《エピローグ》
ノビノが姿を消してからそろそろ五年経つ。僕はもうすぐ成人する。結局のところ父と二人で暮らしている。父の元で立派なオオカミになろうと思ったからだ。そしてノビノとまた暮らせるように。そのくらい立派になれる様に頑張ったのに。ノビノはいなくなった。
だけど僕は時々ノビノの気配を感じることがある。ノビノは律儀だから約束を守って、見つけられないけどどこか傍にいるんだと思う。
僕はノビノを幸せにしたかった。でもノビノはそうさせてくれない。口では僕を立派なオオカミに、そして最終的に自分を殺す様に育てていたという。けど、僕は結局未だに誰も殺したことがない。トドメは全てノビノがさしていたから。しかも僕の見えないところで。だから僕は他人の死を良く知らない。でもどうしたら死んでしまうのかだけはよくよく教えられたから知ってる。
それにノビノはいつだって僕の持ち帰った獲物を美味しく調理してくれた。そのせいで僕は血の味を覚えることがなかった。肉は食べれるけど、他の獣の様に死体を食らうことはできない。
父曰く。今は時代が変わってきてて政府の方針で昔の様に多くの殺しが出来れば優位になれる訳ではないらしい。むしろ、殺せない方が優遇される会社も多いとか……ノビノはそれを見越していたんだと思う。
ノビノのことを訊ねる度に父は口癖のようにこういう。
「あいつは歪(いびつ)だからな」
僕を育ててくれた毛を白く染めた黒ヤギ。草食動物のはずなのにとても強い黒ヤギ苦しい選択ばかりを選び、幸せになることができない黒ヤギ。
「“黒ヤギさんは歪んでる”」
夕方の雑踏で家路を目指す子ガラスを眺めながら呟いた僕の言葉に「酷いいわれ様だわ」と返答したその声は確かに彼女のものだった。
【黒ヤギさんは歪んでる】 恋和主 メリー @mosimosi-usironi
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