第十話 新たなる師
その女性は軽い足取りで部屋に入り、俺と向かい合うように寝台の前で立ち止まる。
「ん? どうしたんですか? 皆して辛気臭い顔して」
藍色の瞳を大きく見開きながら首を傾げ、結い上げた桃色の髪が小さく揺れる。
リエラの様に容姿は整い美しく、リサの様な明るい表情を見せるその女性は、俺たちと同じく騎士団の服を身にまとっているが、俺達の青い服とは違い、彼女のものは赤色を基調としていた。どこかで見たことのあるその赤色が気になり、まじまじと見つめてしまう。
「えーと……。あ、自己紹介してなかったわね!」
目の前の女性は姿勢を正し、一つ咳払いをしてから口を開いた。
「私はオリヴィア。王国騎士団、国王直属近衛隊【キングスレイヴ】副隊長。オリヴィア・アーヴェントよ。よろしくね!」
そう言ってオリヴィアは、満面の笑みで締めくくる。
「国王……近衛隊……あ──」
その言葉で思い出した。あの時、王様と一緒にいた赤い服の騎士が来ていた服と同じものだということを、だがまたしてもこの様な人物がここに居るのかが不思議でならない。何とも場違いな所に居るのではないかと自分を疑ってしまう。
「ちなみに、隊長はローランドさんなんだけど、現時点では行方不明という事になってるから、私が隊長代理なんだけどね」
オリヴィアは、行方不明とわざとらしく強調した。副官ということなら、彼女も全て把握している側の人間なのだろう。
「……何用だ? アーヴェント卿──」
レインズロットが少し疲れたような口調で淡々と口にする。と言うよりも、彼女と関わるのが嫌だと言っているような気がしてならない。
そんな彼女は、何かを思い出したかのように両手を合せながら、朗らかな笑顔のまま口を開く。
「あ、そうでしたそうでした! トラフォード卿から、レインズさんへ決闘のお知らせに参りました!」
「……そうか。詳しく聞かせてくれ──」
決闘は十日後、あの場所でアルフレッドとレインズロットの一騎討ちをするというものだった。
あの時の続きと言うことなのだろう。あの赤髪の
だが、これでは何も解決にならない。あの二人が争う理由はどこにもない。アルフレッドは、俺に用があるはずだ。だからこそあの場に呼びつけた。彼女と俺の話はまだ終わっていない。そもそもまだ始まってすらいない。
だからこそ──
「レインズさん、その決闘……俺にやらせてもらえませんか?」
レインズロットから視線を逸らすことなく静かに、そして力を込めて言い放つ。
レインズロットも視線をそらすことなく、その真意を図ろうと俺を見ていた。しかし、最初に口を開いたのは、赤い服の女騎士だった。
「うん! 君ならそう言うと思ったよ。さすがは隊長の見込んだ騎士だね──」
不意のその言葉にオリヴィアへ視線を向ける。彼女は瞳を閉じて何かを懐かしんでいるような儚げな笑みを浮かべていた。
「実はね、向こうも君との決着を望んでるみたいなの。もしレインズさんが許すなら、オルトレイン卿と戦うのは君だよ」
オリヴィアは俺からレインズロットへと向き直る。紫瞳の聖騎士は沈黙を保ったままだ。
「現状では勝ち目が無いのは理解しています。ですが彼がその気なら、私が彼に力を貸します。隊長が託した想いを、私も守りたい──」
そう言ってオリヴィアは、真剣な表情で頭を下げた。それを見たレインズロットは小さく笑う。
「そもそもこの闘い、私に出る幕などはじめから無い。だが、アーヴェント卿。相手は騎士団最強、残された日数は少ない。それでも──」
「──やりますよ」
レインズロットの言葉を遮る。やれるかではない。やらなければならないのだ。譲れないものがある。俺にも、彼女にも──
「よし! 話はまとまったわね。さて、今日から私があなたの新しい師匠よ。厳しくいくから覚悟してね?」
そう言いながら、満面の笑みで手を差し伸べてくる。
「タクマです。よろしくお願いします──」
ロランに最初に助けられた時も、こうして手を差し伸べられたのを思い出してしまい、少し胸の奥が熱くなるのを感じながら、しっかりとその手を握り締める。
ルシア戦記 〜世界救済の十二勇士〜 毛糸 @t_keito_k
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ルシア戦記 〜世界救済の十二勇士〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます