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倉科さんの匂いがする。
大好きな匂い。
ずーっとずーっと、嗅いでいたいなぁ。
「いいよ」
急に覚醒した頭。
見開いた目に飛び込んできたのは、彼の部屋着のグレー色と彼の胸にしがみついている私の両手。
「……く!倉科さん、い、今の!」
「おはよ」
見上げると、目尻にシワを寄せて微笑む彼がそこにいた。
「今の、声に出てたよ」
「……えー!?」
くすくす笑う彼は、からかうように私の頭を引き寄せ言った。
「もっと嗅いでいいよ?」
恥ずかしくて堪らないけれど、彼の胸の中で、だんだんはっきりしてくる記憶。
「……もしかして私……途中で寝ちゃいました……?」
「快人が酒勧めすぎなんだよ。ごめんな」
そう言って、彼は私の頬を撫でた。
「べ、べたべたしてるから触らない方が!!」
メイクも落とさず寝てしまったから……だから咄嗟に彼の手を離そうとした。
彼の部屋着にもファンデーションを付けてしまったかもしれない。
私は慌てて彼の胸元を確認した。
「……ごめんなさい」
彼の服にうっすらと移ったお化粧の汚れ。
もう遅いのに咄嗟に体を離そうとした。
「……やーだ」
すぐに背中に回された彼の両腕。
首を横にふり、唇を尖らせて駄々をこねる彼の仕草。
「……倉科さん?」
いつもより何だかとても可愛い彼。
ただ純粋に、なぜだろうと思った。
「ねぇ、紗良」
頭の上で響く声。
少し低くて優しい声。
『……やっぱり好きだなぁ』
――そう思ったちょうどその時。
「俺の声が一番好きなんだよね?」
へ?!
「顔も、手も、背中も。あぁ、あと、匂いも」
え?!
えぇ?!
「……倉科さん……もしかして私……。さっきの寝言だけじゃなくて……」
そっと見上げた彼の顔。
目に映る彼は、それはそれは嬉しそうに微笑む。
「快人も充も『ごちそうさま』って言ってたよ」
「えぇー」
「紗良を酔わすのもたまにはいいかも?」
「倉科さんっ!」
恥ずかしくて、小さく小さくなった私を彼はすっぽり包む。
彼の家族の前で私はどこまで口に出したのか全く覚えていない。
次に会う時どうしよう。
そんな心配事が新たに出来てしまった。
――でも――
「……俺も好きだよ。紗良の声も、目も、もちろん匂いもね」
やっぱり彼と過ごす週末は、甘くてくすぐったい特別な週末……でしたとさ♪
就業時間のそのあとも。 嘉田 まりこ @MARIKO
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