カップ半分だけ…
紀之介
不思議な注文。。。
「コーヒーを、カップ半分だけ頼みたいんですけど…」
初見の女性客の注文に、喫茶店のウェイトレスは戸惑います。
「えーとー」
「お金は、1杯分払いますから、お願いします。」
困ったウェイトレスは、カウンターに助けを求めました。
「マスター、どうします?」
「─ お出し してあげて」
ウェイトレスに指示した店主は、彼女に向かって微笑みます。
「お客さん、お金は半額で、結構ですから。」
店主の言葉を聞いて、嬉しそうに笑みを浮かべる女性。
彼女は、運ばれて来たコーヒーを、まるで常温の水でも飲む様に、一気に飲み干し、半額分のお金を払って、店を出て行きます。。。
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翌日、その女性客は、昨日とほぼ同じ時間に、店に現れました。
「─ すいません、コーヒーを…」
注文を聞いて、ウェイトレスが確認します。
「カップ半分で、宜しかったですよね?」
すると彼女は、こう答えました。
「いえ、普通に1杯で、お願いします」
彼女は、運ばれてきた熱々のコーヒーを、昨日と同じ様に一気に飲み干し、店を後にします。。。
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3日目も、女性客は同じ時間に、その喫茶店を訪れます。
「すいません、コーヒーを2つ、お願いします」
ウェイトレスは、彼女に確認しました。
「…お一人で、飲まれるんですか?」
頷いた女性客は、ウェイトレスに頼みます。
「2杯、一度に持って来てくださいね。」
湯気が立つ、淹れたてのコーヒーが運ばれてくると、彼女は、それが全く熱くないかの様に、一気に飲み干すのでした。。。
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4日目に店を訪れた女性客は、4杯のコーヒーを注文します。
「…やはりコーヒーは、全部を一度に?」
ウェイトレスの問い掛けに、頷く彼女。
そして女性客は、自分のテーブルの上に4杯のカップが並ぶや否や、湯気の出るコーヒーを一気に飲み干します。。。
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「昨日の8杯一気飲みも信じられなかったけど…」
6日目、女性客が帰るや否や、店主が呟きました。
「あの細い体で、まさかコーヒーを16杯の飲み干すとは。。。」
驚き感心する店主に、ウェイトレスは尋ねます。
「で、どうします?」
何を聞かれているのか判らない店主は、ウェイトレスに聞き返しました。
「…どうするって、何を?」
「明日、あのお客さん注文するコーヒー、32杯なんですよ?」
「─ 初日に半分で、次の日は1杯、それから2杯、4杯、8杯と倍々で、今日が16杯だから、まあ…そういう事になるよねぇ」
「色々大変な事はありますけど…そもそも、一度に入れられます?」
「一気に32杯入れるなら…コーヒーサイフォンが、後2つは必要になるのか…」
暫く思案した店主は、電話に手を伸ばします。
「…知り合いに、借りられないか聞いてみる」
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「いらっしゃいませ」
7日目のその日、いつもの時間になると、女性客は店にやって来ました。
そして、32杯のコーヒーを入れるために 万全の準備を整えていた店主とウェイトレスに向かって、こう注文したのです。
「コーヒーを、カップ半分だけ…お願い出来ます?」
カップ半分だけ… 紀之介 @otnknsk
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