第17話 眼鏡をかけた君が好き

 私には、好きな人がいる。


「俺さ、眼鏡やめてコンタクトにしようと思うんだよね」

 

 私の前の席の椅子に、背もたれをまたぐように座った彼が、不意に私に問いかける。私は、咄嗟に言葉が出ず、「そうなんだ……」ということしかできなかった。


「俺ってやっぱ、眼鏡よりコンタクトの方が似合うと思うんだよね」

 

 はしゃいだ声でそう付け加える。



 私は、自分の本音をうまく伝えることが出来ない。どうしたって、相手の気持ちを考えてしまう。今の私の本音を言って、相手は傷つかないだろうか。私は、嫌われないだろうか。そんなくだらないことを、考えてしまう。


 私は、変わるべきだと自覚している。このままでは私は、誰とも深い関係を築けなくなってしまう。


 そしてそんな私の性格は、彼を変えていってしまうのだ。大好きな彼を、大好きだったはずの彼が、どんどんと変わっていってしまう。私が好きなのは、眼鏡をかけたあなたなのだ。いつもは元気いっぱいで、輝く笑顔を見せるあなただけど、眼鏡を掛ければそれは美しくなる。皆が重視する、「かっこよさ」が生まれる。


 私が好きなのは、そんな彼なのだ。



「なあ、どう思う?」

 

 無邪気に聞いてくる。彼は、いつだって真っすぐだ。


 私は、そんな真っすぐな問いに本音を言える人間に、なれるだろうか。

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今日のお話 またたびわさび @takazoo13

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