今度は甘いものなのです。

@Akis10

今度は甘いものなのです。

ここはジャパリ図書館。

アフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手は今日も知識を蓄え、ジャパリまんを摘まみながら来訪者を待っていました。

でも少し様子が変みたい……

「助手。」もぐもぐ……

「なんですか、博士。」まくまく……


「やはりジャパリまんは飽きたのです。飽き飽きです。」

「博士もですか。やはりかしこい我々の食事にはさきの様な"料理"が相応しいのです。」

傍に置いてあったジャパリまんをプチプチと千切りながら食べていた2人はその手を止め、じっと見つめ合って頷きます。


「そうなのです。我々はかしこいので、かばんの作った料理の味が忘れられないのです。じゅるり。」

「博士も、ですか。この助手もあの味が忘れられないのです。じゅるり。」

涎が出そうになるのを何とか堪えます。


「あの"かれー"というものもいいのですが、今度はもっと刺激の弱いものを食べてみたいですね。」

「博士もそう思うのです。またかばんに作って欲しいのです。料理は火を使うものばかりなので。」

なんとも洋々たる妄想だけが膨らんでいきます。

「……」

「……」


「行くですか。かばんの所へ。」

「はい。私もお供しますです。博士。」

2人を止める者は今は誰も居ませんでした。


博士と助手は少しの食材が入った袋を担ぎ飛び立つと、ジャパリバスから降りて湖の畔の東屋で立ち往生しているかばんちゃんとサーバルちゃん、ラッキービーストに追い付きます。3人(?)はペパプ達と別れてから迷っているみたいです。

「う~ん……港かあ……次はどっちに行けばいいんだろう……」

「かばんちゃんでもわかんないの?」

サーバルちゃんがひょいと地図を覗きこみます。

「ここら辺ちょっと入りくんでて……ラッキーさんも前より道が増えててわからないみたい……」

「ピーピピピ……ケンサクチュウ……ケンサクチュウ……」

「……う~ん、こっちかな……?」

そこへ音もなく博士と助手が降下してきました。

「かばん。」「サーバル。」

「「しばらくぶりなのです。」」

ふわりと舞い降りた2人がその変わらぬ表情で3人を見やりました。

「わっ!?ジョシュさん!?とハカセも!?なんで~!?」

サーバルちゃんの大きな声に2人は一瞬だけぺたんと耳羽を畳みます。

「うるさいのですよサーバル。我々はまた手助けしに来たのです。」「そうなのです。まさしく天の助け、なのです。」

博士達はふてぶてしい態度で、異音を放つラッキービーストとかばんちゃん、それにサーバルちゃんをジッと見詰めました。

「博士さん、助手さん。来てくれたんですか?」

かばんちゃんの嬉しそうな声色から、博士達は自分達が歓迎されていると感じます。

「ちょっと言い忘れたことがあったのです。かばん。サーバル。お前達に入山する許可をやるのです。」


「えっ?入山って……山のことですか?」

「そうなのです。お山のことなのです。」

「どこの山のことですか?」

「……」「……」

博士達は急に黙ってしまいます。


「あ、あれ……?博士さん?助手さん?」

「あれ?どうしたのー?ハカセ?ジョシュさん?」

「知りたかったら……?」「どうするのです……?」

「えー?何々ー?どういうことー?」

「あ、あー。料理、ですね。」


「さすが、かばん。サーバルと違って察しがいいのです。」

「そうだよねー!かばんちゃんって何も言ってなくても伝わることあるんだよ!隠し事してもすぐわかっちゃいそう!」

「あはは……」

かばんちゃんは照れ臭そうに頬を掻きました。


「幸い、ここも料理が作れる施設の一つ。道具もあるですし、材料も先にチョイしてきたのです。」「チョイチョイです。」

「ああ、最初からその予定だったんですね」

博士達は聴こえない振りをして続けました。

「ただし、今回は……」

「甘いもの、でお願いするのです。」

2人はキョトンとしています。

「甘いもの……ですか……?」

「そう。甘くて、」「辛くないものです。」


「砂糖というのはとても"甘い"らしいのです。」「"甘い料理"が食べてみたいのです。」

「甘いもの……僕の思い付いたもので良ければ……」

「期待しているのですよ。かばん。」「それではスタートなのです。」

材料と一緒にわざわざ持ってきた砂時計を博士はコトンと逆さにします。

「え~!?また~!?」

抗議の声を上げるサーバルちゃんに博士は

「だって、この方が面白そうなのです。」と、まるで子どものように無邪気に言いました。


まず材料の確認です。

使えそうなものは、小麦を挽いた粉、油、乾燥したフルーツ、ナッツ……しかし、肝心の砂糖が見あたりません。

「あの、砂糖は……」

「残念ながら砂糖はなかったのです……」「という訳でかばん。何とかしてみせるのです。」

「そうですね……」

かばんちゃんは少しだけ思案すると、湖の畔に群生している若いあしを短く切ってそれを確かめました。

「うん。よし、サーバルちゃん、少し手伝って欲しいんだけど……」

「わかったよ!今度は何を切るの?かばんちゃん!」

「この樹を引っ掻いて欲しいんだ。こう、下に向かって左右交互に……」

「任せて!うみゃみゃみゃみゃー!」

ズバッ!ズババッ!

「ありがとう、サーバルちゃん」

かばんちゃんがストロー状の葦を一番下の引っ掻き傷に軽く刺すと、そこからポタポタと水が垂れ始めます。


「これは……」「蜜、ですか。」

「はい。樹液です。これなら砂糖が無くても甘い物が出来ると思います」

「中々やるのです。」「さすがはヒト。」

「い、いやあ……えへへ」

「すっごーい!かばんちゃんのお陰だね!」

「サーバルちゃんのお陰だよ」

かばんちゃんとサーバルちゃんはお互いに笑い合います。


「キメの細かい小麦粉、油、樹液を容器に入れて混ぜて……」

「薄く伸ばしてから形を整えて、それを火に掛ける……と」

かばんちゃんが以前博士達に貰ったマッチを擦ってすぐに火を起こします。

それを見たサーバルちゃんと博士達は即座にその場を離れました。

「"まっち"を使いこなしてるですね。」「すでに手慣れているのです。」

「あれ"まっち"って言うんだね!」


かばんちゃんはフライパンに生地をぺたぺたと置いてたまにひっくり返して両面を焼いていきます。

「いい匂いなのです……じゅるり。」「じゅるり。」

「すっごくいい香り!」

ふわりと漂ってくる香りに3人は目を細めて溢れ出る涎を呑み込んでいました。


10分程で全ての生地を焼き上げると、かばんちゃんは木のお皿にそれを並べていきます。

「出来ました!クッキーです!こっちはナッツ入りで、こっちはフルーツ入りです。」

「おお、これが"くっきー"……サクサク。いただきます、なのですよ。サクサク。」

「これは……サクサク。あったかくて……ほんのり甘くて……サクサク。」

「もう食べてるじゃない!?」

博士達は既にお皿に乗っている分をパクパクと食べていました。

その様子をかばんちゃんとサーバルちゃんは微笑ましく見詰めます。

「ふう……満足なのです。今回も、」「合格、なのですよ。」

「やったー!さすがかばんちゃんだね!」「えへへ……」


「約束通り教えるのです。港へはこの道を左へ向かうといいのですよ。あっちの雪山を越えてサンドスターの出てるあの山の近くなのです。」「あそこは神聖な所なので、入るにはおさである我々の許可が要るのです。」

「あ、なるほど。だから許可って。」

「教えてくれてありがとーハカセ!」


楽しい時間でも別れはいつか訪れてしまいます。

「今度はかばんから作りにきて欲しいのですよ。このお土産はありがたく貰っていくのです。」

博士と助手の手には材料の入っていた麻袋が握られています。

今ではそこにたくさんのクッキーが入っていました。

「美味しいものを食べてこその人生。我々はまだまだおかわりを待っていますよ。かばん。」

「はい。絶対また行きますね!」

「またねー!」

「ジャア、シュッパツスルヨ」

ジャパリバスはまた出発します。今度こそヒトの居る場所へ。


「では、帰りましょうか博士。」「はいですよ。助手。」

飛び立とうとしたその時、やっとこさといった具合に2つの影が現れました。


「あれー!?ハカセ!?何で居るのだー!?くんくん……またいいにおいがするのだ!」

「くんくん……お~本当だね~、博士達は何をしてるの~?」

アライグマのアライさんとフェネックです。2人はジャパリバスを追い掛けて居た筈なのですが……


「お前達遅いのです。彼らはもう行ってしまったのです。」「左の道へ急ぐのですよ。」


「よ~し!待ってるのだ!帽子ドロボー!」ぐうう~……

「うう……このにおいをかぐと、なぜかお腹が空くのだ~……」

「アライさん、大丈夫~?」

フェネックがぺたんと座り込んだアライさんの肩を抱きます。

「どうしよう、ここら辺にはボスも居ないみたいだし~……」


「……仕方ないのです。これをやるから食べるといいのです。」「博士。」

助手の深茶色の双眸が博士をジッと見つめます。

「四神の場所を探るにはこいつらの持つ羽が必要なのです。これを食べて元気を出してもらうのですよ。」こしょこしょ。

「さすが博士。」こしょこしょ。


アライさんは初めて食べるクッキーに感激しながら全てを平らげます。そして誰が作ったのかを聴くと……

「これを作ったのはかばんさん!?やっぱり命の恩人なのだ!かばんさんはどっちへ!?」

「左の道なのです。」

「ありがとーなのだハカセ!早速行くのだ!」

すぐにぴゅーんと走っていってしまいました。

「あっ、アライさ~ん……行っちゃった。ありがとう博士~。お元気で~」

「お前達も」「セルリアンには気を付けるですよ。」

その2人を見送ると博士達はまた音もなく飛び立ちました。


「……しかし、"くっきー"……また無くなってしまったですね。博士。」「今度はじっくり待つとするのです。待ちきれなくなったら……またかばんを探すですよ、助手。」「ですね。博士。」

2人の表情は変わりません……ですが、微かに声に穏やかさが混じった様に聴こえるのはきっと、気のせいではないのでしょう。

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