question-2

 彼の部屋へ『急なお泊まり』

 持っていないと次の日困るのは?


 1、着替え。

 2、化粧道具一式。

 3、イチャイチャを止める強い心。



 *answer*


 カーテンの隙間からこぼれる朝陽の眩しさが私を起こす。瞼を閉じていてもわかる、朝の感覚。



 昨日そんなに飲んだだろうか。

 まだまだ眠たい体と、火照った指先。

 私を包む彼の香り。



 …………彼の香り?



「おはよ」


 慌てて開いた瞳に一番最初に飛び込んできたのは、隣で横になる倉科さんの柔らかい笑顔だった。


「お……おはよう……ございます」


 顔から火が出そうとはこういうことだ。

 まだまだ眠い訳も、指先が熱い訳も全て全ていっぺんに思い出される。



 私、私……昨日、倉科さんと……!!!



 恥ずかしさが一気に込み上げる。

 すぐに彼の顔を見れなくなった。



「紗良」



 彼が私の髪を耳にかける。

 そのままさわられた耳たぶと、なぞられた頬。


「……く、倉科さ……」


 昨夜の余韻がまだまだ全身に残る私。

 彼に少しれられただけで甘くなったスイッチが入ってしまいそうになる。

 彼の指先は、戸惑う私を楽しんでいるように動いた。


「……倉科さん、ダメです」


 彼の胸に向けて放ったSOSは、簡単に流されてしまう。


「昨日、奏って呼ぶ約束したよね?」

「……そんな急に呼び捨てなんか出来ません」


 昨日、彼を抱き締めながら呼んだ名前。



『倉科さ……っ』

『奏だよ……紗良』



 私の耳元に唇を寄せて囁く彼の低い声。

 昨夜の二人が一気に甦り、さらに熱くなった。


「……倉科さんの意地悪」


 赤くなってしまった顔を隠したくて、布団を頭までかぶる。



「紗~良」


「やだ、見ないでください」


「紗・良」



 布団を握る手に力を込める。

 恥ずかしすぎて顔なんて見せらんない。

 そう思ってたのに。



 彼はズルい。



 かぶった布団の上からギュッと強く抱き締められる。



 頭上から聞こえる声。



「好きだよ」



 本当にズルい。



「紗良、顔が見たい」



 本当に本当にズルい。

 そんなこと言われたら、私の方が顔を見たくなるじゃないか。


 ゆっくりと手の力を抜き布団から頭を出すと、優しく微笑む彼がそこにいて……ぐちゃぐちゃになった私の髪を撫でた。



 彼の手櫛で解かれる髪。

 整った頃にわざとまた乱す彼。



「もう!」


 作られた前髪に膨れる私を見て、彼はクスクスと笑う。

 お返しに、両手を伸ばし彼の髪もクシャクシャとかき乱した。


 ワックスのついていない髪から広がるシャンプーの匂い。同じ香りを纏う自分に気付き手が止まる。



 彼の部屋で、彼のベッドで。

 彼から借りたTシャツとハーフパンツ。

 彼と同じ香りになった髪と体。



「……倉科さん」



 ぶつかる視線。

 ゆっくり近付く二人の額。



「紗良」



 そう名前を呼んだあと、彼は私の唇を奪った。



 長い長い口付けの最中、突然鳴った携帯のアラーム。

 一度止まり、また鳴り響く。


「く、……倉科さんっ」


 子供のように拗ねた彼が携帯に手を伸ばす。

 時間を確認した彼は、名残惜しそうに体を起こした。


「送ってく。準備もあるもんな」


 そう言い立ち上がった彼の背中に声をかけた。




「倉科さん、大好きです」




 振り向いた彼は頭の後ろを掻きながら、照れくさそうに『俺もです』と微笑んだ。

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