作家を始めるおはなし。

愛知川香良洲

作家を始めるおはなし。

 ある晩の夜。ふと、ドアの開く音がした。ドアを開けた二人組はトコトコと部屋の中に入ってくる。

「なにしてるの?」

 耳の長い、ネコ科のフレンズらしい彼女が声をかけてきた。私は手を休め、顔を上げる。ちょうどいい、話の相手になってもらおう。

「いいところにきたね、私は作家のタイリクオオカミ。原稿の下書き中なんだ」

 そのフレンズと、もう一人、帽子を被った別のフレンズが手元を覗き込んでくる。どうやら興味津々のようだ。二人とも見たことのない姿だったので、おそらく今夜このロッジに初めて来たお客さんだろう。

「うわぁ! なにこれなにこれ!」

「これ、なんだか本によく似てますね」

 帽子を被ったフレンズ、なかなかの切れ者とみた。

「お、詳しいじゃないか。『まんが』っていうんだよ。また博士にたのんで本にしてもらうんだ」

 その後数日にわたるオバケ騒ぎがあって、犯人はまた意外だったわけだが、そのおはなしはさておこう。その事件が解決した後、帽子を被ったフレンズ──かばんちゃんというらしい──がヒトのフレンズらしいということを本人の口から聞いたのだった。そうだ、ヒトといえば思い出す「おはなし」がある。


   * * *


 自分が何のフレンズか分からなかった頃、他のフレンズから「としょかん」へいけば教えてもらえるということを聞き、私もそこへ行ったということがある。そして、博士たちから自分が「タイリクオオカミのフレンズ」だということを教えてもらった時は、それはもう心に染み渡るものがあったものだ。

 ヒトといって思い出したおはなしというは、その後のことである。

 博士たちの住んでいる「としょかん」には、なかなか面白いものがたくさん並んでいた。いわく、「本」というらしい。中を覗いて見ると、何やら、細かくて不思議な模様がたくさん描かれている。

「なるほど、興味深いなこれは」

「それはヒトの作り出した、本というです」

「文字を使って、情報がかいてあるです」

 博士たちはえっへん、と胸を張って言う。それはもう、誇らしげに。

「ところで、何が書いてあるんだ?」

「……それは博士たちにもわからないのです」

「おはなしが書いてあるといわれてるです。そういえば、ヒトの作ったおはなしにオオカミはたくさん出てくるです」

 ほう、おはなしか。自分が出てくるようなおはなしとはどんな内容か、少し気になる。

「どんなおはなしなんだ?」

 反射的に、博士たちへ尋ねていた。

「家を鼻息で吹き飛ばして丸呑みにしたり、ヒトをだましたりするらしいです」

「……そんなこと、どうやってするのか逆に聞いてみたいな」

 さすがに、そんなに鼻息は荒くない。それに博士いわく、そこまで強い息を吐けるのだったらフレンズの今でも何らかの特徴として残ってるはずだ。丸呑みは、どうだろう、してしまうかもしれないが。

「ヒトはオオカミを恐怖の対象としてみてたです」

「みんな、怖いおはなしは大好きなのです」

 怖いおはなし、か。自分がそんな「おはなし」の対象として見られていたのなら、自分で作ってみるのも悪くないかもなと思った。なかなか楽しそうでもあるし。

「その、『おはなし』を作るヒト、は何と呼ばれていたんだい?」

「『作家』というです。作家はものすごく賢いのです」

「われわれも賢いので作家なんて簡単にできるのです」

 あいにく、私も文字は読めなかったので当然書くことはできない。しかし「おはなし」を博士たちが知っているということは、何らかの他の手段があるはずだ。

「文字以外で書かれたおはなしって、あるのか?」

 もちろん、博士たちは知っていた。

「いい質問です。見せたいものがあるので、ちょっと待っているのです」

 そう言われ、博士たちは建物の奥へと消えていく。再び出ていくとその手には、一冊の本。

「これを見るのです」

「我々にもよくわかる本なのです」

 開いて見ると、そこにはまた、別の模様がたくさん描かれている。しかし、さきほど見た「文字」よりは細かくない。

「『まんが』っていうのです。われわれにもわかるように絵を使って描かれているです」

「絵、とは?」

「えんぴつを使って、見えているものを写すのです」

 なるほど、これを使って書けば、みなに自分の作った「おはなし」を読んでもらえるということか。なかなか面白そうである。

「ちなみに、作家は宿にこもっておはなしをつくってたです」

「缶詰めというのです」

「ろっじというところがあるので、そこでこもって書くといいのです」

 その後博士たちに「ろっじ」やらがある場所を教えてもらい、この「ろっじありつか」で「缶詰め」を始めたというわけだ。

 まあ、思い返すとなかなか恥ずかしい。おはなしを作るということは思ったより簡単ではなかったし、絵を描くにはまず、えんぴつの使い方から練習していく必要があった。色々と紆余曲折もあって、博士たちに一冊の本へとしてもらうまで至った時はそれはもう嬉しかったものだが、これはまたべつの「おはなし」。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

作家を始めるおはなし。 愛知川香良洲 @echigawakarasu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ