第12話

「亡くなったのは山下先生や植野先生、その他見回りに出ていた先生方全員だ。二人一組でもしかしたら…ゴブリンよりもっと恐ろしい敵が現れたのかもしれない」


だからお前は誰だって。いきなり先生が大勢死んだよとかこの集団の前で明かしたら大混乱だろ考えろ?…あれ?大して混乱してない?


「残っている先生は保険医の桝田先生と物理の高本先生だけになってしまった…。このままでは、二人だけに負担を強いることになってしまう」


「だからみんな、僕達が彼らの負担を少しでも減らせるように協力しようじゃないか!」



お、おう……



「スマホに追加されたアプリについてはみんなもう確認してくれたかな?

ステータスを開くと、ポイントという欄があるね?恐らく、300ポイントが最初から与えられているはずだ。このポイントというのをショップという項目で日用品や様々なものと交換できるみたいなんだ」


説明を聞いた生徒が端末を操作し始めた。

ちょっと君ら素直すぎない?


初期ポイント300は嘘であってほしいんだけどな。俺が見た時180だったんですけど?まさかゴブリン倒して入ったポイントしか持ってないんちゃう?


不意に男子生徒が立ち上がった。

あれは1年生が固まってたあたりだ。見た目はなんかこう、我が強そう。


「おい!俺は330ポイントなんだが?」


高い分にはいいだろ文句言うなよ。言葉遣いも荒いし面倒臭そうなやつだな。


「素晴らしい!君はここにくるまでに三体のゴブリンを倒したのかい?」


しかし壇上の男はそれに気を悪くした風もなくむしろ相手を賞賛した。そういう趣味かな?


「ああ、ゴブリン?あの緑のやつのことかよ?それならそうだな、ぶち殺したぜ」


なんでわかったんだ?と言いたげに答える1年生。こいつもこいつでなんか満更でもなさそうだな。お似合いかな?あと物騒かな?


「ああ、ゴブリンというのは放送後現れた緑の人型クリーチャーを便宜上そう呼んでいるんだ。ファンタジー小説で出てくるゴブリンにそっくりだからね。

そのゴブリンを一体倒すとポイントが10増えるんだ。運動部の有志が苦戦しつつも確認してくれた情報なんだけど…それを既に三体!素晴らしいよ君は!ぜひ僕らに協力してほしい!」


なんだろうなこいつめっちゃ胡散臭いよな。どんな活動するかも言ってないのに協力て。

誰がするかよ。


「ああ、それは別にいいけどよ、何をすんだよ?」


お前がするんだ…。


「それを今から説明するよ!

さて、実はショップで武器を買うことができるのだが、買ったものを受け取るには購買へ行かないといけないんだ。いち早くそれに気づいた僕たちはみんなの安全を守るため、購買で武器を入手した!その後複数のグループを組んで学校を巡回し、ゴブリンと戦っているんだ!しかし現状メンバーが足りていない!今!ここに!有志を募る!」


衝撃の事実。さっき乾パン取り出しても意味なかったってことかよ。ていうか取り出すって何?在庫から取り出しとくってことなの?アイテム欄にあるものは全部購買でもらわないといけないの?めんどくさっ。

なんか微妙に不便なオンラインショッピングみたいだな。ネットで買ってコンビニで受け取るやつ。


「我こそはと思う者は壇上に!」


体育館がにわかにざわめいた。


先ほどの一年生を皮切りに、十数人が壇上へ上がっていく。大半が真剣な表情で、「本当に行くのか?」「行かなきゃいけないんだ…」みたいな茶番まで起こっている。


気を抜いたら笑みが漏れそうなくらい芝居がかっているのだが、このくらい熱意にあふれた言葉でなければ命をかける気にはならないのかもしれない。あるいは、どこか浮ついた雰囲気のある今だからこそ通じた発破なのか。

日常が非日常に変わり、死はより現実に近づいた。現実と自分の差異をうまくすり合わせられていないこの状況では、一つしかない己の命をベットすることに抵抗が薄くなってしまうのも頷ける。…頷けるか?よくわかんねえな…。


「ありがとう、君たちと共に戦えることを僕は誇りに思うよ!

では、役割分担をしよう。まずは三人一組を組んでくれ。今から––––––––」



そこからは声を張り上げる必要もないのだろう、よく聞こえなくなった。それにしても三人一組って聞くだけで嫌な感じがするのは俺だけじゃないはず。そういう強制は良くないと思います!体育会系の人間はよくそういう非道なこと軽く言うよね。偏見?そういやあいつ体育会系っぽくないな。結局誰だったんだよ。最後まで名乗らねえのな。


お、壇上に上がった熱い志を持つ生徒たちが何やら端末を操作している。武器をあらかじめ購入しているのだろう。そしてリーダーの男が懐からナイフを取り出して配り始めた。

購買までのサブウエポンかな?

そして全員が武器を持ったのを確認してリーダーの男が群衆の側に向かって言う。


「僕たちは今から2グループに分かれる。校内を巡回し、逃げ遅れた人達の救助をしつつゴブリンを駆除してポイントを稼ぐAグループと、ここに残って不測の事態に備えるBグループだ。

トイレに行くときは複数人で、まとまって行動し、必ずBグループのメンバーから3人を同伴させてくれ。水分補給についてはいずれ僕たちがまとめて水を運んでくるよ。ついてはポイントを譲渡してほしいと思っている。不安だとは思うけど、安全のためなんだ」


搾取されんのかね。嫌だなあ面倒だなあ。



「それと。君たちが守られる側から守る側になりたいと、戦う覚悟を持ってそう思うのなら僕たちはいつでも歓迎する。あのわけのわからないやつの放送を信じるなら、1ヶ月で家に帰れるんだ!絶対に生き延びよう!」



わけのわからんやつの言葉を信じるなら帰れないんだよなぁ…。

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平和は何処、遙か彼方 山葵醤油 @-sasakama-

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