第33話
ロザミアがスニーク皇帝と対峙している場面になんとか、おれは間に合った。
アイザと神さまが雑兵をばったばったと斬り倒している。
ロザミアは、剣をスニーク皇帝に向け、指しかざしたままだ。
「悪い。ロザミア、遅れた」
おれは慌てて、謁見の間に入った。
「来たか、まこと」
ロザミアが微笑んだ。眩しいくらい嬉しそうな笑顔だった。
「スニーク帝国皇帝よ、貴様の反乱は鎮圧されることとなった。大人しく首をさし出せ」
ロザミアがいう。
スニーク皇帝は、きらびやかな衣装を身にまとった装飾華美な男だった。
「この大陸は、八百年の長きに渡って、権威あるバッシュ帝国が治めてきた。それを反逆し、帝位を簒奪しようとした汝の罪は重い。逆徒よ、悔しければ、このロザミア・バッシュと、正々堂々の一対一の勝負をしろ。帝国の帝位を決めるのに、それぞれの皇帝同士が一騎討ちするのに、異存はあるまい。まさか、臆して逃げるなどということはあるまいな」
ロザミアが啖呵をきった。
スニーク皇帝は、悪い夢でも見ている気分だった。せっかく、バッシュ帝国を滅ぼして、スニーク帝国初代皇帝に即位したと思ったら、生きていたバッシュ帝国の末裔に反乱され、しかも、報告では負ける寸前だというではないか。
スニーク皇帝は、魔王が死んだと聞いた時点で、すでに戦意を喪失していた。
戦力は、スニーク帝国の圧倒的に不利だ。シュナイク将軍を殺し、魔王を殺すような凄腕の集まりに勝てるわけがない。次元がちがうというものだ。
しかし、スニーク皇帝も考えた。
人生で一度も、一対一の戦いなどしたことがないが、もし、この女相手に勝てば、バッシュ帝国は崩壊し、スニーク帝国はまだまだつづくのではないか?
敵は女。恐れる必要はないのではないだろうか。
これは、むしろ、千歳一隅のチャンスなのではないだろうか。
何をバカなことを。
「余はスニーク皇帝であるぞ。一対一の戦いなど、受ける義理はない。ものども、早く、ロザミア姫の首をとれ」
スニーク皇帝は怒声で命令した。
「しかし、陛下、我が軍の兵はほとんどが殺されるか、降伏しております。ここはやはり陛下みずから陣に立っていただきたいと」
スニーク帝国大臣が進言している。
「おい、スニーク皇帝。なぜ、バッシュ帝国に反乱するのに、魔族の力など借りたのじゃ。それがどれほどの愚策か、気づかなかったわけではあるまい。魔族の力を借りて、帝国を支配しようという貴様らには、初めから勝ち目がなかったのじゃ」
ロザミアの叱責はつづく。
「魔族の力をなぜ、借りただと? この平民に生まれたおれが皇帝になるには、魔族の力でも借りなければ不可能であろう。この平民生まれのおれにしてみれば、バッシュ帝国の皇族貴族を虐げたのは、無類の喜びであった」
スニーク皇帝が答えた。
「貴様、正気か。自分が魔族にただいいように利用されていただけだと知らないわけではあるまい。スニーク帝国領内で魔族に食われたという被害報告は千件を超えるのだぞ」
ロザミアは詰問して、追い詰める。
スニーク帝国皇帝は答えた。
「まだ子供だった頃な。余は平民であった。その時、魔族の友人ができた気がしたのだよ。それがすべての始まりで、スニーク帝国のすべてだ」
「その魔族の友人はどこにいるのかな? スニーク皇帝」
「死んだのだよ。思えば、彼が死んでから、魔王が余に語りかけるようになった。思えば、あの時からすでに騙されていたのかもしれない」
その発言に、スニークの役人は騒然となった。
「なんということだ。我が皇帝は、魔王にたぶらかされていただけなのか?」
「とんでもないことだ。背信、背徳、売国奴のすることだぞ」
「おお、わたしは使える君をまちがえてしまった」
スニーク帝国の家臣にすでに皇帝への忠誠心はなかった。
「逆徒の夢をあきらめよ。わらわと一対一の勝負をせよ」
「そこまでいわれては、仕方あるまい」
スニーク皇帝が重い腰をあげた。
「決闘を受けよう、ロザミア姫」
スニーク皇帝が剣を抜いた。
スニーク皇帝は戦いにおいて、まるで素人だった。魔族を利用し、利用されるのが、彼の特技だったのだ。剣術は守備範囲外だ。
「逆徒スニーク皇帝の首を討ちとったり。この大陸は、今、再び、バッシュ帝国がこれより統治することとする」
ロザミアが斬り倒したスニーク皇帝を、侮蔑の目で見ると、降伏するものを募り始めた。
わあああ、と大歓声があがって、バッシュ帝国に再忠誠を誓うもので、あふれ返った。
大混乱しているが、魔王が死んだことにより、すべての魔族は魔界へ引き上げた。
大陸はバッシュ帝国のものとなり、ロザミア・バッシュは中興の祖として歴史に名を刻む。
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