呼吸を整えろ:Cパート シーン1
エクリプス、と呼ばれたそれ――ユウキは、アキラへと向かい歩みを進めた。
アキラが再び咆哮する。ユウキはそれに呼応するように、腰を落として構えを取った。
アキラは構えたユウキを見る。咆哮を止め、警戒するようにユウキの姿を見定め、そして――
ザッ
獣の姿のままに、アキラもまた、構えを取った。
「……ほう」
ビルの上からそれを見守る防止の男は、興味深そうに眼を見開く。その眼下で、人の形をした獣と、獣の形をした人とが、じりじりと間合いを測っていた。
仕掛けたのはアキラの方だった。
まっすぐ踏み込んで、最短距離での突き。
ユウキはそれを受けるが、威力に押されてわずかに後ろへと下がる。
追撃をしかけるアキラ。
それをかわし、下がって受けるユウキ。
何発目かのアキラの打撃。
その時、受けに回りながらもじっくりと下半身に重心を作っていたユウキが、掌を返す。
下がることなく突きを捌き、重心を前に残すユウキ。
アキラの身体が流れた一瞬と、ユウキが身体を入れるのが、同時。
次の瞬間、ユウキはその構えた前脚をしっかりと、踏み込んでいた。
アキラの足と足の間――重心の内側。そこに踏み込まれた脚にしっかりと体重を乗せ、ユウキの突きが奔る。ユウキとアキラの間の空間を削るように迸ったその弾丸が、アキラの獣の身体を――その正中線を、垂直に、捉えた。
確かな衝撃。
その衝撃を、ユウキは自分の正中線で受け止める。
まっすぐに作った身体から、繰り出された拳はその力を失うことなく、獣の中へと打ち込まれたその波動は、爆裂してその体躯をへし折った。
いかに獣の身体であろうとも、正中線へと正確に打ち込まれた打撃には、その働きを麻痺させざるを得ない。
全身の機能を強制的に止められて、アキラは棒立ちとなる。
そして、ユウキは――跳んだ。
浮かぶように舞い上がる黒い体躯。
夜の空に浮かぶ三日月を侵食するように、その黒い影が月の輪の中に浮かぶ。宙空にあって折り畳まれた両の脚、それは無限に巡る力を丹田へと溜め、そして――銀月の放つ光の中央から、降る月光と共に放たれた足刀の蹴りが、獣の顎を貫いた――
闇に紛れる砂利敷きの庭へ、吹き飛ばされて倒れた獣。
その身体が、紫色の炎に包まれる。
グオオオオオオオオ!!!!
夜空に響く咆哮と共に、崩れるその獣の身体。
関節から、ヒビが生まれた甲皮から、体内に閉じ込めていた力が溢れ、弾け、ついにその身体が、爆散した――
轟音が止み、静けさの戻ったあとに立つのは、元の姿へと戻ったユウキのみ。
そしてその身体がくずおれて、ユウキは意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます