ボクと似た君と

リィム

ボクと似た君と

図書館で、見知らぬ文字を見かけた。

ラッキーさんに聞いても分からない。

博士さん達に聞いても分からない。

サーバルちゃんはそんなことより料理のイラストがたくさん描いてある本に夢中だった。


たった一文字。

その時忘れてしまっても良かったのだけど、何故か気になって、何故かとても素敵なことのような気がして、ボクは頭の片隅にそれを置いておくことにした。


サーバルちゃんとの旅の途中、何度もその文字を思い出した。

同じように木登りが出来た時、吹雪の中のかまくらで温かさを分け合った時、サーバルちゃんの可愛いウソに気付いた時。ぜんぜん違う場面、ぜんぜん違う場所で、どこか懐かしい感情が、何度もボクの胸を満たした。それがあの文字と関係しているような気がした。


「かばんさんとサーバルって似てるよね〜」

フェネックさんが何気なくそう言ってくれた時にも、あの文字が頭をよぎった。それと同時に、思わず帽子を深くかぶり直してしまうくらいすごく嬉しかった。

ただ、似てると言われて変な違和感もあった。だってボクはサーバルちゃんみたいに速く走れないし、高くジャンプできない。セルリアンと戦える爪もない。だから、全然似てないよ、って否定しようとした。

「全然似てないよ!」

でも、フェネックさんに詰め寄ったのは、サーバルちゃんの方だった。

「かばんちゃんは、手先が器用で色んなものを作れて、ジも読めてヒも平気で……ドジばっかりのわたしとは比べ物にならないくらいすっごいんだよ!」

「い、いえ!サーバルちゃんはいつも元気で周りを明るくしてくれて、自分より大きいセルリアンからも逃げない強い心を持っていて……ボクもそんな風になりたいって、憧れているんです」

「勇気ならかばんちゃんだって持ってるもん!」

「それはサーバルちゃんがいてくれるからだよ」

「ぜーったいかばんちゃんの方がすごいよ!」

サーバルちゃんは中々折れてくれなかった。サーバルちゃんが生まれたばかりのボクを助けてくれたから、ボクはここにいれるのに。ぜったいサーバルちゃんの方がすごいのに。

それをどうやって分かってもらおうか考えていると、フェネックさんがくすくすと笑い出した。

「そういうところだよ~」

はっ、と顔を見合わせる。サーバルちゃんの大きな耳がぴくぴくと動く。

あれ—―そうか、ボクたちって似てるのかも。長所も欠点も違うけど、頑張り屋でお互いが大好きなところはそっくりかも。サーバルちゃんも同じタイミングで気付いたのか、どちらからともなく笑い出した。抱きしめ合って、笑いを止める方法も忘れて、ただボクらが似ているっていうことを噛みしめた。




お日様をたくさん吸い込んだ黄金色の草と、乾いた土の匂い。ぎらぎら燃える太陽と、灌木を揺らすからからの涼しい風。ボクたちが新しく訪れた場所は、ボクたちが出逢ったさばんなちほーに似ていた。

今朝起きてから、ずいぶん長い距離を歩いていた。数少ない木陰を見つけると、サーバルちゃんが背の低い草へダイブする。

「きゅーけー!」

ごろごろと寝転がるサーバルちゃんの傍に、ボクも腰を下ろした。

ネコ科の本能を全開にして地面と草の感触を楽しむサーバルちゃんを見守ってみる。穂が実った植物を見つけると、丸くした手でじゃれついた。ぴょこぴょこ戻ってくるのが面白いらしく、夢中になってねこパンチを繰り出している。

平穏という言葉をそのまま表したような光景に、ボクはいつしか見惚れていた。サーバルちゃんがいてくれるだけで、心がひなたぼっこしているみたいに暖かくなる。ギュッと抱きしめてお礼を言いたくなる。

ふと、図書館で見たあの文字を思い出した。

座ったまま、砂地に指を走らせる。すらすらと流れるように指が動く。砂をかき分けた跡は、一つの文字を描き出していた。

「かばんちゃん、何してるの?」

こちらを興味津々に覗き込んできたサーバルちゃんは首を傾げる。

「これ、なんていうジ?」

「これはね……」

サーバルちゃんに説明しようとして、一瞬固まる。だって知らない文字を説明しようがない。でも、口はすぐに動いた。知らなかったはずの文字の読み方が浮かんできたから。正しくは、思い出した、という表現が合うのかもしれない。

「これはね、こい、っていうんだよ」

「……コイ?」

「うん、そうだよ」

「……うーん、わかんないや、どんなフレンズなんだろう」

「きっとサーバルちゃんみたいに素敵な動物だよ」

ボクもそれ以上は分からなかった。でもその懐かしい響きは、ずっと前、サーバルちゃんに出逢う前から知っていたような……って、ボクはジャパリパークで生まれたんだからおかしい話なんだけど。

「よーし、しゅっぱーつ!」

サーバルちゃんが飛び跳ねるように立ち上がる。その勢いには負けるけれど、ボクもすぐに立ち上がって、小走りで追いつくと横に並んだ。サーバルちゃんの後ろに付いていくことしかできなかった時と比べると、ずいぶん手をつなぎやすくなった。

目の前には壮大な草原が広がり、道なき道が続いている。これからの果てしない旅の中で、ボクらはまた色んな出逢いと別れを繰り返し、経験を重ね、成長する。お互いのことをもっと知りあって、かけがえのない二人になっていく。


いつか終わりが来るその時まで。

ボクとよく似た君と歩き続けていれば、恋という文字の意味も、思い出せそうな気がした。

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