呼吸を整えろ:Cパート シーン2

 目を覚ましたユウキが目にしたのは、清潔なベッドと白い天井だった。


 その場に身体を起こす。と、身体中に包帯が巻いてあることに気が付く。



「目が覚めたかい」



 突然、かけられた声と共に、部屋の中にいる男に気が付いた。



「え……と」


「ここは病院で、君は怪我をして運ばれてきた。そして僕は矢賀リョウケイ。城南派柔拳法師範・矢賀リョウゾウの息子だよ」



 質問したかったことを先回りにすべて喋られ、ユウキは却って頭を混乱させた。



「警察と救急車が来て、みな病院へと運ばれた。現場検証なんかもしているが、とにかくみんな混乱している。そのうち君にも事情聴取があるだろう」


「……」



 悪い夢ではなかったのか……ユウキは唇をかみしめた。それじゃぁ、自分はアキラをこの手で――そして――



「……先生は……?」



 やっとのことで振り絞ったその質問に、矢賀リョウケイは首を振って答えた。



「生き残ったのは、君と、古川君だけだ」


「……」



 押しつぶされるような痛みが胸に走る。



「なにが起こったのか……把握しているかい?」


「……」



 ユウキは答えられなかった。


 矢賀は何も言わず、椅子を立って廊下に出た。


 * * *


 話は少し遡る。


 赤いランプとサイレン、警官や救急隊員に埋め尽くされたあの夜の道場、その近くの路地に、蠢く影があった。


 ぼろぼろになった身体を引きずり、這いずるようにして――獣の姿を失ったアキラが、その場を離れようともがき、必死にのたうち回りながら歩みを進めていく。



「……くそっ……俺は、俺は……」



 歯を食いしばり、地面を舐めるようにしているアキラの眼前に、その時何者かの足が、現れた。



「生きていたか。大したものだ」



 あの時道場に現れた帽子の男だった。

 それだけではない。その後ろには他の者も立っていた。暗闇の中で、そのいずれも表情はうかがい知れない。



「君に名を与えよう……『ソル』だ」



 しゃがみ込んでアキラの顔を覗き込みながら、帽子の男が言った。


 * * *


 そしてそれから数日後。


 閉鎖された道場の前に、ユウキは立っていた。


 あの夜の出来事――警察から事情聴取もされはしたが、上手くは説明できなかった。防止の男、「風」、そして獣のようになったアキラ――それらのことは包み隠さず話しはしたものの、まさか自分が「変身」してそれを撃退した、などと言うことはできなかった。


 これから、どうすればいいのだろうか。主のいなくなった道場を眺めながら、ユウキの頭の中にはいろいろな感情が渦巻いていた。



「ユウキ」



 背後から声がかけられた。

 振り向くと、松葉杖をついたセイスケがいた。


 ユウキはセイスケに向かって、静かに頷き、踵を返してその場を立ち去った。


<続く>

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魔拳変身エクリプス 輝井永澄 @terry10x12th

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