呼吸を整えろ:Bパート シーン4
瞬間、ユウキの全身を紫色の輝きが包んだ。
体内からユウキを蝕んでいた炎が、その身体の表に噴出し、鎧のように体を包む。
吹き荒れていた風が、逆流してユウキの周囲に旋風を巻いた。
それが獣と化したアキラの身体さえも押し戻す。
光が止んだ時、吹き荒れる風もまた、止んでいた。
窓から差し込む月の光が、静けさを照らしてどの姿を浮かび上がらせる。
甲皮に覆われたその身体は、赤味を帯びて黒色に鈍く輝き、二足で立つ甲虫のように、そして研ぎ澄まされた刃のように、鋭く引き締められたその立ち姿。
ユウキはその目で、獣の姿となったアキラを見た。
アキラ――その獣は、牙の生えたその口を開き、咆哮する。
その咆哮を正面から受け止め、ユウキはわずかに足を引いた。
肩幅よりも少しだけ開いた両足の幅。膝を内側へと絞り、重心をわずかに落とす。鎧のごとき甲皮に覆われた両の腕を、頭上へと伸ばし――それをまっすぐ、身体の前へと降ろす。左の掌は縦にして前に、右の掌は胸元に。顎を引いて真っすぐ前に目を据え、その身体が求める通りに、飽くまでも自然に、構えを取る。
「そうだ……戦う自分になれ」
セイスケがユウキの背後でそう呟き、そして意識を失った。
構えを取ったユウキに、アキラが迫る。
まさに獣のごとき、その身のこなし。
後ろ足で床を蹴り、弧を描くように身体を躍動させて、その爪をユウキへと突き立てる。
ガォン!
その一撃は空を切り、空間を弾いて唸りをあげた。
重心を崩すことなく、身体を横へと滑らせたユウキを、逆の腕での一撃が襲う。しかしその一撃を、ユウキは掌を返して捌き、同時にわずか、後ろ足へと重心を残して作ったタメを、爆発させるように繰り出した蹴りが飛ぶ。
前蹴りと廻し蹴りの中間の軌道を描いたその蹴りは、アキラが人間だったときには鳩尾であったあたりへと、ユウキの中足をめり込ませた。
蹴りの衝撃に弾かれて後方へと踏鞴を踏んだアキラへと、蹴り足をそのまま踏み込んで連撃をかけるユウキ。拳が、手刀が、掌打が獣の身体を捉え、不自然に盛り上がったその皮膚にめり込む。そして浮き上がった上体の、喉元にユウキの足刀が、突き刺さった。
文字通りに弾けて吹き飛んだ獣の身体は、窓を突き破って道場の外へと叩きだされる。
道場の外、塀に囲まれた砂利敷きの庭へ、その巨体が転がった。
破れた道場の壁から、ユウキがその黒い姿を現し、庭へと降り立つ。
道場から少し離れたビルの上。そこから道場の様子を見守っていた帽子の男が、ユウキのその姿を見止め、感嘆したように声を漏らした。
「……エクリプス……面白いな」
その口元に、再び笑みが浮かんでいた。
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