065 縄張りと村長
真夏の夕方、皆汗だくで作業をしてる。いつも涼しげな顔をしているハイエルフ達も玉の汗をかいている。
海の方に日が沈む頃になると、ひとまずテントと術理具作成の作業をするだけの小屋が出来た。小屋と言ってもほんとうに屋根と壁があるだけの粗末な物で、いずれ作り直すことは間違いないとおもう。
当初神殿を優先に、という事だったんだけど、作業小屋がないと神殿に相応しい材料も確保出来ないということでそうなったみたい。
僕は、皆の意向を聞きながら集落の縄張りをしていたんだ。中心に神殿と井戸と広場。それを囲うようにそれぞれの家が建つ。開拓村では普通にあるレイアウト。
でも、下水を作るとなると中々そうはいかない。僕は皆を説得して四角形にブロックを作ってみた。
最初皆は不満そうだったけど、僕がスライムを確保して、世話の仕方も分かるということになると安心したみたい。
集落の家が建つ場所に沿って下水管を設置する。今の僕の腕では、直接土の中に土管は作れないので、一回掘ってそこに土管を埋め込むことになる。
簡単な縄張りをする。縄張りと言っても実際に縄を張るのではなくて、細くて浅い溝を掘る。間違えて足を引っかけても安全なように。
土管ができ次第、溝に沿って埋め込む予定。
土管はスライムが入ってた土管と同じサイズにする予定だ。今の人数では持て余すサイズだと思うけど、中に入るかも知れないし、この集落の人数が大幅に増えるかも知れないし。拡張しやすくしておきたいんだよね。
処理場は集落の柵の外に作る事になった。集落から出た土管と汚水は、スライムが待ち構える処理場にたどり着く。処理された水は川に帰る。
処理する中で生まれる汚泥は、肥料として優秀らしいので、集落で使ったり、コミエ村に持っていったりしよう。そう思って部下のイェニに話して見ると、ハイエルフ達も使ってるらしい。結構効果が高いようなので楽しみ。
それから残った時間で簡単なお風呂を作った。
屋根もないただ壁で囲ったスペースに浴槽と洗い場。中にはちょっと温めのお湯を沢山入れて置いた。コミエ村もそうだけど、湿度が高いから、ちゃんと体を拭かないと臭くて敵わない。やっぱりなるべく清潔にしたいよね。疫病なんか出たら嫌だし。
そうそう、不潔にしていると病気になりやすいというのは本当らしい。以前コミエ村の奥様からそう聞いた。王都でも薬師として有名だった奥様の話は中々広まらなかったらしいけど、疫病で半壊した村を助けるときに、清潔を心がけたらある程度二次被害を止めることが出来たんだって。
浴場から出た汚水は壁の外に溜めて、僕が焼却処分する。下水が出来るまでの間に合わせだけど、まぁ大丈夫でしょ。
井戸は後回し。一応僕が水を必要な分だけ作り出せるから。聞いてみると一人二人分ならともかく、十数人分の水と二つの風呂を用意するというのは、術者でも中々難しいことなんだって。これでもっと腕が上がったらとんでもない事になるかも知れないとアラン様は言ってた。僕の魂倉はかなりの高性能、ということなんだろうね。
まぁ守護者がいる魂倉なんてアラン様も聞いたことが無いというし、コウタロウさんの
とにかく井戸は明日作成の予定。台所も明日。
今日はとりあえず無事を祝っての宴会になったみたい。
縄張りで広場とすることにした場所に皆集まり、たき火を囲む。
肉や魚、パン。これらは商隊の荷台に合った物や泡倉から持ちだした物。泡倉のセニオには、当分手厚く手助けするように命じている。
ここが順調に回るようになるまで、食料が足りないという事は無い、はず。ただ、同時に稼げるようになったらバスカヴィル商会から買い付けて持ってくるようにしないといけないだろうね。
そんな事をぼんやり考えていたら、親方のまとめ役になったカンデラリオさんが開会の挨拶をするところだった。
「なんだか良く分からんうちにあれよあれよと動いて、なんかこんなことになっちまったがよ、なんだか楽しそうじゃねぇか。貴族の横やりも、他の職人の嫌がらせもない自由な物造りが出来るなんてよ」
周囲の人々の顔は真剣だけど悲観している風には見えない。強いな、そう思った。
「俺たち全員でここに良い居場所を作ろう。なーに村長やアランの旦那にハイエルフの皆さんも助けてくれる。きっとどうにかなるな! さ、俺の方からはここまでだ。村長に一言挨拶もらおうじゃねぇか」
ん? 村長って誰? と思ったら皆僕の方を見てる。僕の後ろにはハンナが居るけど、ハンナも僕を見つめてる。
「ひょっとして、僕?」
皆が頷いた。アラン様もロベルタさんも親方3人も頷いてる。
「そんなの聞いてないですよ」
「そりゃそうだ! クソガキには黙って決めたからよ! ギャハハ!」
とアラン様は嬉しそう。でも
「ちょっと待って、僕、養い子だし、人をまとめる仕事なんてしたことないですよ」
「養い子になるときの借金なら俺が払っといた」
「えーーー! 金貨数枚分(数十万クレ)は有ったはずですよ。安い術理具なら買えちゃうじゃないですか!」
「ギャハハ! そのびっくりした顔が見たかったからよ」
「いたずらにしちゃやりすぎですよ。ほんとはどうしたんです?」
「そりゃよ、養い子のままだとお前は神殿の庇護を得られるが、同時に色々横やりを入れられることもあるはずなわけよ。今後お前がすげー成果をあげたときに神殿がまるごと奪いに来る可能性だってある。そう考えて、俺とセリオで決めたのさ」
「しかし、お金は……」
「ま、先行投資というか、命を助けて貰った礼みてーなもんだ。あんときお前とハンナが来なかったら俺たちは今頃こうしてないぜ。気にすんな」
みんなも同じ意見みたいだね。となると
「分かりました。ではそれは受け入れます。アラン様、養い子からの開放ありがとうございました。先行投資が無駄だったと言わせないようにします。
それで、あの、村長に、というのは? 正直言って僕じゃなくても著名な学者であるアラン様や神官のロベルタさんでも良いでしょうし、親方方のまとめ役であるカンデラリオさんでも良いはずです。多少術が得意とは言え、まだ6才の僕が村長というのは……」
周囲で「え? 6才? 12、3だとばかり」という声があがる。
「年より大きく見えるのは、前世の影響なんです。すごく背が伸びるのが早いんですよ」
「大人びて見えるのも前世の影響。ハンナはこう見えて4才。若い」
とハンナがフォローしてくれた。ちょっと笑いが起きる。前世の影響で普通と違ったことが起きるというのは、割と起きることなので、皆受け入れやすいみたい。
カンデラリオ親方がこっちを見て、しみじみと言った。
「俺たちを救ってくれたこと、泡倉に入れてくれたこと、ここまで連れてきてくれたこと。
手伝いを付けてくれたこと。しかもそれが電設のハイエルフと来たもんだ。おまけに村を立てるための素材まで提供してくれる。どれを取っても生中な恩じゃないぜ。だから俺たちはあんたを村長にするって事に決めたんだ。
何、難しいことを一人でさせるってわけじゃないさ。あんたをもり立てる為に俺たちだって相談に乗るさ。間違ってると思ったら意見もする。だからサウルさんよ、村長になってくれ」
「そうだぜ、俺たちの気持ち受けてくれ。それによ。貴族だって生まれたばかりの赤子が当主になることだってあるんだ。6才のクソガキが村長になっちゃいかんって事はねえだろ。それによ、ここまでのお前の采配、悪くねぇとおもったしな」
と、アラン様。村長になってもクソガキ呼ばわりは変らないのですね……。いやまぁいいですけど。
「ふう、分かりました。こんな小さな集落ですし、とりあえず僕が村長になります。でもむらが大きくなって僕が長ではまずいと言うことになったら誰かに代わって貰いますからね。それでも良いですか?」
皆が拍手をし、僕は立ち上がって礼をした。これで僕が村長ということになった。養い子だった僕が、村長かぁ。思いもしない展開だな。
「村長さんよ。村の名前はどうする?」
「そうですね。ただの隠れ里という訳にもいかないでしょうしねぇ。でもちょっと思い付かないので、皆で2、3日考えましょうか。
まぁそれはともかく、料理が冷めないうちに食べましょう!」
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