第2話

目の前にいた小柄な男がこちらを見る。

こちらには憐憫の目線を送っている。そこで気付いた、彼が先程階段で俺に警告をくれた人だったのか。


「あのーーーー」


「申し訳ないが僕は君を守りながら戦い抜く力はない、頑張って生き残ってくれ」


突き放された。まあ仕方ない、この状況で人を庇いながら生き残れる人なんていないだろう。


周りを見渡すと刃物や重火器を持った人間が狭い闘技場の中をごった返していた。とはいえなんとか逃げるスペースはありそうだ。


そんなことを考えている時、ふと気づくと


「オラの斧で首をはねたい」


目の前にいた男が飛びかかってきた。これは避けられない。


死を覚悟したその時


「ぎゃあああああああああ、もっとオラの斧で首をはねたかった…… ギャオオオオオグシャアボカーーーンシュババーーン」


斧を持った男の顔が膨らんだかと思うと破裂した。死んだ。


振り返ると後ろで男が笑っていた。



「私の名前はDr.Jと申します、以後お見知りおきを。 どうでしょう私のJ.Gunは? 着弾した地点の細胞を異常増幅させて殺す。 最強の発明品です」


「ああっ止めてくれ、俺は巻き込まれただけなんだ」


「心配せず苦しめずに殺しますので」


Dr.Jがそう言った瞬間、彼は真っ二つに切られていた。


後ろを見ると先程の弟者が血にまみれた鎖鎌を持って笑っていた。


「見てよ兄者、俺も1人殺ったよ」


「弟者よ自惚れるな、俺はもう3人も殺った。 そこの雑魚を放っておいて奴を殺れ」


兄者と呼ばれた男は俺がいるのとは全く別の方向を指さす。助かったのか……



俺はひたすら逃げながら、その方向をふと見てみた。

そこでは1人の眼鏡をかけた男と先程俺に警告してくれた小柄な男が戦っていた。



「クックックッ私の発明品ウルトラ電気椅子の100人目の犠牲者になれることを誇りなさい」


「ほう貴様はデンデネ公国の処刑人ケチャッピか…… 確か自分の作った処刑具で罪の無い群衆を皆殺しにしたと聞いた」


「クックックッよく知ってるじゃありませんか、私はそれ以来処刑人の座を追われ今は暗殺者に身をやつすのみ」


男は電気椅子を取り出すとそれを投げ飛ばす。

が、もう1人の男は軽々とそれを交わすとどこからか取り出した拳銃を発砲した。


「残念ながら君ではない」


眼鏡をかけていた男は絶命した。

今何も手に持っていなかったのに一体どこから拳銃を取り出したんだ?


疑問も尽きず俺は自分の周りの敵の様子に気をつけながらなんとか彼のことを観察していた。



電気椅子使いを倒しほっと着いた男の元に弟者が襲いかかる。


弟者は鎖鎌を持って殺す気マンマンだ。


が、軽く投げ飛ばされ銃弾により絶命した。


「嘘だろ……」


弟者と呼ばれた男は身長は180cm以上あり非常に大柄な男だった、そんな男を身長150cm程度しがなかった男が投げ飛ばすとは……



「弟者をよくもおおおおおおおおおおおお」


兄者の方もそれを見て急いで襲いかかった。しかし、小柄な男は彼のメイスによる重たい一撃を一つ一つ受け流し交わしていく。



「いやダメだ、上手く受け流してるように見えるけど防戦一方だ。 追い詰められていく」



今にも兄者が仕留めようとしたその時ホイッスルが鳴った。


「これより試験終了、今残ってる人達はこれからの大切な同級生です。 死闘や私闘はこれ以降禁じます」



助かったのか……

どうやらこのふざけた試験は終わったらしい。

俺はその場にヘタヘタと座り込んだ。


兄者の方を見ると彼は怒りで打ち震えていた。


「俺は弟者の仇を取ってやらなくてはならねぇ、邪魔するやつは死ねぇ」


そして試験監督に突っ込んだ。彼は皮肉なことに最初に弟者にルールを確認するように言っていたはずだ。


「おいおいやめといた方がいいぜ」


試験監督は笑顔で声をかけるが無意味だった。

兄者は突っ込む、しかしその瞬間


「ぎゃあああああああああビシャコンドワッグチャアアア」


兄者は肉塊と化した。


「全く私の手を汚すとは…… 困った受験生もいたものです」


試験監督の手は赤く染まっていた。

かくして試験は終わったのだ。



入学用の書類を受け取り帰ることになった。


第二外国語何にしよう。そんなことを考えるとふと自分が大変な事件に巻き込まれてたことを気づき、生きてて良かったと思った。





ビルから出ると先程の小柄な男がいた。


「ちょっとこっちに来て」


彼にそう言われた。さっきまでは声を作っていたのか今の彼はかなり声が高かった。

俺と彼は二人で歩きながら話していた。




「えーっと君はさっき俺に警告をくれた」


「葉月楓だ」


「葉月さん、ありがとう。 で俺に何の用なの?」


「それは着いてから説明する」


ビルの近くの路地裏まで案内された。



「ここまで来れば大丈夫だろう」


スルスルと彼は深くまで被っていた帽子と真っ黒なコートを脱いだ。


「え!?」


コートを脱ぐとそこには1人の女の子がいた。


「君は女の子だったのかい」


「なんて鈍感なんだ。 僕もヒントは与えていたはずだよ、声の高さ身長それに名前」


「いやでも…… 君はなんで女の子なのにこんな過酷な戦いに身を投じたんだよ」


「それはこれから話す本題さ」


場の空気が変わり、彼女の目にも殺気が宿る。返答次第では殺されるかもしれない、そんな感じがする。



「葉月日進という男を知ってるかい」


「え、誰ですかそれは」


「僕の兄の名前だ。 僕の兄はこの東京大学殺人学部の首席だった。 そして……」


「そして、何?」


勿体ぶろうとしている。時計を見ると時刻はもう6時になろうとしていた、早くして欲しい。腹が減ったのだ。


「何者かに半年前暗殺された……」


「何だって……」


絶句する。


「もしかして君が理科四類に入ろうと思ったのは」


「そうだ、僕の兄さんを殺したその犯人を追うためだ」


「ちょっと待てよ、犯人を追うっていっても検討はついてるのか? 警察の仕事じゃないのか?」


「警察……? ああ無理だよ、そもそも警察に犯人が追えるわけがない。 僕の兄さんはプロの暗殺者だった、怪しい動きや気配にはすぐに気付く」


「つまりどういうこと」


「だから犯人は全く思いもよらないような人物だってことだよ、それも捜査が及ばないほどね」


楓はこっちを見て、そして拳銃を取り出す。


「なっ……」


「何も力も持たない君がこの試験を合格できるなんて怪しい、怪しすぎる。 だから今僕は君のことを疑っている」


楓は続ける。


「僕のお兄ちゃんを殺したのもきっと君みたいな奴なんだろう、全く力のない振りをした人間。 だから問おう、君は僕の兄さんを殺した犯人か?」


最悪な形の大学生活が始まろうとしていた。

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東京大学を受けようとした俺が迷い込んだのはとんでもない学部だった件 デデンネ齊 @saziki

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