ピロートーク
石田 昌行
「翔兄ぃ。ボク、赤ちゃん欲しい」
「突然何を言い出すのかと思えば……どうしたんだ、いきなり」
「だってさ、ほら。いくら籍入れたって言っても引っ越しはしてないし生活はいままでどおりだし、やっぱり夫婦としては何かこう変化が欲しいって思ったんだけど。駄目?」
「別にやることやってないわけじゃないし、いまのままでもほっときゃできるって。こればっかりは焦ってみてもしかたないだろう。違うか?」
「やだ、焦る」
「ふぅ……一応、そのわけだけは聞いといてやる。言ってみろ」
「翔兄ぃ、いま何月?」
「二月だな」
「でしょ。でさ、いま頑張ったら、赤ちゃん生まれてくる日をクリスマスイブに合わせられるかな~って思ったの。そしたら、その子の誕生日を結婚記念日と一緒にできてうれしいな、なんて思ったりしたんだ。それってなかなか素敵じゃない? 子供の誕生日と夫婦の記念日を一緒になってお祝いできるんだよ。こんなチャンス、滅多にないよ。だから」
「──って、それだけか?」
「うん、それだけ」
「下らん。死ぬほど下らん。で、おまえはそのどうでもいい目的を果たすため、俺にいったい何をしろと言いたいわけだ?」
「もっといっぱいして」
「……いまなんつった?」
「もっといっぱいエッチして欲しい」
「眞琴」
「何?」
「一昨日は何回した?」
「四回」
「昨日は?」
「三回」
「今日は?」
「え~っと、六回!」
「で、その回数を増やせと言うか?」
「うん!」
「十分死ねるわ!」
「あ、ボクなら全然大丈夫だよ。翔兄ぃに求められたら何回だって気の済むまで──」
「おまえが無事でも俺が死ぬ。ああ、楽勝に死ねる。四捨五入して不惑になろうって歳のオヤジに無理言ってんじゃないぞ、おい」
「え~、そうなの? だってこの間早苗から借りたイタリア書院の本読んだら、男の人は平均五回は大丈夫だって」
「それは、そもそもの参考資料が間違ってる」
「でも、新婚だよ、新婚。ボクもいろいろしてあげるから、翔兄ぃももっと頑張ろうよ。ね?」
「無理なものは無理。明日も早いんだからさっさと寝るぞ、ほら。オヤスミ」
「む~……翔兄ぃ。もしかして、ボクに黙って浮気してない?」
「……一体全体、何をどう考えればその結論に至るんだ?」
「だってだって、翔兄ぃったら最近妙にリンさんたちと仲良いしさ。やっぱりボクのこと妹みたいにしか思ってなくって、それでほかのコたちとエッチして満足しちゃって、それでボクの身体に興味なくなっちゃったのかなとか思ったんだもん……ああッ!」
「どした?」
「まさか、河合先生とヨリがもどったんじゃ──」
「いいかげんにしろ! 妄想もそこまでいくと害悪だ。俺を信じられないのか?」
「じゃあ、ちゃんと行動で示してよ! そうじゃなきゃ信じてあげない」
「行動って、おいまさか」
「そのまさか、だよ。まずはきちんとちゅーから始めて。もちろん手抜きはなしでお願いね。だって夫の義務だもん。ほら、ん~」
「……くそッ、この莫迦娘。あとになって『いじめられた~』なんて泣き言言わせないからな。覚悟しろ!」
「へへ~、やったァ! 明日から毎日、男の人が元気出る料理作るから、赤ちゃんできるまで頑張ってね。ショ・ウ・イ・チ・ロ・ウ・さん。んッ!」
「ッ……はァ……畜生、な~んでまたこんなことになっちまったのかねぇ。神さまのいたずらにしちゃあ洒落が効き過ぎてるぞ、まったく」
「えへへ、ボクはそのわけを知ってるよ。なんで翔兄ぃがこんなことになっているのか、そのわけを」
「?」
「それはね、ボクがずっとずっとず~っと魔法の言葉を唱えていたからだよ。『あなたのことが好きです』って」
ピロートーク 石田 昌行 @ishiyanwrx
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます