞳ちゃんは財布から出した千円を置いて店から出て行く。
彼女が帰る際、俺たちの隣を通って行ったときに俺はすかさずポケットから千円を取り出し気付かれないように瞳ちゃんの鞄にねじ込んでやった。
振った相手から奢られるっても、流石に、な。
それにしても、祐樹の資格って……まぁ、アレだろうなぁ……
※ ※ ※ ※ ※ ※
祐樹も店から出て行って、ようやく普通に顔をあげられるようになり、今はテーブルに様々な食べ物が並べられている。
高野姉さんが「なんでも好きなものを頼みなさい」と言ったので、彼女の気を収めるためにも俺は遠慮なく注文した。
尾行に付き合ったお礼もあるんだろうが、俺が千円をねじ込んだのがGJだったらしい。
そして、二人で料理をつつきながら、俺はグダっている美咲姉さんの愚痴をひたすら聞いている。
「良い?長谷場くん。私は決して祐樹が誰とも付き合っちゃいけないなんて思ってないわよ」
そうなんすか。なるほどっす。
「でもね、誰でもってわけにもいかないわよね?祐樹にはきっともっとふさわしい子がいるわ」
はい、その通りっす。どこかにふさわしい子がいるはずっす。
「何そんなに簡単に言ってるのよ。祐樹にふさわしい子なんてどこい居るのかしら?そんなに言うなら貴方が見つけてきなさい!」
ちきしょう……
シラフなのにまるで酔っ払いの言動だ。
「アンタさっきから全然食べてないじゃない……遠慮しないでって言ったわよねぇ。はい、この揚げ餅食べなさい。美味しいわよ」
ハイ、ゴチになりやす!
って、自分で頼んでおきながらだけど、この量は流石に食えねえわ……
そう思いながらもちょこちょことつまんでいるが、それよりも思うに高野姉さんのグダりぶりは瞳ちゃん云々のことではないだろう……
きっと祐樹が瞳ちゃんに言ったセリフのことだ。
つまり『誰かと付き合う資格』って部分だろう。
口には出さないが、姉もうすうす感付いているのかもしれない。
が、まあ、これに関しては時間が解決するしかないよな。
……
…………
………………
「……それにしても、遅いわねぇ、私の注文」
そりゃ、メニューにない注文を言っても持ってくるはずないだろうよ。
あっても、制服姿の2人に流石に熱燗は出せないですぜ。
私立多胡中央学園のかなりズレた人々 あさかん @asakan
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