066 土木工事

 その夜は結構遅くまで起きていたので、翌朝起きたときには既に日が昇ろうとしていた。周囲の草むらから虫の声。河原の方からは蛙の鳴き声。ちゃんと確認して無かったけど、湿地が有るのかも知れない。


 起きて、昨日の宴会の残り物で朝食を済ませる。

 さて、どうしよう。

 コミエ村やアレハンドロの皆さんにどのタイミングで知らせるか。

 僕とハンナのホバリングなら、一日のうちに往復できる。今から出発してお昼に戻ることも可能だと思う。ただ、ちょっと早すぎて怖いけど。こないだの戦闘に突入するときに出した150kmくらいのスピードなら1時間もしないうちにアレハンドロに着く。あれは怖かったのでやりたくないなぁ。もし障害物にぶつかったら死んじゃうと思う。


 僕はしばらく考えてたけど、どうしたら良いか分からない。こういう時には大人に頼ろう。

 丁度アラン様とロベルタさんが話をしているところを見かけたので、話しかけてみる。


「今の状況を早めに知らせた方が良いかなぁと思うんですけど、どうしましょう?」

「ん? コミエ村まで2日くらいの距離だろ? アレハンドロまで行くとしたら10日は見た方がいいだろうし。

 っと、待てよ。お前ここまでどうやって来た? アレハンドロを追い出されてからここに来るまで2日だったな。コミエ村にはその日のうちについてたし。あ、あれか。あの時の戦いに飛び込んできたときのあのクソでかい音を立てた術か?!」

「はい。ホバリングという遺失術をコウタロウライブラリから発掘しました。馬や鳥より早く地面を走ることが出来ます」

「ちょっとやって見ろ」


 ということになり、その場でホバリングを披露することに。最高速度が時速100kmを超えること、出したことは無いが200kmも可能という話になると、アラン様は食い付いた。


「よし、その術すぐに教えろ、いや、後でもう少し詳しく見せろ。習うのはなんか抵抗がある」

「あの、マサース教授。今はその話でなく、いつコミエ村やアレハンドロに行くか、と言う話ですよ」


 とロベルタさんが話を引き戻してくれる。


「あ、あぁ、後で必ず見せろよ。まぁともかく、そんな便利な術があるなら急いだ話じゃないな。とりあえず、お前、下水だけでも整えてしまえ。そしたらその上に建物を建てるようにするから。そしたらお前がしばらくいなくてもどーにかなるだろ」

「分かりました。急いで下水を整えますね。後、スライムを入れるための池と術理具を準備します」

「お、スライムのための術理具ってのはなんだ? どんなコツだったんだ?」

「スライムは改良された際に、水だけじゃなくて風のエーテルも必要になったそうなんです。なので、スライムを育てる場所には、風を含ませるためにばっという処理が必要なんだと聞きました」

「具体的にはどうするんだ」

「簡単に言うと、水に空気を含ませれば良いとか。で、今回の場合だと、水底に小さい穴を沢山空けたチューブを用意して、そこから空気をぶくぶく吹き出させます」

「そんなんで大丈夫なのか?」

「まぁ実際にやってる部下達がいますので大丈夫だと思います」

「分かった。じゃぁちょっとホバリングを見せてくれ」


 と言うことで簡単にホバリングのやり方をアラン様に見せる。初期の起動から浮上、それから背後のチューブから空気を吹き出すところまで。

 さすが王都の大学で天才と言われたアラン様はコツを掴むのも早かった。

 完全ではないが何とか浮かび上がり、前後左右に動けるようになるまで30分もかからなかった。アレハンドロの組合で教えたときには、浮かび上がることすらままならない人がほとんどだったのを考えると、凄い事だと思う。僕だって実は魂倉で散々練習したんだし。

 あ、そういえばハンナは何でいきなり使えたんだろう? 前世でコウタロウさんと親交があったから、そこで経験があったのかな?


 それから、昨日やった縄張りに従って穴を掘り始めた。

 簡単に済むと思ってた穴掘りだったけど、作業を見ていたハイエルフの一人に駄目だしされた。水を流すための傾斜がちゃんと付いてないので、このままだと逆流したりゴミが留まったりして良くない、とのこと。

 じゃぁ浄水場の方に向かって傾斜するようにしなきゃと思ったけど、どうすれば良いか思い浮かばない。その部下に聞いても良かったんだけど、魂倉のライブラリを頼ることにした。魂倉に入り、その中に浮かび上がる応接間のような空間に入る。テーブルに知りたいことを入力して待つと、術理具と術の合わせ技で水平を測る方法や、逆に角度を付ける方法を頭に入れ込む。また、土地の高低を図る方法も入れる。そうしてそれを便利に使うための術が無いか探す。

 ある地点とある地点の高低を感じる術がある事が分かった。

 作られた時期的に古代文明のものだと思う。非常に古くて、潤沢にエーテルを使う物。それにエーテルのことを魔素と書いている。幻魔大戦以降なら魔の文字を避けるはずなのだ。だからこの術が古いものだとわかった。

 本来は対となる術理具を使って土地の状態を管理するのだけど、僕には残念ながらそれがない。なので、僕の脳裏と魂倉で管理できるように変更した。僕一人の能力では管理しきれないかも知れないけど、ロジャーもいるし魂倉もあるしなんとかなるだろう。


 魂倉から浮かび上がると、適当な小石を100程度選び取り順番に術を掛ける。小石はオレンジの蛍光色で光り始めた。石には番号が刻み込まれてる。番号目録浮かび上がる。これなら、置き場を間違えることはない。

 光る小石を地面に置くと、それが目印になって土地の高低などを僕に教えてくれる。ハンナとハイエルフ、手の空いた子供達にも手伝って貰って縄張りをした場所に石を置いていく。勿論番号順においてもらう。そうじゃないと僕の脳が混乱してしまうから。


 そこから土管を作る事にしたんだけど、元となる土は掘り返した土を固めて作る事に。できれば数十年数百年持って欲しいから、ただの固めた土じゃなくて表面を焼き締めてざらざらのガラス質にするように。

 ただ、そうすると一つ作るのに結構時間が掛かってしまう事が分かった。集落の規模だけど、ちょっと僕一人ではやってられないかも。

 ハイエルフの部下のリーダーであるイェニに声をかけて、僕のやろうとしてることが手伝える人を数人派遣して貰う事にした。

 職人さん達にも聞いてみたけど、こういうのは出来ないとのこと。職人さん達は家や神殿を作ってる。倍力の術理具を使ってるから、小さな子供も立派な手伝いになってる。小さな子供が丸太を軽々と運ぶ様子はなんだか面白い。僕も子供だけどね。


 集まってきた5人のハイエルフ達にやりたいことを説明し、幾つか質問に答えると、早速仕事に取り掛かった。勿論僕も一緒だよ。

 集落の北の方から南の川の方に向けて傾斜を付ける。傾斜の具合は急すぎず緩すぎず、なんだけど、正直自信は無い。まぁ失敗したら水を強制的に流してどうにかするしかないかな。

 目印に沿って土を掘り、掘り返した土を土管にして再び埋める。微妙に傾斜を付けて。で、最初は僕も作業をしていたんだけど、傾斜の具合や穴の深さなんかで僕の指示がないと上手く回らないことが分かり、僕は皆の監督みたいな事になってた。

 ハイエルフ達は10カ所も作業をするとへばってしまった。精度は問題ないけどスピードは遅い。

 え? もう? と聞くとこんな大規模かつ精密な地の術を連続で使うことが無く、魂倉が目詰まりしてしまったんだという。そう言われては仕方が無いので、休憩を挟む。甘い物なんて気の利いたものは無いので、土で作ったコップにお湯を入れて差し入れた。今度アレハンドロに行ったらお茶でも買っておこう。でも、お湯でも結構喜んでもらえたのは良かったと思う。

 ハイエルフが言うには、この集落を囲んだ柵は慣れた術者が数人がかりで数日掛けて作るレベルの物、らしい。地上の方に出してる分だけならともかく、あの柵は地下にも2mほど柱が埋め込まれている。そこまで行くと難しいのだそうだ。


「ただ、術そのものには粗も見えますな」「高出力の魂倉による力押しというか」「この土管の作業、失礼ながらサウル様の精度はギリギリ合格のレベル」「へばってる我らが威張って言う話じゃないですが」


 なるほど。そういう事も有るのか。僕ももっと練習したりしないと行けないなぁ。コウタロウさんのアイディアと魂倉のゴリ押しで何とかやってる自覚はあるからどうにかしないと。

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