一章 憎悪を孕む少年

 王都の入口のゲート前。


 ゲートの管理人だろう。

 ガタイの良い、40代半ばくらいのオッサンが机の上に足を置いて、雑誌を読んでいる。


 「すいません、ゲートを通りたいのですが」


 「お?おうよ」


 乗せていた足を机から下ろし、こちらを向く。


 「身分証明出来るものはあるか?」


 身分証明.....か。

 グルヴェ家の姓を使うのは癪だが、仕方が無い。

 これからも使わなければならないと思うと、正直、死にたくなるくらい屈辱ではあるが。


 名家は姓と名前が掘られた指輪を渡される。

 その指輪には、魔力を多く含む『ミスリル』という鉱物で作られている為、指の太さに合わせて指輪の大きさも変化する為、生まれた時から付けたままだ。


 「......身分証明はこれでいいですか?」


 俺は、屈辱と怒りに震えながらも、声を振り絞って何とか言葉を発する。

 そんな俺の異変を感じ取ったのか、オッサンが俺を案じる。


 「ボウズ、大丈夫か? 怖い顔して。汗もすげぇし、医者の所でまで連れてってやろうか?」


 「いえ、身分証明の確認をお願いします」


 俺の身を案じてくれるオッサンには悪いが、ここはスルーして貰いたいところだ。


 「そ、そうか。.....お、指輪か。ボウズはいいトコの坊ちゃんかい。どれどれ......うぉぉぉお!?」


 俺の指輪に掘られた名前を見て、オッサンは飛び上がる。


 「グルヴェ家のところの!?ゼネラ騎士団長の弟さんか!」


 『ゼネラ』という単語に、鳥肌が立った。

所詮、俺は姓を自分の為に利用しているだけなんだ、と声を大にして叫びたくなる。

 俺は深呼吸をし、気持ちを落ち着けた。


 「はい、グルヴェ家のジルフリートです」


 「いやー、ボウズが敬語使っていたからなぁ。それぐらい身分が高いと、敬語なんて俺達みたいな奴に使わなねぇよ。おっと、俺は敬語使った方がいいか?」


 「敬語なんて要りません。もう、ゲートを通っていいですよね?」


 一瞬、ポカンとした顔をするオッサン。

 まるで、珍しいものでも見たような顔だ。


 だが、すぐにその顔付きが、満面の笑みに変わる。


 「ハハハ!!いいね、ボウズ。お前さんは、他の奴らとは違うみたいだ。俺は気に入ったよ」


 「は、はぁ」


 今度は俺が、ポカンとした顔をする番だった。

 何だ、こいつは。


 「よし!俺の出来る範囲の事なら、何でもしてやるぜ。 ホラ、何か言ってみろ」


 ーーー何でも?

 なら。


 「魔法学校への入校出来るように、手配してください」


 「ま、魔法学校!?」


 俺の言葉に驚くオッサン。

 フェンは使い魔見せれば入校出来るとか言っていたが、あわよくば、このオッサンが手続きを済ませてくれるのだったら、こちらの方がずっといい。


 「ボウズ、なんかあったのか?」


 やっぱりか。

 オッサンは怪訝な顔をしている。

 まあ、名家の息子が入校の手続きを人に頼むなど、普通は有り得ないからな。


 「無理でしたらいいです」


 グルヴェ家は俺を一族から追放した事を隠している。

名家が俺のような非適性の人間がいて、しかも追放という手段を用いた事は、世間に知られたくは無いのだろう。


 まあ、わざと俺から王城に出向いて、全てを明らかにしてやってもいいのだが。

 それはそれで面白そうだが、やらない事にしておく。

 やはり、自分の手で始末しなければ気が済まない。

 親父と兄貴は特に、な。


 そんな俺を見ていたオッサンは、真面目な顔付きになると、口を開く。


 「分かった。俺が、魔法学校に口利きしてやる」


 「そうですか。ありがとうございます」

 「但し」


オッサンが、俺の言葉を重ねるように言葉を続ける。


「事情を聞かせてくれ。お前、今話してる時だけでも、何度か死んだような目をしていたぞ。それに、どこか悲しそうにも見えるからな」

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『無』属性の俺は神獣と契約して、一からやり直します @natumi

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