第34話

 二日間は強行日程だった。

 まだ、バッシュ帝国の政治を担う家臣たちも決まっていないのに、ロザミアは戴冠の儀を行った。

 ロザミアは、少ない時間をつくって、信用できる人物に、帝国の家臣になってくれるように頼んでいたようだ。

 家臣になる志願者は大勢いるのだが、その中から、有能な善人、少なくとも、無能な善人を選ぶのがロザミアの仕事だった。

 アイザは近衛兵長になるものと思っていたが、ロザミアがそれに反対し、皇帝直属軍というものが新設され、おれとリーゼとアイザと神さまの四人だけで編成された。おれたちの地位はそこに落ち着いたらしい。

 ロザミア戴冠の儀。

 大観衆の前で、神官に冠をのせてもらい、後はパレードをして、表向きの儀式は終わった。裏の儀式というものがあり、神官がロザミアの背中の文字を見ることだった。

「おお、あなたはまさしくまちがいなく、皇帝の血を引くものだ」

 神官は涙を流して感動していた。

 ちなみに、おれたち直属軍も付き添っていたのである。

 おれは、リーゼに話かけた。

「おれたちの役目は終わったと思うんだ」

「どうしたんですか、救世主さま」

「その何だ。このままいくと、おれとロザミアは婚礼の儀を行うことになるじゃない。それで、リーゼとアイザは、ロザミアの女娼として囲われることになるんだけど、それっておれが望んでたハーレムをロザミアの後宮につくろうという計画なんだよね」

「そうだったんですか、救世主さま」

「でも、それって、ロザミアが可哀相だと思うんだ」

「はい、救世主さま」

「リーゼ、このまま、ロザミアに別れを告げて、おれと高位の魔道士を探す旅に出ないか。リーゼとは離れたくないんだ」

 リーゼは、恥ずかしげに微笑んだ。

「救世主さまがそうおっしゃるならどこへでも」

「ありがとう。リーゼ」

 おれは心の底からほっとした。それが誰かを別の形で傷つけてしまうということのも気づかずに。

「めかけは、救世主さまのものですから」

 リーゼはそういって嬉しそうに再び微笑んだ。


 翌日、戴冠したロザミアに、おれとリーゼの二人で旅に出ることを告げると、ロザミアはぼろぼろと大粒の涙を流した。

「行ってしまうのか、まこと」

「うん、ごめんな、ロザミア」

「行ってしまうのか、まこと」

 おれは慌てて弁解した。

「何も一生の別れってわけでもないんだよ。時々、帝都に帰ってくるよ」

 だが、ロザミアは涙を流しつづけた。

「行ってしまうのか、まこと」

「ロザミア様」

 アイザがロザミアを支えた。

「わらわは、戦いばかりしていて何も見えておらんかったのじゃろうか」

 おれとリーゼは、ロザミアのもとを離れ、旅に出発した。

「皇帝になろうと、悲しいものじゃ。わらわは振られてしまった」

 ロザミアの声が後ろから聞こえてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

気づかれぬままに神性の交換が行われた 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説