第32話

 おれと神さまはロザミアのいる謁見の間に向かった。

 だが、途中、城の空中庭園で、リーゼが誰かと対峙しているのを見かけた。おれは

「神さま、回復魔法かけてやるよ」

 といって、神さまの傷をなおした。

 そして、

「神さまは急いで、ロザミアのところに向かってくれ。おれはリーゼを見てくる」

「わかったでござる」

 神さまは元気になって走っていった。

 おれは空中庭園のリーゼに会いに来た。リーゼが一人の老僧と睨みあっている。

「なんだ、その人は、リーゼ」

「救世主さま!」

 リーゼが笑顔で喜んだ。だが、すぐに、険しい顔に変わる。

「見つけました。高位の魔道士です」

「何!」

 おれは心臓が止まるかと思った。神をたぶらかすほどに高度な魔道士。それが、高位の魔道士。

 いかに、おれでも、戦って勝てるとは限らない。どう話し合うべきか。

「この魔道士は、おれを元の世界に帰せるのか」

「おそらく」

 リーゼが答えた。

「異世界へ行くつもりか。お主らのからくり、まだわしにはわからぬ」

 高位の魔道士が答えた。

「あなたは、善良ですか。悪人ですか?」

 おれが聞くと、

「スニーク帝国に仕えておるのじゃ。悪人に決まっておろう。国を売り渡した後じゃわ」

 とても、信用できる相手ではなかった。

 高位の魔道士が炎の魔術を使ってリーゼを攻撃した。

 だが、リーゼには効かない。

「なんで戦っているんだ?」

「この魔道士は、めかけの命を狙っているのです」

 なんだって。やばい。危険だ。おれの命だけでなく、リーゼの命も危険だ。そして、この世界が危険だ。

「リーゼ、おれは元の世界に帰るのはあきらめるよ。この魔道士を殺そう」

「本当によろしいのですか、救世主さま。少なくとも、生かしておかなければ、元の世界に帰る手段は、当分、見つからないと思いますが」

「いいよ、かまわないよ。こんな悪人に世界を任せられない。当然、おれとリーゼの運命も任せられない」

「救世主さまがそれでよいなら、めかけが退治します」

 魔道士は薄笑いを浮かべていった。

「このわしを倒すというが、簡単にできると思っているのかな。太陽爆発」

 なんだか、すごい高温で空中庭園が炎に包まれた。推定温度は、数万度。文字通り、太陽の爆発に匹敵する威力だ。

 だが、おれは無傷だし、リーゼも無傷だ。

「えい、ぽかぽかぽかぽかぽか。リーゼが殴り倒すです」

 リーゼが杖で魔道士を叩く。

「これ、やめないか。わしはもう体ががたがきておるのだ。あまり先は長くない」

 魔道士が泣き言をいう。

「高位の魔道士よ。あなたがスニーク帝国に身を売り渡したのはなぜです?」

 おれが聞いてみた。

 高位の魔道士は答えた。

「国を思い通りにたぶらかすのが楽しかったのじゃ。それだけじゃよ。負けるとわかっているスニークに手を貸した。今では、勝てるわけのないバッシュ帝国がわしを襲っておる。皮肉なものじゃ」

「それならば、もう一度、心を入れ替えて、バッシュ帝国の宮廷魔道士になってくれませんか。どうか、よろしくお願いします」

 おれは頭を下げた。

「ふむ、降参しろというのだな。確かに、攻め込んでいた兵はわずかなようだが、スニーク帝国は負けている。帝都陥落は目前だ。敗残のスニーク帝国につくよりは、今再び、バッシュ帝国に仕えようかのう」

「それじゃあ」

「待ってください。あなたが生きて許されるには条件があります。それは、めかけと救世主さまの仲を決して引き裂かないこと。催眠、死、遠隔追放、その他、どのような方法を使ってでも、めかけと救世主さまの仲を引き離すことを禁じます」

 リーゼはきつくいった。

 おれにはわからない。リーゼとこの高位の魔道士、いったい、どちらが強いのだろう。

 高位の魔道士は深く考えてから答えた。

「お主たちのからくりはまだわしにはわからん。だが、約束しよう。決して、お主たち二人を引き裂くことがないようにな」

「真実の精霊に誓え」

 リーゼが真実の精霊というものを呼び出した。

 高位の魔道士は、その高度な技に恐れを抱いたようだ。

「わかった。真実の精霊に誓おう」

 そして、その高位の魔道士が、決して、おれとリーゼの仲を引き離さないことで、契約が結ばれた。

「これでいいかな、リーゼ」

「はい。誓約を破れば、この魔道士の体は灰になります」

 そして、高位の魔道士を仲間にして、おれたちは謁見の間に走った。

「ロザミアがいよいよ、スニーク皇帝と戦うはずだ。急ごう」

 おれとリーゼは、謁見の間に急いだ。

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