CASE:13 渡部司

 その日、渡部司が死んだ。


 死因は、交通事故だった。

 休日に泥酔状態で赤信号の横断歩道に出てしまい、車にはねられ死亡したのだ。


 その知らせを初めに聞いたのは課長だった。

 司が、両親や兄弟といった身内や親戚の居ない天涯孤独かつ独身だったからだ。

 課長は、所属している全判定官に一斉メールを送信して、司の死を知らせると供に再生を希望するかどうかの確認を取った。

 司が、再生登録をしていなかったからである。


 再生登録をしていない者が死んだ場合、会社側や友人や知人などが希望すればクローン再生させることが、クローン法案で定められている。

 生前経済的理由などで再生登録できずに死んだことに対し、会社の事情や周囲の人間の配慮などで再生できるようにという措置だった。

 ただし、本当に再生できるかどうかは、希望者の経済事情にかかっている。

 なぜなら希望者が再生費用を全額負担する決まりになっている。死亡した当人の財産は他人の手で運用できないことになっているからである。

 この為、希望者が多数なら負担する金額も減るが、少数なら増えてしまい最終的には払えずに再生を諦めらめることになってしまうのだ。


 司の場合、課長は死んだのは自己責任であるとして再生を希望せず、同僚は司との付き合いがほとんどなく友人と呼べる間柄ではなかったので誰も再生を望まない中、一人だけ希望者が居た。

 司が、実施教育で指導した宮脇奈津だった。

 実施教育の際に世話になった恩を返したいという理由での申し出であった。


 費用全額を払い、再生番号取得後、指定した病院で司の判定が行われた。

 判定官であろうとクローン再生するには、判定を受けて許可を得なければならないからだ。

 そして、判定を終えた判定官に奈津は尋ねた。


 ”この人、再生できますか?”


      完

 

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クローン再生判定官 いも男爵 @biguzamu

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